MAG2 NEWS MENU

危機管理の専門家がクルーズ船の下船対応を危惧。反論にもひと言

他国と違い、クルーズ船内で陰性のまま一定期間が過ぎた乗客を隔離することなく帰宅させた日本政府。船内の隔離措置に問題がなかったことを主張したかったのでしょうが、下船者から次々に感染者が表れ、不安は現実のものとなっています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは、この帰宅措置について危惧を表明。それに寄せられた反論にも的外れであると指摘しつつ、政治家の決断の必要性を訴えています。

色んなことを言ってくれるねぇ

新型肺炎(新型コロナウイルス感染症)、なかなか収束の兆しが見えませんが、いかがお過ごしでしょうか。先々週、日本政府の対応について次のようなコメントをNews Picksに投稿しました。

「日本政府は、いまからでも遅くないから、クルーズ客船から下船した乗客を、少なくとも2週間にわたって隔離すべきだ。陰性だった乗客が陽転し、発症した場合、風評と相まって日本のイメージと信頼性をダウンさせることは間違いない。   それが意味するのは、日本との経済関係に危惧を抱く国家や企業が続出する恐れだ。少なくとも各国が実施している2週間、政府が隔離施設を確保し、不自由を受け入れてもらえるよう、手厚く対処すべきだ。日本経済がダメージを受けることは、隔離対象の人々の生活に打撃を与える問題として、理解してもらうしかない」

おおむね、肯定的なコメントを頂戴したのですが、なかには首をかしげたくなるようなご意見もありました。その場にいたら反論し、場合によっては問い詰めたくなるようなものです。例えば…。

「事態収拾に当たる人々に対して、無理難題を要求すべきではありません」

「法律に阻まれている現場に何をしろというのか」

そして、私がラジオ日本の「マット安川のずばり勝負」(2月21日)で放送した同じ趣旨の発言についても、「加藤さんを過大評価してませんか?先を読めない加藤さん、危機管理が出来ない加藤さん」というご意見がありました。加藤さんとは、加藤勝信厚生労働大臣のことです。

まず、「事態収拾に当たる人々に対して、無理難題を要求すべきではありません」ですが、これは神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授のコメント(クルーズ船内の管理はずさん)に対する反発も込められていると感じました。

私が言いたいのは、現場の努力は認め、激励したうえで、さらに何をなさなければならないのか、感染を拡大させないためには、どういう取り組みが必要なのか、それについては外部の意見にも耳を貸さなければならないのではないか、ということです。

「現場は頑張っている」だけでは、自分たちがやっているのは正しいのだから「外部の人間は黙っていろ」というのに等しく、厚労省の中のタチの悪い役人と同じ考えだと言わざるを得ません。私は言いたい。「現状でいいのか。だから、どうするんだ!」

2番目の「現場は法律に阻まれている」ですが、これも、「だから、どうするんだ!」と言いたい。官僚機構が法律を守って仕事をするのは当然です。しかし、法制度が十分でない結果、適切に対応できないケースはそこかしこに見られます。法制度の改正を待っても構わない場合ならともかく、国民の生命財産に関わる場合は、それでは困ります。法を守って国が滅びる結果になりかねないからです。そこで政治の出番です。

1977年9月の日本赤軍によるダッカ日航機ハイジャック事件の時、要求に従って600万ドルの身代金を支払い、6人の収監メンバーを超法規的措置で釈放した福田赳夫首相は、「一人の生命は地球より重い」という言葉を残しました。これは、テロリストの要求を受け入れてはならないというテロ対策の鉄則を無視し、テロリストの同様の犯行を助長するような姿勢だと、国際的に批判されましたが、新型肺炎は違います。日本国民の安全を図り、世界に貢献するためにも、政治は前に出なければなりません。

安倍首相は、数週間~数か月の期限を切って超法規的措置を講じ、その間に与野党を挙げて特別措置法など必要な法制度を整えるのです。それが政治のリーダーシップというものではないでしょうか。それができないでいるとしたら、役人におんぶに抱っこの傀儡政権という汚名を残すかも知れません。

日本本土から離れた場所で戦争が戦われているのに、非常事態だからということで超法規的措置を講じるといったことは、絶対にあってはならないことです。しかし、新型肺炎は国民全員が最前線に置かれているのと同じような有事なのです。それを座視することは政治の責任放棄です。

3番目の、「加藤さんを過大評価してませんか」には、こう答えておきましょう。「ほかに誰がいるの」。加藤さんは専門家ではないから、ときどき間違いもするし、肝心の厚労省自体の対応も問題があるから、批判が出るのは当然です。その矢面に立つのは大臣です。「先が読めていない。危機管理ができない」といった罵声も浴びます。

しかし、その肝心要の大臣が、腹が据わっていて、頭脳も明晰な人物でなかったら、どんなに混乱した事態が生じるか、わかったものではありません。いまの自民党を前提とする場合、ほかに適任者として誰がいるのでしょうか。

とにかく、色んな意見が飛び交うのは結構なことですが。無責任な言辞は、時に腹が立つこともあります。聞いた風なことを言うんじゃない!と、みんなで空に向かって怒鳴ってみましょう(笑)。(小川和久)

image by: A Periam Photography / shutterstock

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け