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コロナ禍から復活する中国と真珠湾攻撃後の米国の姿が重なる理由

新型コロナウイルスの発生国である中国は、いち早く感染を抑え込み、諸外国への支援に動いて存在感を見せ始めました。強力なリーダーシップと国力を背景に復活する中国の姿が、真珠湾攻撃後の米国の姿と重なると語るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、感染爆発に喘ぐ米国が国力を維持できなければ、新型コロナとの戦いの後は中国の時代になるとの見方を示しています。

真珠湾後の米国とコロナ後の中国

もうお気づきになっておられると思いますが、このところのコロナの感染者数、死者数の一覧表を眺めていて、ウイルスの発生源である中国がまったく目立たなくなっています。

4月25日付読売新聞のデータでは、米国(感染者86万9172人、死者4万9963人)、スペイン(同21万9764人、同2万2524人)、イタリア(同18万9973人、同2万5549人)の上位3カ国に対して、なんと中国は感染者8万2805人、死者4632人にとどまり、感染者で10番目、死者で9番目なのです。

そして、3月下旬には武漢の封鎖を解除し、感染拡大に苦しむ国々への支援に乗り出してさえいるのです。

「中国外務省の趙立堅報道官は10日の記者会見で、中国が医療用マスクや防護服、ウイルスの検査キットなどの物資を援助した国は127カ国に上ると明らかにした。このほか医療専門家チームをイタリアやセルビア、カンボジア、パキスタンなど11カ国に派遣している」(4月11日付産経新聞)

 

「(前略) 中国では感染拡大がピークを過ぎ、マスク不足はおおむね解消された。一方で、感染拡大前の約10倍に増強されたマスクの生産ラインは強力な外交ツールとして利用価値を高めている。   『米ヒューストン市長は2万1000枚のマスクを寄贈した上海市に感謝の意を表明した』。中国メディアでは最近、こうしたニュースが急増している。中国の地方政府や企業は現在、マスクなど医療物資の提供を柱とする海外支援を強化しており、イタリアやベネズエラ、カンボジアなど関係国には続々と医療チームを派遣している。   新型コロナをめぐっては、トランプ米大統領が中国の初期対応失敗で『世界は大きな代償を払わされた』と批判するなど、中国に対する海外からの風当たりが強かった。しかし、マスクなどの提供を通じ、新型コロナの『発生国』から『支援国』へとイメージを一新しようとしている。   ただ、スペインやオランダ、トルコの当局が『中国製は品質基準を満たしていない』として中国製マスクの受け取り拒否を発表するなど品質問題も指摘されている。   また、中国の影響力が強まることへの警戒感も広がりつつある。中国外務省は『(海外支援を)政治の道具に使うつもりはない』と強調するが、欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は3月24日に公表した声明で、『中国は「米国と違って頼れるパートナーだ」というメッセージを積極的に発信している』と指摘。『「気前のいい政治」で影響力を拡大しようとする地政学的な要素に注意すべきだ』と警鐘を鳴らした」(4月18日付毎日新聞)

この動きをメディアは「中国の反転攻勢」と表現しているわけですが、私は真珠湾攻撃を受けたあとの米国の姿と重ねて見る必要もあるのではないかと考えています。

真珠湾攻撃とは、1941(昭和16)年12月8日未明(日本時間)、日本海軍がハワイの真珠湾(オアフ島)にあった米国海軍の拠点を空母艦載機350余機と特殊潜航艇5隻などで奇襲攻撃した歴史に残る出来事です。これを受けた米国の対日宣戦布告によって両国は太平洋戦争に突入し、最終的には1945(昭和20)年8月15日の日本の無条件降伏に至ります。このとき、米国側は戦艦4隻が沈没するなど軍艦19隻が損傷し、太平洋艦隊は一時、再起不能とみられるほどの大損害を被ります。

フランクリン・ルーズベルト大統領は即日、「アメリカ合衆国にとって恥辱の日」とのフレーズが国民の耳に残る有名な演説を自ら書き上げ、翌日、ラジオを通じて米国民に結束を呼びかけます。そして同じ日、ルーズベルト大統領と米国議会は日本軍に真珠湾攻撃を許した責任を調査する委員会を設け、太平洋艦隊司令長官ハズバンド・キンメル海軍大将とハワイ方面陸軍司令官ウォルター・ショート陸軍中将を更迭したのです。

真珠湾攻撃の2日後の12月9日(米国時間)には、オレゴン州の新聞にアラモの戦いでのスローガン「Remember the Alamo!(アラモを忘れるな)」をもじった「REMEMBER PEARL HARBOR!(真珠湾を忘れるな)」が登場、「REMEMBER PEARL HARBOR」をつけたバッジ、切手の類いから女性用下着まで様々な記念品が作られ、米国民の愛国心は一気に高まっていきました。

日本に対する反撃態勢も一気に整えられていきます。一時は自動車生産を航空機の生産に回そうという意見もあったようですが、それをしないまま、1944年には9万6270機もの航空機を生産してしまいます。同じ44年、日本は2万8180機と大きく差をつけられていました。

真珠湾で大打撃を受けた海軍も、開戦前は空母の数で日本10隻に対して7隻と劣勢だったのに、その後、開戦後の新造、改装によって大型空母17隻、軽空母9隻、護衛空母77隻を保有するに至り、大逆転を演じます。

その後の米国の発展、繁栄ぶりは経済の専門家の著作などにある通りですが、コロナによる「奇襲」を受けた中国が、真珠湾後の米国と同じようなV字回復を遂げたとしたら、そして最大の感染者と死者に喘ぐ米国を国力で抜き去ったとしたら、2049年の建国100周年を待たずして21世紀は「中国の世紀」となる可能性が出てきます。

ウイルスが武漢ウイルス研究所から漏出したという疑いが米国メディアに報道され、世界は中国の責任について厳しい視線を浴びせていますが、それも中国の逆転劇が成功するか否か、米国が国力を維持できるかどうかで、そのイメージは変わってくるのだと思います。

初動の失敗で非難された習近平国家主席が、湖北省の蒋超良・共産党委員会書記(党委書記)と武漢市の馬国強・共産党委員会書記を解任して自らの責任を逃れ、国の指導者として号令を発している姿には、イメージはともかく、真珠湾直後のルーズベルト大統領を思わせるものがあります。日本としては中国の動向から目を離すわけにはいきませんね。(小川和久)

image by: Frederic Legrand – COMEO / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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