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住民説明会で居眠り、Google Earthで測量。防衛省の呆れた不始末

新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』について、候補地とされていた秋田市内の新屋演習場への配備を断念したとの報道がありました。断念については、河野太郎防衛大臣が否定していますが、いずれにせよこの混乱を招いた原因は防衛省の不始末にあると、軍事アナリストの小川和久さんは、自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で嘆きます。そして、同様のことが辺野古移設問題にもあること、さらには新型コロナ対策においても同様の問題があると厳しく指摘しています。

イージス・アショアと辺野古

コロナがひと山越えた感じが出てきて、自粛の解除など社会活動再開への動きが見え始めました。このまま終息すれば、こんなによいことはありませんが、油断は禁物です。過去のペスト、天然痘、スペインかぜにしても、第2波、第3波でも多数の死者が出ているからです。さらに身を引き締めて、なんとかコロナを乗り越えたいものです。

そういうなか、コロナ以外の動きも活発になってきました。検察官の定年延長問題などはそのひとつですが、今回は防衛省が抱える問題を取り上げたいと思います。5月になって、日本列島を弾道ミサイルから守るためのイージス・アショアについて、動きがありました。

「『イージス・アショア』の配備をめぐり、防衛省は候補地としていた秋田市内にある自衛隊演習場について、住宅地に近すぎることや地元の反対が根強いことも踏まえ配備を事実上断念し、新たな候補地を秋田県内を中心に検討する方針を固めました。

 

新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備をめぐり、防衛省は秋田市内にある陸上自衛隊新屋演習場を候補地としましたが、ずさんな調査を受けて、この演習場を含む東北の20か所の国有地で再調査を行っていて、候補地の検討を進めています。

 

ただ、新屋演習場をめぐっては、ことし1月に秋田県の佐竹知事が河野防衛大臣に対し「地元の理解を得るのは難しい」と伝えるなど地元が配備に反対しています。

 

こうした中、防衛省は候補地の検討にあたって住宅地からの距離を重視した結果、新屋演習場は住宅地に近すぎると判断し、地元の反対が根強いことも踏まえ配備を事実上断念しました。

 

ただ、防衛省は全国2か所に配備する『イージス・アショア』で日本全域をカバーするためには秋田県内への配備が望ましいとしていて、再調査の対象を増やすことも含めて、引き続き秋田県内を中心に新たな候補地を検討することにしています」(5月6日付NHKニュース)

昨年、この問題が表面化したとき、私は舌打ちをしないではいられませんでした。それというのも、2018年9月25日、秋田県の佐竹敬久知事と話す機会があり、イージス・アショアを受け入れてもらえるという感触を得ていたからです。

この日は時事通信社内外情勢調査会の講演が秋田市であり、昼食会の席が佐竹知事の隣だったこともあり、もっぱらイージス・アショアについて話し込むことになりました。ご存じの方も少なくないと思いますが、佐竹知事は秋田佐竹家のご分家である佐竹北家(角館藩)のご当主、つまり殿様です。

しかし、単なる殿様ではなく、東北大学工学部で精密工学を専攻し、ミサイルなど軍事技術について一家言を持っている知事なのです。当然、弾道ミサイル防衛の重要性、イージス・アショアの立地についても、きちんとした知識を持っています。あとは周辺住民の皆さんの不安を払拭するだけの説明を防衛省がしてくれれば、といった話だったのです。

それが、防衛省は実地測量をせず、なんとデジタル地球儀Google Earthで大雑把なデータを出したものですから、周囲の山の高さなどに大きな誤差が生じてしまいました。

そればかりではありません。その一件が地元紙・秋田魁新報に報道されたあと、防衛省が開いた住民説明会で、あろう事か防衛省側の職員が居眠りしており、それをテレビで全国に報道されたものですから、火に油を注ぐような事態となりました。その結果が、新屋演習場を断念するという今回の動きになったのです。

しかし、防衛省が断念しなければならないケースはほかにもあります。沖縄・普天間飛行場の代替施設として防衛省が建設を強行している辺野古の問題です。

3月に出版した拙著『フテンマ戦記基地返還が迷走した本当の理由』(文藝春秋)で具体的に言及したとおり、辺野古案は、有事はもとより平時の国連平和維持活動(PKO)や国際災害派遣にも使えない大きさしかありません。戦闘機や輸送機を発着させられる滑走路より1000メートルほど短いからです。

有事には、海兵隊の航空機を300機ほどと数万人規模の地上部隊を受け入れる必要がありますが、普天間の43%のキャパシティしかない辺野古ではとても無理です。

こんなことになったのは、防衛省が第1海兵航空団の保有機数が456機だということを知らず、辺野古には50機ほどの回転翼機を収容できればよいと、勝手に思い込んでいたからです。もちろん有事のことなど頭になく、海兵隊の巨大な地上部隊の規模についても無知でした。

簡単にわかることを調べなかった挙げ句の果てが、辺野古の惨憺たる有り様です。ここまで読んでおわかりのように、イージス・アショアの問題は辺野古とまったく通底していると言わざるを得ません。

そのような防衛省を専門家の集団だと思い込み、全てを丸投げしてきた政治の責任、そして、そのような政治家を選んできた私たち日本国民…。これはコロナ対策をはじめ、全ての問題に通じる光景です。絶望的になりますね。でも、そのくらいで絶望していたらコロナに打ち克つことはできません。

国民それぞれが、日本を変えていくための構想を思い描いてみることも、コロナ対策で生まれた生活様式を前向きに考える一案かなと思います。(小川和久)

image by: Missile Defense Agency – United States Department of Defense / Public domain

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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