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コロナ禍で明らかになった中国依存の限界と今後日本が進むべき道

新型コロナウイルスによるパンデミックが、今後の私たちの仕事や暮らしを変えるきっかけになると感じている人は多くいるのではないでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんもその一人で、コロナ後の日本は、中国依存を脱し、生活必需品を国内で調達できるよう変革が迫られると予想。食料についても半自給を目指す兼農サラリーマン、兼農経営者、兼農コンサルタントが当たり前の社会を思い描いています。

1.中国は豊かに、日本は貧しくなった

1980年初頭、中国の改革開放政策の元、経済特区が制定され、日本政府は「日中友好」事業を推進し、大手商社は中国企業との合弁工場を競い合うように設立した。

当時の日本はパブル経済の真最中であり、金余りの状況だった。国内市場は成熟しており、地価は上がり、労働者不足だった。国内に投資する余地は少なかったのだ。そこに未開拓の中国が登場した。商社が中国投資に飛びついたのも無理はない。

当時の中国人従業員の給料は5千円以下だった。運送賃をかけても、中国生産の方がはるかに低コストだった。結果的に、中国生産の商品との価格競争に破れ、日本国内のメーカーは次々と淘汰された。商品単価が下がったことで、市場規模は縮小し、益々価格競争は激化した。その結果、小売業の売上も利益も減少した。安い商品しか売れなくなり、更に安い商品を供給するという悪循環に陥った。

当時の日本企業の経営者は、「品質が高くて価格の安い商品を供給することが、顧客への貢献であり、正義である」と考えていた。しかし、結果的には日本は貧しくなり、中国は豊かになった。そうなっても、後戻りはできなかった。

日本は製造業大国から、観光大国へと転換した。そして、世界中がウイルス禍を迎えた。世界経済と人の流れが停止した。あらゆるビジネスが止まり、世界は恐慌に陥ろうとしている。

2.グローバルからローカルへ

外出時にはマスク着用が推奨されたが、肝心のマスクが店頭から消えた。日本のマスクの7割は中国生産であり、中国政府はマスクの輸出を禁止したのだ。日本政府はあらゆる企業にマスク生産を依頼し、シャープを始め、様々な企業がマスク生産を始めた。また、個人も手製のマスクを作り始めた。これは日本だけでなく、世界各国で同様の動きが見られた。

世界各国で空港が閉鎖され、海外渡航が禁止された。2020年の東京オリンピックも延期が決まり、世界中の国が期限付きの鎖国をした。世界各国が中国への過度の依存がリスクであることを理解した。今後は、グローバルサプライチェーンが見直されるだろう。経済的にメリットがあっても、国内で生活必需品が調達できなければ、国民の生活が破綻する。お金のためのモノ作りではなく、生活維持のためのモノ作りが必要なのだ。

今回のウイルス禍が去ったとしても、いつ再び同様の感染症が流行するか分からない。軍事的な安全保障だけでなく、生活維持の安全保障を考えなければならない。それには、日本国内で生活物資が生産されていた時代に戻らなければならないが、既に工場設備も生産者もいない。私たちは、デジタル技術、ロボット技術を駆使した新時代のファクトリーを開発しなければならないのだろう。

3.ウイルス禍の裏側でバブルの整理

今回起きている経済的恐慌は、ウイルスだけが原因ではない。アメリカと中国は貿易戦争を展開し、両国共に大きな経済問題を抱えている。日本と韓国も政治問題が経済に飛び火し、韓国経済はそれ以前からの半導体不況に加えて、大きなダメージを受けている。

イギリスはEUから離脱し、不安定な状況にある。中東の政治問題も益々混迷している。原油価格ではロシアとサウジアラビアが対立し、原油の増産と価格下落を招いている。こうした様々な分野の軋轢があった上で、今回のウイルス禍が起きた。このドサクサにあらゆる問題を処理しようという動きが出るのは当然だ。

国際問題に比べると小さい問題のようだが、リモートワークの実践により、強制的に働き方改革が進んだ。そして、通勤時のラッシュがなくなるだけでストレスが軽減されることを知った。同時に、無駄な会議、無駄な出張、無駄な仕事、無駄な社員が明らかになった。

今回のウイルス感染が収束したとしても、元の世の中には戻れないだろう。あらゆる矛盾が明らかとなり、それをどのように解消するかという仕事が待っているのだ。

4.自立したビジネスと暮らし

グローバルなサプライチェーンを構築したのは、経済合理性を追求した結果だった。そして、市場原理を追求すれば、貧富の格差は広がる。世界のごく一部の人が世界のほとんどの富を独占し、大多数の人々は貧しくなってしまう。それを防ぐには、全ての生活を貨幣経済に依存しないことだ。それが今回のマスク生産で証明された。

生活に必要なモノは自分で作れる状態にしておいた方が良い。全てを他国に依存することはリスキーなのだ。例えば、食料を外国に依存するのではなく、半分だけでも自給することができれば、現金収入は減っても生活は安定する。兼農サラリーマン、兼農経営者、兼農コンサルタントが当たり前である生活。今の日本は休耕農地もあるし、空き家もある。人口減少は自給自足的経済には追い風である。

AIの普及によって、なくなる職業が話題になっているが、それらの人も兼農で生きる道が開けるかもしれない。地域に根ざした暮らしと仕事を再構築することで、日本は鎖国でも生き延びることができるだろう。観光立国ではなく、我々は我々の自立した生活を構築し、それを含めた日本文化を静かに楽しむ観光客が増えてくれれば良いと思う。

■編集後記「締めの都々逸」

「家にいるなら 畑に行こう 自給自足の マイファーム」
ウイルス禍により、今まで見えなかったものが見えてきました。但し、余りにも急激な変化なので、変化に対応するという気持ちが起きないようです。勝負はウイルスが収束してからです。元の時代は戻ってきません。全く別の時代が来るでしょう。楽しみでもあり、怖くもありというところです。(坂口昌章)

image by: shutterstock

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