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中国に走る動揺。予想以上だったトランプ「国交断絶」恫喝の効果

以前掲載の「米が『中国と国交断絶」』なら日本に迫られる習近平の国賓来日中止」でもお伝えしたとおり、中国に対してこれまでにないほどの強硬姿勢をあらわにしたトランプ政権。その「恫喝」に中国も敏感に反応しているようです。収束も含め未だ先が見通せない新型コロナウイルスを巡る状況ですが、専門家はどのような見立てを持ち、どう手を打つべきと考えるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では、日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、米中対立を軸に世界が置かれている現状と今後を分析し解説するとともに、「ウィズコロナ」時代に日本に求められる対応策を考察しています。

米中対決で中国の経済崩壊か

新型コロナウィルス感染症を中国が阻止しなかったと、米トランプ大統領は再選戦略上、中国バッシングを行うことで米中対決モードになってきた。今後を検討する。

中国の膨張の必要性

中国海警局の船が尖閣諸島周辺の日本漁船を追尾した問題に関し、中国外務省は、日本漁船が「中国の領海内で違法な操業をした」と批判し、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国固有の領土だ」と強調、日本側に外交ルートを通じて主権侵害をやめるよう申し入れたと説明した。

施政権を確立した南シナ海の領有権を確保して、次に尖閣列島と台湾領である東沙諸島の侵略を開始したようである。

中国は国内不平分子を黙らせるためには、中国が強大であり世界に認められた世界帝国であるとして、独裁を国民に納得させる必要がある。方法としては、内部の不満を外に向けさせるという独裁国の伝統的な政策を取ることになる。

中国は共産党に資本家の参加を許し、かつ、政治家の息子たちを国営など大企業のトップに付けて、資本主義国家となっている。この政治家の息子の経営者たちが利益優先で運営するために、低賃金の農民工が必要になっている。低価格で製品を作るには、どうしても労働の低賃金化が必要であるからだが、農民工たちは搾取されている。

この農民工たちの不満が爆発することを、中国政府も共産党も、恐れている。このため、監視社会を作るとともに、貧困層の不満を外に向ける必要があるのだ。特に、貧困層にコロナで失業が多数出ているから、なおさらである。

そして、外部へ目を向けさせる方法として、中国がお得意の遠交近攻の外交戦略である。内政のための外圧であり、止めることができない。

このための、遠交の一帯一路と、近攻の海洋権の確保がある。このため、力を付けた中国に対応することになる中国近傍の国は、大変である。

中国近傍の国は、中央アジア諸国、フィリピンや韓国のように中国に妥協するか、台湾と日本、ベトナムのように中国と対決するかの選択が必要になる。今年中に、習近平国家主席が韓国訪問する方向で調整している。中国の味方にするべく韓国を固めるようである。

このため、米国と米同盟国と中国敵対近傍の国は、共同で中国に対抗するしかない。世界的な反中国陣営を作り、対抗することになる。

コロナでの対立

米国や米同盟国も、中国への感染症の世界的な流行の賠償請求と、このウイルスの発生源調査を要求している。もう1つが、台湾のWHOへの加盟を要求している。しかし、WHOを味方にして、中国はコロナ発生源調査を拒否して、かつ台湾の加盟を阻止している。

台湾加盟や発生源調査を要求するオーストラリアやニュージーランドに対して、制裁的な輸入制限をし始めた。しかし、米同盟国である2ケ国は、中国へ妥協をしないようである。ファイブ・アイ諸国は、この件では結束している。

このような中国の外交政策に怒って、カナダはパンダを返すことにして、中国との関係を見直す方向だ。英国も中国への賠償請求に参加したし、フランスやドイツも中国へコロナ発生源調査を要求している。

中国は、台湾への武器輸出をするフランスに止めるよう要求したが、フランスは、中国の警告を無視、反対に中国に新型コロナ発生源の調査をしろと迫った。

今後の新しい感染症の発生を阻止するためにも、コロナ発生源調査は必要であるが、中国は拒否している。この拒否の姿勢で、武漢ウイルス研究所からウイルスが漏れたのではないかと言う疑いを欧米諸国に持たれている。武漢ウィルス研究所を閉鎖したとも伝わり、疑惑を一層強めている。

このため、中国はイタリアやスペインを味方にすべく、医療支援や医師の派遣を行い、中国の味方として勢力圏とする考えである。これに対して、ドイツの国内重視派は、ドイツ憲法裁判所を使って、イタリアとスペインを利する欧州中央銀行の量的緩和を不当として、ECBから権限を奪うか、ドイツのEU脱退を推進することになる。

これに対して、ドイツ国際派(EU推進派)のフォン・デア・ライエンEU委員長は、不当とドイツ憲法裁判所の判決内容をEU裁判所に提訴して否定している。どちらにしても、欧州が、中国派と反中国派に分裂することになる。

米国の中国バッシング

トランプ大統領は、再選を果たすためには、中国に対して強く出て、国民の支持を強固にする必要があり、バイデン候補のあやふやな対中政策が間違いであると強力に言う必要がある。この主張が国民に受け入れられたら勝つ可能性もあると考えているようだ。

このため、米公務員年金基金の中国企業への投資を中止しろと命令して、基金は投資の無期延期を決め、ファーウェイ製品調達禁止の大統領令を1年延長し、米半導体企業へのアクセスも制限した。また、NY証券取引所に上場している中国企業への監視を強めるとも述べている。米国の先端技術や資金が中国に流れないようにするようである。

トランプ大統領は、続けて「私たちは多くの措置をとることができる。中国との関係を遮断することもできる。もし関係を途絶えさせたら、5,000億ドル(約54兆円)を節約できる」と述べた。このような断交とも受け取れる強い表現で中国を威嚇した。しかし、中国手持ちの米国債は、1.1兆ドルあり、米国債の無効化は排除されているようだ。その上に、米国議会は両党一致して、ウイグル人権法案などの中国制裁法案を多数可決している。

それに対抗して、中国は、アップル、シスコシステムズ、クアルコム、ボーイングを「信用できない企業リスト」に登録して、中国国内活動を制限する構えであるが、中国側は、国交断絶を心配し始めている。

この理由は、この米国の対応で、中国から投資を引き揚げ、貿易を止められたら、新型コロナで痛めつけられた中国経済が持つのかという疑問が出ているからだ。また、中国企業の多くがNY市場で上場しているし、それが信用になっている。NY市場から追い出されると、中国企業に投資していた日本企業にも大きな影響が出る。

また、今、中国は新型コロナの影響で失業率は20%以上になっているとも言われている。企業倒産も多く出ているはず。中国企業は、今までも借金が多く、何とか政府、人民銀行が企業の赤字を穴埋めしていたことで成り立っていた。NY市場で投資された資金や海外企業の税金が頼りなはずが、海外企業の撤退で、それもなくなる。

中国の経済崩壊でミンスキー・モーメントが来ると、世界的な経済金融崩壊になる。中国が倒れると世界的な金融崩壊になる可能性も出てくる。日本も例外ではない。多くの企業が中国に進出しているが、その企業にも、大きな影響が出る。それはアップルなど世界的な企業群にも出る。

このため、トランプ大統領の中国バッシングは金融経済的に危険であるが、中国も必死なのであろう。失業者が多く、不満がたまり爆発寸前なのかもしれない。このため、軍事的な脅威を周辺国に与えている。もし、中国が金融経済崩壊になると、他国を軍事力で攻めてくることもあると身構えることだ。

そこを見越して、トランプ大統領は、中国にブラフを掛けているとも見える。しかし、中国がコロナ発生源調査を受けることもできない。武漢の研究所から漏れたことが判明してしまい、膨大な賠償金請求になる事は避けたいのであろう。

しかし、コロナ・ショックの上に中国経済崩壊が重なると世界的な金融経済恐慌は一層ひどくなる。日米欧の中央銀行の量的緩和では、そのショックを吸収できなくなる。世界の大破局になり、株価大暴落にもなる。今まで見たことがないような大底になる可能性もある。

トランプ大統領は、株価が大暴落したら、再選もないと見ているから、ブラフだけであると祈りたいが、どうであろうか?

新型コロナウイルスの世界の状況

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の17日午前3時時点の集計によると、世界全体で新型コロナウイルスの感染が確認された人は、459万6,304人となり、亡くなった人は、30万9,685人となった。

感染者の多い国は、アメリカで145万4,504人、ロシアで27万2,043人イギリスで24万1,455人、スペインで23万698人、イタリアで22万4,760人、ブラジルで22万2,877人などとなっています。ロシアとブラジルの増加が著しい。先進国から新興国に流行が移動している。

死者の多い国は、アメリカで8万7,991人、イギリスで3万4,546人、イタリアで3万1,763人、スペインで2万7,563人、フランスで2万7,532人、ブラジルで1万5,046人。ブラジルの増加が著しいし、ロシアは死者数を胡麻化していると英国の新聞は言う。

米トランプ大統領は、感染者数、死者数ともに増大しているが、経済再開を急いでいる。国民がそれを望んでいるからだが、民主党や感染症専門家が経済再開を躊躇しているので、再選に有利との判断がある。トランプ劇場が11月まで続くことになる。

ニューノーマルでの産業構造は

東京の新型コロナ抗体陽性率が0.6%と、ほとんど人が新型コロナウイルスに感染していない。このため、免疫獲得と言う正常化は、とても無理である。新型コロナへの感染を防止する対応策しかないことになる。

このため、当分、ウィズコロナの時代が続き、人の移動が制限されることになる。インバウンド需要がなくなるか、非常に少なくなる。鎖国状態のままでいるか、台湾などの低感染率国との交流を少し開くしかない。

また、社会的距離を取って行動するなど、社会経済活動に大きな制限が当分続くことになる。これに伴い、産業構造も変化する。

今の8兆円規模の観光産業は、今後当分半分以下の規模になる。飲食店も収容人数を少なくする必要があり、これも収入が激減して難しいことになる。今は休眠会社化して、雇用調整助成金などで繋いでいるが、緊急事態宣言が解除されると、廃業になる可能性が高い。

今まで、サービス産業を中心に日本は経済成長をさせてきたが、それができなくなる。アベノミクスの経済成長シナリオの中心的な部分を大きく変更しないといけない。どう変えるかを検討する必要になっている。

ウィズコロナの時代は、サービス産業から製造業・農業などを中心に据えた経済成長シナリオに戻すしかない。

これから当分は、生活医療の安全保障と言う考え方をする必要になる。N95マスク、医療用防護服、医療機器、医薬品、衛生用品などの原材料から自国生産する必要がある。

いつ生産国が第2波到来で、封鎖されてもいいように、自動車産業は、生産国を制限して、最終生産国に部品から完成までのサプライチェーンを揃えることが必要である。日本企業は日本の労働賃金も低くなってきたので、日本に戻すことも考えることである。自国でのサプライチェーン構築のためにも企業利益を考えて、保護主義政策を取るしかない。

日本が遅れていたが、人の接触を少なくできるIT産業やオンライン化産業も進めていくことが必要になっている。足りない人材は、海外から日本に呼び寄せることである。

各国が食料不足の心配で輸出禁止になる可能性があるので、農業も大規模農業で自国生産分を増やすことが必要になる。ここでも保護主義が必要になる。安全保障のために、保護主義となり、地産地消経済になるしかなくなる。日本も、安全安心が必要な物は、自国生産することである。物価が上がるが、安全の方を優先するべきである。

この面からウィズコロナのニューノーマルで日本の成長戦略を見直すことである。

また、社会的制約が大きくなるので、当分、経済規模は大幅な縮小になり、国民の困窮を和らげるために統制経済を敷くしかない。企業への資本投入で、一部国営企業化することも必要になる。企業の優先株を取得し、該当株が高くなったら売ると考えれば、国家投資であると見える。儲けが発生するようにして、財政負担をなるべく小さくすることである。国家は、最後の投資家であり、儲けを意識することである。

同じように、効率的な統制経済にするためには、日銀も株と債券の逆相関性を利用して、制御するべきなのである。株が上がると債券は下がるし、株が下がると債券が上がることになる。株が下がったら買い債券を売り、株が上がったら売り債券を買う行動で、市中の資金量を高めないで制御するのである。日銀は、最後の金融バランサーでもある。そして、危機の時に社債やCPを買い、企業を助けることである。この部分は最後の銀行である。

経済運営に国家が出るのは良くないが、ウィズコロナ時代は経済的な縮小が続く特殊な時代であり、ワクチンができて完全に経済が正常化できるまでは、国家が前面に出るしかない。

そして、国家統制をきつくして、政府は経済縮小での国民全員が困窮しない経済体制を作ることである。それと、リスクとしてある中国経済金融崩壊に対応する仕組みを考えることである。軍事的な側面も忘れてはいけない。

さあ、どうなりますか?

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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