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入試改革の弊害か。勉学より集団適応力を求められる高校生の不安

大学入試における学力偏重主義からの路線変更は、高校生たちに思わぬ「弊害」をもたらしてしまっているようです。健康社会学者の河合薫さんは今回、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、「勉学の努力より学級集団に適応することの方が進学を左右するようになった」という記事を紹介。その結果として彼らが常に意識せざるを得なくなった「孤立への不安」の深刻さを指摘するとともに、「高校の役割」についての再考を促しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

仲間いない=ダメな人?

今回は日経新聞の教育欄(11月25日付朝刊)に掲載されていた「揺らぐ高校の役割 人間関係築く教育を」というタイトルの記事をとりあげ色々と考えてみます。

内容は高校生の実態に関するもので、筆者は中央大学教授の古賀正義氏。古賀氏によると大学入試で推薦やAO入試が増えていることから、「受験生の学力よりも高校での生活・学習態度を問う」ようになり、勉学の努力より学級集団に適応することの方が、進学を左右するようになったと指摘。

その結果、「教室でコミュニケーションのできる仲間を見つけられない孤立への不安」という、これまでにないリスクを高校生が感じるようになったとしています。

孤立への不安――。確かにありますね。といってもかれこれ10年以上前から「仲間至上主義」に走る学生たちを見て、その「不安」の存在は感じていました。

学生たちはものすごく仲間に優しい。それ自体は大いに結構だし、仲間を大切にするのはある種の美徳です。問題は、彼らが「みんなと一緒でなければいけない」といった意識を強烈に持ち、仲間と違う行動を取ることは「協調性がない」と捉えていたこと。

「仲間がいない」=ダメな人、「仲間に嫌われる」=人間失格という雰囲気が学生たちの間にあり、仲間を大切にする一方で、仲間に縛られる息苦しさを彼らから度々感じたことです。

そして、彼らは仲間の中での「自分のキャラ」を演じることに疲弊し、「本当の自分はこんなんじゃない。でも、キャラを演じないと…」と悩んでいました。

なるほど。古賀氏の理論に基づけば、学生の仲間至上主義の萌芽は、高校時代からあったということなのでしょう。

記事では高校生の退学理由に関するデータを掲載し、孤立への不安の深刻さを裏付けていました。

東京都内の都立高中退者を対象に行ったアンケート調査で、最も多い退学の理由は「遅刻、欠席などが多く進級ができそうになかった」という生活リズムの乱れ。次いで「友だちとうまく関われなかった」という人間関係の問題が多くなっていたのです。

学校での生活は、決められた時間に登校することから始まり、時間割にそった学習、昼食時間、休憩時間、掃除の時間が、毎日繰り返されます。こういった日常生活は「ルーティン」と呼ばれ、「2人以上のメンバーを巻き込んだ観察可能な日々の反復性のある行動」と定義されます。

ルーティンは代わり映えしないことの繰り返しなので軽視されがちですが、実際には「生きる土台を作る大切な行為です。人間は生物学的に、周期性、規則性のある行動を好む傾向があるため、1日のリズムがあることで肉体的にも精神的にも安定します。と同時にルーティンがあるからこそ「自分はこのグループの一員だ」という自覚が芽生え、居場所の獲得につながります。ルーティンは人の生きる力を高め、ストレスに対処する力も向上させます。

例えば、「朝ご飯は、必ず一緒にとる」というルーティンを大切にしている家庭の妻は夫への満足感が高く、ストレス対処力が高く、家族のメンバー全員の人生満足度が高いことがいくつもの研究で確かめられているのです。

こういったルーティンの役割を鑑みれば、前述した高校生の退学理由、「遅刻や欠席=ルーティン」と「友達関係=孤立」は密接に関係するだけではなく、その後の人生にも強い影響を残すことは明らかです。

思春期での人間関係は、人の生きる力の骨組みの重要な成分”のひとつなのです。

異なる能力、異なる価値観、異なる立場の人たちが、同じ目標の下、一緒に汗を流し、涙を流し、互いを認め合うことができた時、初めて“仲間”になります。均一でない個の集合体だからこそ、一人では決して手に入れることのできない大きなものを手に入れることができる。

高校で「授業に励む」「クラスメートと同じクラスで、同じ時間に勉学をする」経験はかけがえのないルーティンです。

大学がもはや就職予備校化している懸念は、何度も指摘してきましたが高学歴化が進む中で高校の役割とは何なのか?

みなさんのご意見、お聞かせください。

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年11月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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