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緊急事態宣言も強制力なし。専門家が欲する台湾式リーダーシップ

4月7日、7都府県を対象に緊急事態宣言が発出され、対象地域の各知事は、外出自粛や施設の利用制限などを要請、指示できますが、いずれも強制力はなく罰則もありません。これでは無症状の感染者の外出は止まず、政府や各自治体が意図する封じ込めの実現に不安が残ると指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんです。小川さんは、ロシアと台湾のような強力なリーダーシップを発揮し、超法規措置も必要だと持論を述べています。

台湾とロシアのリーダーシップ

4月に入って、日本でも新型コロナウイルス感染症への対策が進み始めたようです。医療崩壊を防ぐために、症状のない人や軽症者について自宅療養やホテルへの隔離措置が打ち出されました。停滞する経済活動の中で困難に直面している人々、とりわけ生活困難者に対しては自己申告による30万円の支給が決まりました。一住所当たり2枚のガーゼマスクの配布には異論反論が続出しているようですが、ともかく日本なりに動き出してはいます。

しかし、懸念は残ります。自宅療養です。まず家族への感染が心配ですから、療養者用の個室があるかどうか確かめる必要があります。また、自宅療養になっても、出歩く人は跡を絶たないでしょう。それを阻止する方策はどのようにするのか。

ホテルを活用した隔離にはアパグループ(国内5万室以上)が名乗りを上げてくれました。オーナーの元谷外志雄氏の勇断は高く評価されるべきだと思います。日本財団も笹川陽平会長の号令のもと、船の科学館(東京)とつくば市の所有地に大型テントを展開し、1万人を収容する態勢を整えています。しかし、問題は政府です。勝手に出歩く人への取り組みは見えてきません。

どうしてこんなに後手後手なのでしょうか。それはリーダーシップの問題です。少なくともロシアのプーチン大統領や台湾の蔡英文総統の姿勢に見習う必要があると思います。

ロシアのプーチン大統領は2日、テレビを通じてロシア全土で経済活動を休日並みに抑制する「非労働日」の期間を今月末まで延長すると宣言しました。「やり過ぎと言われようとも、必要なことはやる!」

そして、国内対策を進めるとともに、クリミアの併合問題などでロシアに制裁を科している米国に対して、救いの手をさしのべたのです。米国に対しては、医療用のマスクや機材を積んだ大型輸送機が派遣されました。同様に経済制裁を続けている西欧諸国にも支援策を打ち出しています。

これは、プーチン大統領の「コロナ外交」とも呼ぶべき側面がありますが、非難される動きではなく、トランプ大統領も受け入れることになったのです。

もっと明確なリーダーシップを示しているのは台湾の蔡英文総統です。特に、自宅療養者などに対する措置は徹底しています。時事通信は、自主隔離を義務付けられているのにクラブに遊びに行っていた男性に、なんと100万台湾ドル(約360万円)という高額の罰金が科されたと伝えています。

どうして、遊びに出かけたのがわかったのでしょうか。台湾政府は現在、すべての外国人の入国を禁じ、帰国した市民全員に2週間の自主隔離を義務付けていますが、隔離下にある人々は携帯電話のGPSとメッセージシステムで監視されており、自宅を離れた場合には警察に通知がいくことになっているのです。隔離対象者が公共交通機関を使った場合、100万台湾ドルの罰金が2倍になる可能性もあるとのことです。

蔡英文総統は「台湾は決して傍観せず、各国と防疫協力を強化する」と宣言し、対策費を1兆500億台湾元(約3兆7100億円)規模に拡大し、感染が深刻な国の医療関係者に対しマスク1000万枚や医薬品、技術を提供する用意があると表明しています。

これほどの動きができる背景には、台湾のコロナ対策のトップに公衆衛生学の専門家がいて、中央感染症指揮センターを司令塔として動いているからでもあります。また、対立関係にあるとはいっても、一方で深い経済関係を持つ中国に対してさえ、何の忖度をすることなく早々と入国禁止措置をとり、これも大きな感染防止効果に結びつきました。

台湾のコロナ対策を率いるのは陳建仁副総統。公衆衛生学の専門家にして、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)対策を指揮したエキスパートです。当然、蔡英文総統の支持率は60%にまで跳ね上がりました。

日本も感染を拡大させないためにはロシアや台湾のようなリーダーシップが必要なのです。緊急事態宣言を出すかどうかでふらふらし、宣言すれば出てくるだろう批判ばかりを話題にしている会議は、いまは不要です。この緊急事態に会議で時間を空費しているのは、政治家も官僚も頭の構造が平時型だからです。

ここは意識して有事型に発想を切り替え、超法規措置を含めて乗り切って欲しい。超法規措置はコロナ終息への展望が出たら解除しますし、不備な法制度は同時進行で整備するだけのことです。まずは感染拡大を阻止し、最低限の生活を支えるという命の問題に持てる資源を集中するのです。超法規措置で生じた問題の解決はそれからでよいのです。

そんなことくらいで、独裁国家になるなどと騒ぐなかれ。日本は、そんなに未熟な国だったのでしょうか。(小川和久)

image by: glen photo / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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