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極めて日本的。総務・人事・経理部門がリモート化できない理由

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、各企業でリモートワークの動きが広がっていますが、対応が難しく出勤を余儀なくされる職種も少なくありません。中でもアドミ業務と呼ばれる総務・人事・経理部門が顕著ですが、この3部門のリモート化が進まないのはどこに問題があり、それに対しどのような対策を取るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、「財界や監督官庁が制度で攻めるべし」としてその具体的な内容を提案しています。

新型コロナウィルス問題の論点(1)コロナ死亡数の誤差

NYでは、コロナ死者の「カウント漏れ」が指摘されています。というのは、市町村から上がって州がまとめる毎日の感染者、死亡者情報とは別に、「在宅死」が異常値になっており、どうやら毎日200名ぐらいが「通常の年より多く」なっているのだそうです。

恐らくこの数字はコロナ患者の肺炎死亡だということで、現在、特にNY市警などが調査中です。まだ憶測の域を出ませんが、発生がブルックリン区、クイーンズ区に集中していることから、コロナ診療が無料化されていることを知らず「無保険なので医者に行かない」とか、NYでは危機に際して移民摘発活動を強く規制していることを知らずに「不法移民なので病院に行ったら危険」と思い込み、アッと言う間に容態が悪化して亡くなるというケースであるという可能性も指摘されています。

とにかく、毎日200名というのは猛烈な数であり、そうなるとトータルで3,000とかそれ以上はあるかもしれません。この問題は、カウント漏れにとどまりません。在宅での「新型コロナ肺炎死」であれば、救急隊や警察など対応にあたった職員も、防疫体制を整えて対処すべきですが、仮に「そうではない」という対応を取っているのであれば、感染拡大が心配です。NY市警、消防、救急に多くの感染者そして死者が出ているのが問題になっていますが、このような実態が一因としてあるのであれば、これも大きな問題だと思います。

一方で、イタリアの場合は、高齢者を中心として「末期がん」「心疾患」などの死亡者がコロナ肺炎死にカウントされている、つまり「死亡数の水増し」がされているという説があります。同様の説は英国でも言われているようです。

そんな中で、読者の方からご指摘をいただく中で、先週のQ&Aでも少し取り上げたのですが、日本の場合は、コロナ肺炎死亡の数が「少なすぎる」という議論があります。例えば、本稿の時点でジョンズ・ホプキンスの「コロナ・ポータル」で見てみますと、日本の死者は143名に過ぎず、人口10万人あたりの死亡数は0.11に過ぎません。この0.11というのは、アメリカの7.87、イタリアの34.86、スペインの38.64などと比較すると猛烈に低い数字です。欧州の中では立派だと言われているドイツにしても、3.97です(4月15日現在)。

この143という数字は、確かにいくらなんでも少なすぎるのは確かです。通常の高齢者による「肺炎死」に「紛れ込ませている」というのは、実例としてあるようです。ただ、実は1桁違って1,000人単位でいるのかというと、それはちょっと違うと思います。

具体的には「コロナを疑ったが、病院が風評被害を受けないように、あるいは患者と家族の「お別れ」を可能にするために、コッソリ普通の肺炎として処理した」とか、「保健所にPCRを依頼したが、実施前に患者が死亡した」というケースは多少はあるでしょう。

ですが、前者の場合は「社会的にバレないようにしながら、しっかり感染対策はして、遺体の扱いもキチンとする」とか、「家族に対して死亡時の立ち会い等を許しつつ、感染対策はスマートにしっかりやる」などという高等な技術を駆使できる医師や看護師というのは限られると思います。

では、コロナを疑ったが、バレないように処理し、そのために感染防止対策もあまりしなかったというケースがゴロゴロあるのかというと、日本の医療現場はそこまで無謀ではないと思います。院内感染というのはここへ来て大きな問題になっていますが、「通常の肺炎」という死亡診断をムリにやることで、院内感染が起きればそれこそ大変なので、数的には相当に限られるのではないでしょうか?

後者の方はどうやら相当にあると思われます。ですが、これも感染対策を考えると「PCRを待てずに亡くなった」場合は、PCRをやって数字にするというのが基本的なガイドラインのはずで、そこからも漏れてしまう数字というのは、それほど多くはないと思います。

ということは、日本の死亡数は143(クルーズ船除く)というのは少なすぎるとしても、200から300程度。従って、現時点では先進国中では著しく低い水準だということは言っていいと思います。

問題は、日本の医療体制です。ICUのベッド数、人工呼吸器の数、人工呼吸器や人工肺を運用できる医師、看護師の要員数といった「数」の問題で、相当に限界が低いこと、そして限界を超えてしまって「例外対応」が必要になった際に、柔軟に最善手を判断する訓練がされていないことなどには、懸念を感じます。

こちらは、感染症や数理の専門家ではどうしようもない問題で、医療行政や、医師団体として一刻を争う問題であると思います。厚労相をはじめ、この間、世論とのコミュニケーションをクラスター対策班に投げっぱなしであった、本来の指揮系統がしっかりこの問題に対処しないとダメだと思います。

本日の論点(2)超悲観論者、佐藤彰洋教授の主張をどう評価?

横浜市立大学データサイエンス学部の佐藤彰洋教授は、感染症の専門家ではなく数理の専門家ですが、今回のコロナウィルス感染拡大に関するシミュレーションで、超悲観論を主張されています。

COVID-19情報共有―COVID19-Information sharing

とにかく「東京都の現状分析に、2020年4月6日から、直接行動減少目標値20%とした場合と、直接行動減少目標値1.8%とした場合における1日間の新規感染者確認数のシミュレーション結果を追加しました。q=20%では2020年4月14日から一旦減少に転じますが、その後再び新規感染者確認数は増加に転じる結果となりました。q=1.8%では2020年4月14日以降ほぼ新規感染者確認数が0となるという結果となりました。」というのですから非常に厳しいです。

1つの見解としてアリとは思いますが、毎日新聞さんなどがホイホイとこの佐藤説に乗っかってまるで「アンチ原発」のように論陣を張る始末ですから、学界の一部からは「公開質問状」というのも出て議論になっているようです。これに対して、佐藤教授は反論、「公開質問状に対するコメント」も出しておられます。

私としては、超悲観論として誠実なのは理解できるものの、公衆衛生の概念が浸透した社会であること、第一次感染がクラスター戦略で封じ込めに成功したこと、特に狭い空間でのクラスター発生への問題提起が進んでいることなどから、ここまで厳格な論には立たなくて良いように思っています。

問題は北大の西浦教授の主張する「q=0.2」つまり「8割削減の行動変容」ということが、いつの間にか「7割」にすり替えられ(7割と8割では大違い)ていることとか、政財界にヤル気が感じられないことで、どう考えても、西浦理論を支えるのが先決であって、佐藤理論を持ち出して西浦理論を叩くというのは、非常に筋が悪いように思います。

本日の論点(3)総務・人事・経理をリモート化するには?

危機感が高まるにつれて、日本でもようやくリモート・ワークが広がって来ました。そんな中で、これまでは難しいとされていた研究開発や営業の部門で、急速にリモート化が進捗しているのは、単にコロナ対応ということだけでなく、今後の日本経済における生産性向上に大いに効果があると思います。良い動きです。

一方で、非常に気になるのがアドミ業務、つまり総務・人事・経理の3部門におけるリモート化が進まないという傾向です。問題は2つあります。

1つは「紙」が断ち切れないという問題です。契約書にしても、各種帳票にしても、「原本」を紙で作り、これに「捺印」して、相手に「郵送」して、受領したら「決済書類」を回して、決まったら「ファイル」する…こんなことをやっていたら、いつまでもリモートはできません。

どうしても配達された郵便物を確認しないといけないので出勤するなどという話を聞くとやり切れない思いがします。

もう1つは「グレーゾーン」の問題です。欧米だろうが中国やアジア各国だろうが、アドミについては既成のアプリなどに合わせて標準化するのはビジネスの常識です。

ですが、日本の場合は例えば決算をするにしても、給与計算をするにしても、どうしても自前のルール、自前の方法によって、バラバラにやっており、標準ソフトでは運用できないケースが多いのです。

どうしてかというと、企業の経営姿勢として「グレーゾーンを使って経費節減や節税をする」というクセが染み付いているからです。これに加えて、一部の株主や取引先にパワハラめいた「非対称な関係」を強いられて、それが例外対応になっているということもあります。

決算のたびにそうした「グレーゾーン」や「特例」に対応していては、既成のソフトでは対応できないばかりか、具体的な処理に際して「社外秘のファイル」を参照しながら、経営陣と「ナイショ話」をする必要が出てきます。そうなると、どうしても出社しなくてはならないというわけです。

ここは、財界や監督官庁がしっかり腹をくくって乗り出すときです。例えば、確定申告の場合は、リアルに紙と面談でやったら思い切り上乗せ課税するとか、給与計算は標準ソフトや認定代行サービスを「使わないで勝手にやったら」税務上不利にするとか、制度で攻めれば良いのです。「そんな風に効率化したら天下り先がなくなる」という心配もあるかもしれませんが、天下りする代わりに、信頼の置ける代行サービスとか、標準的なソフト・アプリの開発をやって、ノウハウで社会貢献すれば、誰も文句を言わなくなるはずです。

いずれにしても、アドミの標準化ができずに、アドミのコストが高いままですと、「ポストコロナ時代」に仮に円高になったとすると、多国籍企業は「日本でのアドミ仕事」を全部切り捨てるようになると思います。そうなる前に、しっかりと改革をする、今回の事態はその契機にするというぐらいで良いのだと思います。

image by: StreetVJ / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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