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ローマ教皇の言葉が示唆。日本人が目指すべき倫理観とは何か?

38年ぶりに来日し、4日間滞在したローマ教皇の一挙手一投足をメディアはこぞって取り上げました。教皇が発したメッセージの中には、カトリック教徒ならずとも心に響くものもあったのではないでしょうか。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者で、さまざまな福祉活動に関わるジャーナリストの引地達也さんは、教皇が説く平和への思いや倫理性は、日本の文化伝統の中で自然に根付いた宗教的な感覚と合致する部分があり受け入れやすいと、この国が成立した時代に遡って読み解きます。

教皇が説く「倫理性」に私たちの国家の成り立ちとの合致

ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が来日し、原爆の投下された広島と長崎をはじめ日本各地で力強いメッセージを発し続けた。

核兵器の廃絶はもちろんだが、東日本大震災の被災者との面会の際は、東京電力福島第一原発事故に触れて「将来のエネルギー源に関し、勇気ある重大な決断をすること」を強く促した。

宗教指導者の言葉ではあるが、国際政治が機能していない核軍縮への停滞への憤り、被爆地でありながら現在は核軍縮に関して消極的な態度を示し、原発事故の後遺症への対応が示しきれていない日本にもそのメッセージは確実に向けられているはずで、教皇の言葉を受け止め、どのような行動をするべきか、考える必要がある。

この際に私たちの文化伝統の中で自然に根付いた宗教的な感覚と照らし合わせても、教皇の発言に応じる環境はあるはずであり、平和を希求する感覚はそう遠くはないはずなのだと信じたい。

仏教が伝来したのは600年代の推古天皇の時代であり、その仏教思想をもとに摂政だった厩戸王(聖徳太子)は冠位十二階制や17条憲法を制定し、私たちの国の形が出来上がっていったことは日本史の基礎。

冠位十二階は徳(とく)・仁(じん)・礼(れい)・信(しん)・義(ぎ)・智(ち)にそれぞれ上下を付けたもので、12階級には帽子の色が分かれていて、最高位は紫である。

一方の17条憲法の条文は今読んでも「道徳的な教え」に貫かれているのに驚く。「第1条 和をもって、貴しとなす」から始まり、厚く三法を敬うこと、礼の精神、物欲への慎み、善行の推奨、権限乱用を戒めている。

さらに「朝早く仕事に出て、夜遅く帰ること」は仕事への取組を示したものであるが、この古代に「残業」が美徳化された精神性は今も続いている。さらに真心や人への正しい評価、役割への責任と滅私奉公が示されている。最後の17条には、大事な事を一人で決めず、多数で相談することの必要性を示している。

この憲法が定められた時代を和辻哲郎は以下のように説明する。

「中央集権がほぼ完成し、西方の文化の摂取がきわめて活発となった推古時代において、我々はこの新しき意味における政治の理想が『憲法』として設定されたのを見る。
天皇が政治に神聖な権威を与えるものであることはここでも明らかに認められるが、かく権威づけられた政治が目的にするところは国家の富強というごときことではなくしてまさに道徳的理想の実現である。民衆の物質的福祉ももちろんここには顧慮せられるが、何よりもまず重大なのは徳の支配の樹立である。
儒教の理想と仏教の理想とがここでは政治の目的になる」(日本精神史研究)

この「国家」の成立は「徳の支配」であり、高い倫理観をもとに国家を動かそうという高い理想が示されていた。ここが私たち日本の原点だとすると、教皇の説く倫理はさほど遠いものではない

徳を最高位とし、その内容の憲法を読み解いた時、時の為政者は、それを都合よく解釈できるし、滅私奉公が高い徳だとの考えに結びつくから、人間が作り出した「徳」が明確ではない限り、その思想は不安定という面もある。だから、破滅に向かった太平洋戦争は無謀のもとに遂行されたともいえる。

絶対神がいるキリスト教やイスラム教はそれぞれの教義に違いがあるにせよ、絶対神の存在に俗人を寄せ付けない構造になっているから、宗教は信じる人にとっては偉大で絶対的な父となり母となるだろう。

私たちの精神史において、その父や母を見失ったのが戦後かもしれない。教皇の言葉から、私たちは目指すべき倫理観が示されたことに気づきたい。ここからわたしたちが、人類と共に幸せに生ける知恵を出すことに、生きがいを感じられる社会であればよいのだと思う。

image by: praszkiewicz / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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