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終生権力者か、死か。大統領引退後のプーチンを襲うロシアの現実

1月15日、ロシアのメドベージェフ首相が内閣総辞職で解任となり、プーチン大統領が指名した次期首相は無名の人物でした。プーチン氏はさらに、「大統領や議会の権限変更」の憲法改定も提案。これらの動きを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、ロシアでは既に「プーチン任期終了後」を見据えた権力争いが始まっているとし、詳しく解説しています。

プーチンは、なぜメドベージェフ首相を首にした?

ロシアのメドベージェフ内閣が15日総辞職。新首相には、「無名」といってもいい、ミシュスチン連邦税務局長官が就任しました。今日は、この話を。

ロシア政治の基本を抑えよう

まず、基本の話から。ロシアには大統領と首相がいます。大統領がトップで、首相がナンバー2。プーチンは2000年に大統領になりました。2000年5月~04年5月が1期。04年5月~08年5月が2期。この8年間、ロシア経済は、毎年平均7%の成長をつづけました。まさに、プーチンの「黄金時代」。07~08年、ロシア政府高官たちは、「ロシアルーブルを世界通貨にする!!!」などと豪語していたものです。そのくらい勢いがあった。

08年、プーチンは、大統領を辞めました。憲法の規定で同じ人は、連続2期までしか大統領になれない。それで、若くて何の基盤もないメドベージェフを大統領にした。08年5月~12年5月は、メドベージェフ大統領の時代です。プーチンは、名目上ナンバー2の首相でした。

メドは、基盤がないので、プーチンには逆らわないと思われていました。しかし、次第に彼は増長し、反抗的になっていきます。たとえば、11年のリビア戦争。プーチンは、この戦争に反対でした。しかし、アメリカ好きのメドは、国連安保理で拒否権をつかわず、事実上米英仏のリビア攻撃に「お墨付き」を与えてしまいました。さらに、「2期目への野心を語りはじめた。そう、メドは、プーチンを裏切ったのです。しかし、権力争いでプーチンに勝てず、結局2012年に引退させられました。

2012年5月、プーチンは、大統領に返り咲きました。メドの時代、憲法が改定され、大統領任期は4年から6年に延ばされています。それで、プーチン3期目は、2018年5月までです。首相は、メドがなりました。なぜ、プーチンは、裏切り者のメドをまた首相にしたのでしょうか?はっきりわかりませんが、メドをスケープゴートにしようとしたのでしょう。

3期目は、プーチンにとって、厳しい時代でした。2014年3月、プーチンは、クリミア併合を断行した。プーチンの支持率は跳ね上がり、9割近くに達した。しかし、それで、欧米日から制裁を科され、現在に至っています。ロシア経済はボロボロになり、プーチンの支持率も下がっていきました

2018年5月、プーチンは、4期目に突入しました。任期は2024年5月までです。その後どうする?日本国の首相みたく、安心して引退することはできません。プーチンは引退後、新大統領の潜在的脅威」になるでしょう。だから、「無力化」するために、逮捕されるかもしれない。あるいは殺されるかもしれない。少なくとも、ロシアでは、そう考えます。

政治家が死んだ。ロシア人は、「クトーザカザール?」(誰が殺しを予約したんだ?」と自分自身にも他の人にも質問します。たとえその政治家が病没であっても、「毒だな…」と考える。プーチンだって、同じように考えるでしょう。だから、彼は「死ぬまで権力にとどまる必要がある」のです。

現行の憲法のままだと、プーチンは、「連続2期務めた」ので、また「お休み」しなければならない。今度は、6年間他の人に大統領をさせ、自分はどうする?何の基盤もなかったメドでさえ裏切った。他の奴もきっと裏切るに違いない。6年も大統領してたら、当然そうなるよな。リアリスト・プーチンは、きっとそう考えるでしょう。

プーチンが24年以降も権力を維持する3つの方法

1つ目、憲法を改定し、制限を撤廃する。要するに、2期だけでなく、3期でも4期でもOKにする。いってみれば、習近平ですね。今まで、中国の国家主席は、任期5年2期までと決められていた。習はこれを廃し、合法的に「終身国家主席」になることができるようになった。

しかし、現状プーチンがこれをするのは難しいでしょう。理由は、07年のような圧倒的支持がないからです。これをすると、国際的孤立がさらに強まるだけでなく、政権を崩壊させるほどの大規模デモ、クーデターなどの可能性が高まります。

2つ目、08年~12年モデル。つまり、大統領に無力な男を据え、自分は首相になる。既述のように、これだと新大統領が裏切る可能性が高い。メドでさえ裏切ったのだから。

3つ目、カザフスタンモデル現状、プーチンは、これを目指している可能性が高いと思います。

中央アジアカザフスタンのナザルバエフさん。この方は、1991年から2019年まで、実に28年も大統領をしていた。誰もが、「ナザルバエフは、終身大統領だ」と思っていた。しかし、案外あっさり引退して、世界を仰天させました。ところが、彼は引退後も、国家指導者」という地位にある。さらに、「国家安全保障会議」の議長でもありつづけ、権力を保持しつづけています

プーチン、憲法改定を提案

プーチンは15日、憲法改定を提案しました。

プーチン露大統領、大幅改憲提案 下院に組閣委譲・任期制限 求心力回復狙いか

産経新聞 1/15(水)22:10配信

 

【モスクワ=小野田雄一】ロシアのプーチン大統領は15日、上下両院議員らに内政や外交の方針を示す年次教書演説を行った。プーチン氏は、現在は大統領が主導する組閣を下院主導にするなど、大統領や議会の権限を大幅に変更する憲法改正を行うべきだとの考えを示した。2024年の大統領退任を前に、ロシアで将来的な権力構造のあり方をめぐる議論が活発化する可能性がある。

 

ロシアの組閣は現在、大統領が下院の同意を得た上で首相を任命し、首相が各閣僚を選出する方式。プーチン氏はこの大統領主導の組閣方式を変更し、議会に首相の任命権を与えるべきだとした。議会に任命された首相が行う組閣を大統領は拒否できないともした。

 

このほか、現在は大統領が専権的に行える露連邦保安局(FSB)など治安・情報機関トップの任命について、議会との協議を必要とすべきだとの考えを表明。大統領任期に関しても、別の役職を挟めば何度でも大統領になれる「連続2期まで」との現行規定を「最大2期まで」に変更すべきだとも述べた。

プーチンの提案。まとめると、

これらの改革は、どれも大統領の権限を弱めるもの」です。なぜ、こんなことをするのでしょうか?そうプーチンの後に大統領になる人物が、弱い大統領」(^▽^)であるために。自分が大統領だった時は、強い大統領だった。自分以外の人が大統領になるので、弱い大統領にしよう。そういうことでしょう。

というわけで、プーチンは現状、「2024年に大統領を辞めよう」「新大統領は、弱っちい大統領でいてもらおう」と考えている。というわけで、プーチンは2024年、大統領を辞め、別の地位で実権を確保する道を模索しはじめたようです。たとえば、

改憲案には諮問機関である国家評議会(State Council)の権限拡大も含まれている。シンクタンク「R.Politik」のタチアナ・スタノバヤ(Tatiana Stanovaya)代表は、プーチン氏が退任後に国家評議会の議長として影響力を行使する準備を整えているようだと指摘。
(AFP時事 1月16日)

プーチンは、なぜメドを首にした?

私は、2つの理由があると思います。

1.スケープゴートとして

ロシアの現状は、非常に厳しいものがあります。GDP成長率を見ると、

00~08年、年平均7%成長していた国とは思えない惨状。経済低迷の主な理由は、2つでしょう。1つ目は、欧米日による経済制裁。2つ目は、シェール革命の進展で、原油価格が00年代ほど暴騰しなくなったこと。

最近、ロシアでデモが頻発しています。年金受給年齢引き上げ、ネット規制強化、モスクワ市議会選挙に反プーチン候補が出馬できなかったことなど。理由はいろいろありますが、根本的なものは、「所得が増えないむしろ減っていること」でしょう。

プーチンは、裏切り者のメドを、首相として使ってきた。しかし、国民の不満が高まってきたので、「スケープゴート」として使用したのです。

2.ライバルになる可能性があるから

これから、プーチンは、「2024年オペレーション」を推進していかなければならない。そうなると、メドみたいな男は、また裏切って「俺が大統領になろう!」と野望をもつ可能性がでてくる。だから、今のうちに切ったのでしょう。

新首相は誰?

さて、新首相になったミシュスチンとは何者でしょうか?ロシア人の99.99%は、数日前まで知らなかった無名の人物です。1966年、モスクワ生まれ。1989年、モスクワ機械・精密機器大学卒。1992年、同大学院卒。1998年、ロシア連邦税務局に入局。2010年、連邦税務局長官。2020年、首相に指名される。まだ情報は多くありませんが、これからいろいろでてくることでしょう。

いずれにしても、権力保持を目指すプーチンにとって一番重要なのは、新首相に野心がなくて、弱いこと。こうして、ロシアの「指導者デフレスパイラル」はつづいていきます。

image by: Northfoto / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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