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【書評】大炎上した弁護士が教える「炎上しないツイート」は?

毎日のようにネット上で発生している「炎上」騒ぎ。私たちもいつ何時、そのターゲットにされてもおかしくないこのご時世、もしも巻き込まれてしまったらどう対処すべきなのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、炎上騒動で「実害」を被った経験を持つ弁護士が、そのメカニズムと回避策を解説した一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:唐澤貴洋『そのツイート 炎上します!』

そのツイート 炎上します!
唐澤貴洋 著/カンゼン

100万回の殺害予告を受けた弁護士が教える危機管理」と副題にある。100万回ねえ、まあ弁護士の言うことだから。ITに関連する法律問題の専門家らしい。弁護士駆け出しの34歳の時、ネット上の犯罪や誹謗中傷の問題に取組み、無謀にも炎上問題に向き合うことを決意した。それが後に惨事を招くとは知らずに。

唐澤貴洋のことは「ニコニコ大百科」の記事を見ればわかる。あることをきっかけに、彼はネット住民のあいだで取り沙汰される存在になり、個人名が晒され「炎上」した。この本では炎上のメカニズムから、炎上が起こった事例をもとにして、なぜ炎上したのかを解説炎上を避ける心がけを紹介している。

炎上の原因は、悪ふざけ、若い女性が政治的発言をしたとき、トップの軽率な発言、勘違い、ネット上のデマ、報道機関と記者に対する憎悪、モンスタークレーマーに対する義憤、政治家の失言、感情逆撫での無神経なツイート、従業員のプロ意識の低さ、そして炎上させる人たちの魔法の言葉「反日」がある。

なぜ炎上が頻繁に起こるようになったのか、それはスマホの普及SNSの普及のせいである。とくにツイッターは炎上の温床で、その理由は「短文で投稿できるという仕様」にある。途切れた文章でも投稿として成立するため、過激で不快な印象をダイレクトに伝えやすい。つまり「ツイッターのやりとりの中では怒りが生まれやすい」といえる。炎上するとその状況が数字で表示される。

どんどん人が集まってきて、注目度はさらに加速する。表現が正しいかどうかは多数決では決まらないが、数字が炎上の度合いの目安になっている。手元にスマホがあるせいで、投稿するまでの時間が短くなった。推敲しないで動物的な感覚ですぐ投稿してしまう。これも「燃えやすさ」に一役買っている。炎上の原因の一つは「怒り」だ。さらに炎上を煽る、大きなエネルギーでもある。

歪な「正義感」もそうだ。悪人の逃げ得を決して許してはいけないという義憤はわからないでもないが、その前提となる情報が間違っていたという例もある。ネットへの書き込みは匿名性が高いが、過信して誹謗中傷を書き込んで検挙される人は後を絶たない。炎上を焚きつけて「楽しむ」外野の存在も欠かせない。一旦炎上すると、それを燃やし続けるために、次々と燃料投下の必要がある。

攻撃のエスカレートである。そして、ネット上だけでなく、リアルな被害が出る。著者の場合は墓地を荒らされた顔写真もアップされた。これらの継続的な炎上はリアル社会のいじめの構造と同じだ。それはいつまで続くのか。いじめ側が飽きるまで、以外にない。ルールやマナー違反もよく炎上の材料になるが、「自分よりいい思いをしている」という妬みも炎上のキーワードだ。

炎上させる人のモチベーションは何か。炎上させることで誰かを追いつめる愉快犯もいるだろう。正義感をもって参加する人もいるだろう。「現代において炎上が私刑の役割を果たしているという事実」に、著者は大変な危機感を抱いており、炎上しないためにはどうすればいいのか提案する。

「SNSなしには生きていけない世の中だからこそ知っておきたい、ネット炎上のメカニズムと回避策」という本である。ツイッターは現在4,000万人以上、インスタグラムも3,000万人程度のアクティブユーザーがいる。彼らは自分とは何者であるかを家の外に出て拡声器を使って公表しているに等しい。匿名だから何を言っても大丈夫と信じてバカやってる人も、特定されて痛い目に遭う。

受け手が二極化している。まずは炎上しないために、要注意の話題は避けるという手がある。センシティブなものは持ち出さなければいい。貧富の格差、性差、LGBT、女性への性被害、マイノリティへの差別、美醜、他者への迷惑がかかることを想像させること、世代論、倫理観、安全保障問題・労働問題……などの政治的論点は避ける。ネットは表現の自由が保障された環境ではない

そうか、ネットの社会は著しく不寛容なのだ。あぶないあぶない。それでも、どうしてもなにか言いたい時は、表現される側や読み手に対する慎重な配慮が求められる。なぜそう思ったのか理由を書く、誰が受け取るかを意識する、投稿するまでに間を空ける。思いついたことを即投稿なんて、危険極まりない。ネット上のたった一瞬の判断ミスが、現実世界で大きな痛手につながって……。

ネットに投稿する前に身の周りの人に見てもらうのも、炎上を避けるひとつの方法だ。自分の投稿を客観視できる。覚悟を問われる機会を得ることができる。また、企業の広告宣伝とSNSは相性がいいが、適切な運用とリスク管理が求められている。ツィッターアカウントを広報担当者が一人で管理するなどというのは非常に危険である。危機管理意識が低すぎると言わざるを得ない。

〈はあちゅう〉というブロガーの先駆け・ネット時代の新たな作家を標榜する美人が著者と対談。ブログが日本に入ってきた2003年の翌年からブログを開始。当初はただの日記を書いていただけの“自分が見つけた居場所”を「有名人だからとこれくらいは我慢しろ」と荒らされ続けた恐怖と、精神的苦痛を語る。

さて、不幸にも自分のSNSが炎上してしまったらどうればいいのか?攻撃側は被害者が知られたくない、明らかにしたくない、弱いところを狙ってくる。まず第一に、次の炎上の燃料となるネタを与えないこと無視するじっと黙って嵐が通り過ぎるのを待つ。これがもっとも現実的で効果のある対応策だ。炎上させる相手と同じ土俵に上がらないように気をつける、ということだ。

ひどい誹謗中傷が続いたり、プライベートを盗撮されたり、居住地が明示されたり、学校や勤務先、両親や家族、恋人の情報が晒されたり、明かなプライバシー侵害が行われたら警察へ。「自分が被害を受けたという証拠を提示し相談する。著者のようなネットの人権に明るい弁護士に相談も。費用がかかるが。

一般人(私人)の場合の対応例を示す。反論をしないことアカウントを削除してSNSから存在を消す学校や勤務先に炎上している事実と現状を説明し自分に非があるならその旨をきちんと伝えて対応をお願いする。炎上で実害を蒙ったら、著者のような弁護士に相談する。この本、装幀はヘボいが内容はしっかりしてる。なにかと軽率なわたしは、SNSには絶対に近寄らない。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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