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パンデミックへの国際的な対抗手段は、本当に「分離」で良いのか

新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し、国際社会は壁を作り、相互の行き来を厳しく制限する事態となっています。対策として致し方なくとも、そこには強力なリーダー主導による「国際協力」の要素は感じられません。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんは、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の論文を紹介。トランプ氏登場以降加速した自国第一主義による「分離」が、今回の危機を契機に「協力」へと変化することを期待しています。

新型コロナウイルスを克服するための信頼と協力のケアに向けて

新型コロナウイルスの不安は増大したまま収束が見えない。制限と自粛の要請の連続に閉塞感だけが漂う。光が見えないのは問題解決への希望を託す「国際社会」が機能していないからだと歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏が指摘する。

協力すべきなのに、分断しか方法はないとしている現状、国際協力を主導するリーダーの不在、を嘆いている。原文は3月15日付の英誌「タイム」の論考だが、ネット上には柴田裕之氏の邦訳が出ており、それに基づいて紹介したい。ハラリ氏は書き出しでこう示す。

「多くの人が新型コロナウイルスの大流行をグローバル化のせいにし、この種の感染爆発が再び起こるのを防ぐためには、脱グローバル化するしかないと言う。壁を築き、移動を制限し、貿易を減らせ、と。だが、感染症を封じ込めるのに短期の隔離は不可欠だとはいえ、長期の孤立主義政策は経済の崩壊につながるだけで、真の感染症対策にはならない。むしろ、その正反対だ。感染症の大流行への本当の対抗手段は、分離ではなく協力なのだ」

ここから「分離ではなく協力」と視点を変えてみる。協力の基本は信頼関係にあるのだが、社会の信頼関係が損なわれたところにウイルスがやってきた、ようにも思う。

「今日、人類が深刻な危機に直面しているのは、新型コロナウイルスのせいばかりではなく、人間どうしの信頼の欠如のせいでもある。感染症を打ち負かすためには、人々は科学の専門家を信頼し、国民は公的機関を信頼し、各国は互いを信頼する必要がある。この数年間、無責任な政治家たちが、科学や公的機関や国際協力に対する信頼を、故意に損なってきた。その結果、今や私たちは、協調的でグローバルな対応を奨励し、組織し、資金を出すグローバルな指導者が不在の状態で、今回の危機に直面している」

という。無責任な政治家とは誰だろう。さらに実例として2014年のエボラ出血熱の大流行した時の米国の役割と今とを比較する。

「エボラ出血熱が大流行したときには、アメリカはその種の指導者の役をこなした。2008年の金融危機のときにも、グローバルな経済破綻を防ぐために、率先して十分な数の国々を結束させ、同じような役目を果たした。だが近年、アメリカはグローバルなリーダーの役を退いてしまった。現在のアメリカの政権は、世界保健機関のような国際機関への支援を削減した。そして、アメリカはもう真の友は持たず、利害関係しか念頭にないことを全世界に非常に明確に示した。そして、新型コロナウイルス危機が勃発したときには傍観を決め込み、これまでのところ指導的役割を引き受けることを控えている。たとえ最終的にリーダーシップを担おうとしても、現在のアメリカの政権に対する信頼がはなはだしく損なわれてしまっているため、進んで追随する国はほとんどないだろう。『自分が第一 ミー・ファースト』がモットーの指導者に、みなさんは従うだろうか?」

この指摘は日本の寄る辺もないような政策決定の不安定さにもつながっているようにも思う。ハラリ氏は米国の自国第一主義により「今や外国人嫌悪と孤立主義と不信が、ほとんどの国際システムの特徴」と指摘しており、日本も同様であろう。だから、再度信頼を構築できないかと考える。ハラリ氏の論文も希望を示し結んでいる。「目下の大流行が、グローバルな不和によってもたらされた深刻な危機に人類が気づく助けとなることを願いたい」とし、

「今回の危機の現段階では、決定的な戦いは人類そのものの中で起こる。もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう」

論文のタイトルはネット上では「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか──今こそグローバルな信頼と団結を」であったが、誌面では「リーダーのいない世界での疾患」(Disease in a world without a leader)だった。私たち社会の「ケア」が試されているのだ。

image by: Igor Shurin / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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