中国での新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、「国家非常防疫体系」を宣言し中国との国境を事実上閉鎖した北朝鮮。「新型肺炎の発症者はいない」との主張を、メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で、北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんは、疑わしいと見ています。その証拠とまでは言わないものの、例年金正恩の父、金正日の誕生日に開催される中央報告大会がなかったことなどを伝えています。
武漢発・新型コロナウイルスを隠匿した金正恩
2月2日から8日まで某宗教団体が主催する国際行事に参加した。なんでもこの宗教の創立者の誕生100周年と後継者の妻の77歳の誕生日、それと2人の結婚60周年記念を祝って、ソウルで世界から2万5000人を集めて様々な行事を開催した。
誤解のないように説明しておくと、私はこの宗教の信者でもないし、またこの宗教団体が主催する行事への参加も積極的ではなかったが、唯一、後継者の女性の77歳の誕生日に際し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から花輪が贈られてきて、会場でそれが披露されたときは緊張してそれを見入った。
名前は金正恩ではなく「アジア太平洋委員会金ヨンチョル」名であったか。会場内の他の参加者はあまり興味を示さなかったようで、すぐに引き下げてしまったが、私には驚きであった。なぜ、金正恩がこの後継者の女性の誕生日に花輪を贈ったのか。
この宗教関係者によると、この後継者は、金正恩に場合によってはこの集会に参加した各国の代表団4000人を引き連れて平壌に行くと言って、金正恩から承諾を得ていたとのこと。この話は少し違うかもしれないが、ともかく、この宗教団体が大勢の訪朝団を計画しており、後は茶坊主の文在寅大統領が承諾すれば板門店を越えて行くとの話が進んでいたことは確かである。
それはそうとして、私が行ったときは(今もそうだが)中国武漢発の新型ウイルスによる症状が叫ばれており、韓国の仁川空港に到着し、検疫カメラの前でマスクをしない私に女性の係員が「なぜマスクをしていないのか?」という表情で、段ボールに入っていた韓国製の水色のマスクを渡してくれた。韓国人はあまりマスクをしないが、今回だけは違っていた。ほとんどの人が様々なマスクを使用していた。
この新型ウイルス騒動で、北朝鮮の金正恩委員長が2月16日の父、金正日総書記の誕生日にあたり、金正日と金日成主席の遺体を安置した平壌の錦繍山太陽宮殿を参拝したが、金正恩の動静が伝えられたのは1月25日に旧正月の記念公演を観覧した翌日に報じられて以来の3週間ぶりであった。
例年ならば、金正日の誕生日には祝賀のための中央報告大会が開かれていたが、今年はなく、さらにはこの宮殿を参拝するときには大勢の党や軍幹部を引き連れてきていたが、今回公開された写真では、随行者は党の主要幹部18人に限られた。本来ならば旧正月の時に6年ぶりに現れた金慶姫や金与正、李雪主なども参拝させるべきであっただろうが、大勢が集まる行事に身内を参加させることを避けたのだろう。
北朝鮮は、隣国の中国でのコロナウイルスの感染拡大を受けて、早くに「国家非常防疫体系」への転換を宣言し、中国との国境を事実上、閉鎖するほど、国内への感染流入に神経を尖らせてきた。金正恩自身もそれまで見られた「現地指導」などの公の場での活動を最小限に抑えていたようだ。
北朝鮮の『労働新聞』は「公共の場所でマスクを着用しない一部の誤った行動」を批判する記事を掲載し、北朝鮮はこれまで新型肺炎の発症者はいないと主張しているが、果たして本当か。中国発の新型ウイルスによる発症者は中国との周辺国家ばかりでなく遠くヨーロッパやアメリカにも発症者が出ているのに、中国と国境を接している北朝鮮で発症者が1人もいないとはどういうことか。いち早く国境を封鎖し、感染流入を防いだというが信じられない。
北朝鮮が中朝国境を封鎖したのは1月30日あたりからと思われるが、北朝鮮は脱北者の中国からの送還も拒否しているとのことで、国境沿いでの密輸行為にも厳しく当たっているようだ。金正恩としては「我が国には感染者は1人もおりません」と中国の習近平主席に媚を売っているように見える。
また万が一、「現在3、4人の感染者がいます」などと言ったら、今度はいちいち国際社会に経過を報告しなければならない。しかし、「1人もいない。徹底した防疫体制をとっているのでこれからも発症者は出ない」と言っておけば、国際社会からあらぬ疑いもかけられないものの北朝鮮の発表は信じられない。もう少し経過を待つとするか。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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