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専門家も懸念。新型コロナは年金の受取額にも影響してくるのか

新型コロナウイルスの流行は、わたしたちの老後にも暗い影を落とす可能性があるようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、毎年の年金受取額の算定法を改めて紹介するとともに、新型コロナウイルスの流行が来年度の年金額に与える悪影響を懸念しています。

今年度の年金額は上がるが、年金は毎年度経済の状況で変動するもの

年度が変わったので今月分の年金額から変更となりました。前年度に比べて0.2%の増額となっています(一部そうではない事もありますが、0.2%)。なお、年金振込額に違いが出てくるのは6月15日(4月分5月分)振り込みから。それだけをお伝えするつもりだったんですが…また簡単に説明します^^;

年金が毎年度変化する事があるのは前年の物価や賃金の変動に左右されるからです。そういう経済的な要因が上がれば年金は上がるし、要因が下がれば年金も下がる。年金が上がれば文句はないけど、下がるともう年金は崩壊に向かってるとか、財政がもう破綻しようとしている!とか、年金を下げるのは健康で文化的な最低限の生活がなんたらかんたら言われますが、単に年金法に基づいて物価スライドや賃金スライドしてるに過ぎない。

とはいえ、今は平成16年改正から始まったマクロ経済スライド調整という、物価や賃金の伸びから平均余命の伸びや少子化による現役世代の減少という年金の負担を引き上げてしまう要素を引き下げるという事をやっている。よって、物価や賃金の伸びがそのまま反映されるという事じゃなく、年金の上げ幅はやや抑えられる。

たとえば、1.2%物価が上がり、賃金が1%上がったとすると、この場合は賃金の伸び率を年金に反映させる。賃金というのは年金受給者を支える現役世代の力なので、それを超える物価の伸びに年金額を反映させてしまうと年金額と保険料負担のバランスが崩れてしまうので賃金の伸びに年金額を抑える。そうすると前年度の年金額が100万円だったら、今年度は101万円になるという事。

ですが今は、マクロ経済スライドというめんどくさいものでその伸びが抑えられている。マクロ経済が0.3%だったとすると、この場合は賃金1%を年金額に使うので1%-0.3%=0.7%が実際の年金額の伸びに反映される。つまり、賃金の伸びは1%だけど、マクロ経済で0.3%落とすから、年金の伸び率は0.7%に抑えられて、1,007,000円になってしまう。

前年度よりも0.7%上がってるので、「見た目」は上がって良かったね!ってなる。しかし、経済の伸びよりも年金額の伸びが低いので、年金額の価値は落ちた事になる。

たとえば給与とか年金が上がらないのに物価が上がり続けると生活が困ってしまいますよね。年金は100円から110円に上がって嬉しいけど、それ以上に物価が100円から120円に上がってるとやっぱ苦しいですよね^^;年金や給与も120円に上がっていればいいけど。

じゃあマクロ経済が、0.3%ではなく、2%下がったら賃金1%-2%=マイナス1%として年金額を下げて、100万円から99万円にするのかというとそれはしない。マイナス1%ではなく、この場合はマイナスにはせずに年金額は前年度と同じく100万円に据え置かれる。使えなかったマクロ経済スライド率は翌年度に繰り越す(青色申告みたいに控除を繰り越すみたいな感じ)。

マクロ経済スライド率で年金額そのものは下げない。年金額そのものが下がるとしたら賃金とか物価が下がる時。見た目が下がると、どうしても許さーん!o(`ω´ )oプンスカってなりますよね(笑)。人間の心理というのは見た目で動かされてしまう。

このようにして年金額の価値を平成16年改正から導入したマクロ経済スライドで落とす事にした。なぜかというと、それまで年金というのは現役時代の平均賃金の約60%台を給付しよう!というのが目標でした。まず60%台を給付する事を決めて、それから必要な保険料を5年ごとに毎回決めていく。これを平成16年改正までは年金の財政再計算と言いました。

しかし、少子高齢化で高齢者はどんどん増えて年金の支払総額が膨らみ続けるのに、保険料を支払う現役世代は少なくなる一方ですよね。そうなると、たとえば年金受給者全体に約60%台給付である1,000万円支払うとします。現役世代はそれを1,000人で賄うとすれば、現役世代一人当たり1万円の保険料を支払う。

ところがその後、現役世代が少子化で500人になったとすると、これまで通り年金受給者に1,000万円支払い続けるとすれば現役世代一人当たり2万円ずつ負担してもらわないといけない。現役世代あたりの負担を多くしていかないと今まで通りの年金を支払う事が出来なくなる。現役世代としても一体どこまで保険料を負担すればいいの!?という不安が大きくなりはじめ、年金制度への不満が高くなっていった。

じゃあどうしたのか。

今まで年金受給者の年金は現役の頃の平均賃金の60%台を目標にするっていう頑固な考えを捨てて、まず現役世代の負担できる保険料の限度を決めよう!そうだ!18.3%までが上限だ。と。この18.3%(事業主と折半だから、9.15%ずつ)までをお願いします。国民年金保険料は17,000円×保険料改定率でお願いしますと。

先に負担してもらう上限を決めた。つまり毎年入ってくる財源の上限が決まってしまった。今は1年間で60兆円くらいの年金を支払いますが、社会保障関係費として税金から年金には今は約11兆円が毎年支払われてはいます(年金積立金の運用益からも時々使う)。

じゃあ年金受給者の年金はどうするか。

今迄みたいに60%台に執着するわけにはいかないですよね。だから、保険料18.3%台に釣り合う給付として、50%ちょいの給付に持っていく必要があった。現役の頃の平均賃金の50%以上は確保したいと。やっぱ、年金は生活保障としての有力なお金ですから、せめて現役の頃の50%以上はありたいという事で、18.3%という厚生年金保険料が算出されている。

しかし…どうやって60%台から50%台まで引き落としていくのか。

年金額そのものをさっさと引き下げたら簡単ですが、そうなると受給者からの反発は想像を絶するものになりますよね^^;だから、毎年年金額を変動させる要因となる物価や賃金の経済の伸びに目を付けた。そのまま物価や賃金の伸びに合わせずに、マクロ経済スライドですこーしずつ伸びを落としておく。そうすると、現役世代の賃金がたとえば35万円で、今の年金受給者の年金価値が21万円とする。

経済的な伸びよりも年金の価値を引き落とし続けると、賃金と年金の額の差が開いてきます。やがて現役世代の賃金は46万円になったとしても、年金の伸びは賃金より抑えられるから23万円当たりの伸びになって現役世代の賃金に対して50%くらいの価値に到達する事になる。保険料(負担)と年金給付(給付)が均衡するようになる。負担と給付が釣り合えば破綻する事は無い。以前の60%台の目標の時は、それを続けてたら危険だったでしょうけど^^;

というわけで、現在は50%に向かって価値を落としている最中なのです。

しかし、今年はコロナショックでどこもかしこも賃金は上がらないどころか急落だし、物価も良くないでしょうし…今年度の年金は上がりましたが、コロナショックによる来年度の年金額への影響が懸念されます。

それでは本日はこの辺で!

image by: Shutterstock.comcom

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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