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角栄以来か。河井夫妻「立件」なら安倍首相が問われる「交付罪」

昨年7月に行われた参院選を巡る買収疑惑により、国会閉幕の17日にも「立件」と囁かれる河井前法相夫妻。そもそもその1億5000万円とも言われる「買収資金」は、誰がどのような判断で河井夫妻に送り届けられたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党の資金の全ての動きを知るとされる人物の実名を上げるとともに、検察出身の弁護士が指摘する「党トップが罪に問われる可能性」、すなわち安倍首相に検察の捜査の手が及ぶ可能性についても言及しています。

河井前法相の買収疑惑はいよいよ自民党本部に波及か

いくつかのメディアの報じるところでは、河井克行・前法務大臣夫妻の公選法違反疑惑で、検察当局が自民党本部関係者への事情聴取をはじめたようである。

5月29日、テレ朝ニュースは「自民党本部の関係者」から任意で事情聴取したと伝えた。同じ日、時事ドットコムは「党本部を退職した元幹部職員ら数人」から任意聴取したと。

両方あわせれば、現自民党本部職員からOBにいたるまで、検察が積極的に接触しているものと想像される。いよいよ捜査は“本丸”をうかがい、外堀を埋める段階にさしかかったのだろうか。

いうまでもなく、本丸とは安倍官邸である。昨夏の参議院選を前に、自民党本部から1億5,000万円という大金が、広島県議から鞍替えする新顔の河井案里候補陣営に振り込まれた特別扱いは、河井候補に肩入れしていた官邸の関与抜きには考えられない。

同じ選挙区の自民党ベテラン、溝手顕正候補には1,500万円と相場通りだった。むりやり二人目の候補者として安倍官邸が押し込んだ河井案里氏は、その10倍。

潤沢な資金を手にした案里氏の夫、河井克行前法務大臣は、妻のために東奔西走した。広島県内の首長や地方議員、後援会幹部ら数十人にカネをばらまき、その総額は1,000万円をこえるのではないかという。

ウグイス嬢を集めるために法定の2倍もの報酬を支払い、案里氏の公設秘書と選対事務局長、克行氏の政策秘書が逮捕された。これは捜査の入り口であって、ゴールではない。

誰の力が働いて1億5,000万円もの破格の選挙資金が自民党本部から、ただ一つの陣営だけに投入されたのか。その黒幕こそが検察の真のターゲットであるはずなのだ。

河井陣営が地域の有力者に次々と買収工作をしかけ、「自民候補2人当選を」のスローガンなど、どこ吹く風の選挙戦で、溝手候補を沈没させてしまう結末は、その黒幕であれば、当然、予測できただろう。

黒幕の正体を知る人物を想像するのは容易だ。自民党本部の政治資金を実際に動かせるのは誰かを考えればいい。政治資金収支報告書の会計責任者は二階幹事長でも、実務にあたっているわけではない。

検察当局が事情聴取した自民党本部関係者のなかに、党事務総長、元宿仁氏が入っていないとしたら、ポイントがズレている。党の資金の出し入れは、この人を通さないとできないだろう。

自民党の政治資金を全て知る男。すなわち、政治の裏側を誰よりも見てきたのが元宿氏といえる。なにしろ、2000年以降、ある一時期を除き、自民党本部の事務方トップとして君臨してきたのだ。

幹事長は次々交代するが、汚れ仕事にもかかわる事務方のトップともなると、そうはいかない。まずなにより、口が堅いことが必須条件だ。やすやすと代わりの人材は見つからない。

さきほど「ある一時期を除き」と書いたが、実は元宿氏は民主党政権の誕生後にいったん自民党本部を退職し、安倍政権の復活後に呼び戻された経緯がある。安倍首相にとって、この人も「余人をもって代えがたい」のだろう。

党職員でありながら、退職のさいには新聞記事になった。筆者も2010年8月3日のブログ「永田町異聞」でこう書いた。

自民党の裏側を知り尽くす男が、7月31日付で退職した。この10年間、党事務のトップをつとめてきた元宿仁。64歳。もともとの肩書きは事務局長だったが、定年延長で事務総長となった。党職員でありながら、その退職が新聞記事になるのが、なにより政界における存在感を物語っている。

筆者が元宿氏の存在を初めて知ったのは、いわゆる「日歯連ヤミ献金事件」によって、である。

この事件は、参院選直前の2001年7月、当時の日歯連会長、臼田貞夫氏が、橋本龍太郎元首相を領袖とする派閥「平成研究会」所属の組織内候補、中原爽参院議員の再選をはかり、赤坂の料亭で、1億円の小切手を橋本氏に手渡したことに端を発している。野中広務、青木幹雄といった重鎮も同席していた。

このカネの処理については、2002年3月13日の平成研幹部会で話し合われた。結論は、領収書を出さず収支報告書にも記載しないということだった。

一つの団体から1億円もの寄付を受け、選挙に使えるマネーがドンと増えたのはいいが、それを平成研の政治資金収支報告書に記載すると、日歯連との癒着が非難のマトになる。だから裏金にしておこうというわけだ。

実務は平成研の金庫番、瀧川俊行氏にゆだねられたが、日歯連から領収書を求められ、瀧川氏は困惑した。収支報告で無かったことにするカネの領収書を平成研の名で出すことはできない。どうするべきなのか。

瀧川氏は自民党本部に出向いた。元宿事務総長に相談するためである。そのときの二人の密談内容は、のちの裁判で、瀧川氏が検察側の尋問にこたえて明らかにしている。

瀧川 「平成13年に日歯連から1億円の献金を受けております。これは領収書のいらないものだと思っていたが、発行の要請があって、幹部会に諮ったところ、発行を見合わせるようにということになり、もし(日歯連に)断られたら知恵はないですか。国政協の領収書でも切ることはできないですか」

 

元宿 「そのカネはどういうふうに処理したんだ」

 

瀧川 「平成研の口座に積み、その後、現金化して、平成研の経費として使っていた」

 

元宿 「それでは、もう領収書は出ませんね」

ここまでは、日歯連からの1億円を自民党の政治資金団体「国民政治協会」を通じた迂回献金として国政協名での領収書発行ができないかという相談ごとである。

国民政治協会は、各種団体が、特定の自民党政治家への献金をカムフラージュする「迂回献金」のトンネル団体として使われてきた実態がある。国政協の領収書発行はムリと言われて、瀧川氏は別の方策を打診した。

瀧川 「平成14年、15年に分散して数字を小さくして、平成研の領収書を切れないか。平成13年の参院選前に派閥に1億円の献金では、世間やマスコミから批判される。それを薄めるために14年とか15年に分けて受けたような形で領収書を出すことが可能か」

 

元宿 「じゃあ、相談してみるよ」

なぜこんな古いシーンを今ごろ持ち出すかといえば、自民党本部の実力者でありながら事務方として陰に隠れている元宿氏の仕事の一コマをうかがい知る機会はまずないからだ。たまたま瀧川氏が法廷でぶちまけたため、一端が垣間見えたのである。

河井陣営への1億5,000万円提供という異例の取り扱いを、元宿氏がまったく知らないうちに、自民党本部がおこなったとは思えない。

国政選挙にあたり自民党から候補者に配られるのは公認料と選挙資金合わせて1,500万~2,000万円といわれる。候補者の優劣評価や重視度合いで、いくらか配分額の違いはあっても、10倍もの差は、えこひいきというほかない。

しかるべき筋から話があったがゆえに、元宿氏の指示のもと、破格資金が投入されたのであろう。

河井夫妻に対する広島地検の捜査には東京地検特捜部なども加勢し、いわば検察総がかりで取り組んでいる趣がある。総理補佐官、法務大臣へと、安倍首相が取り立ててきた河井克行氏が、かりに逮捕、起訴されるような事態になれば、安倍首相の政治責任は重大である。

安倍首相は「全て党の執行部に任せている」と国会などで述べ、巨額資金提供への関与を否定している。それなら二階幹事長が、安倍首相と打ち合わせることもなく元宿氏を顎で使えるかというと、大いに疑問だ。自民党にはときたま、首相をしのぐ実力者が幹事長になることが過去にあったが、二階氏はさほどでもない。

4月27日のYahoo!個人に掲載された郷原信郎弁護士の記事によると、河井氏が買収罪なら、その資金の提供者は「交付罪」が成立するという。

河井氏らが、「(案里氏に)当選を得させるために」金銭を提供したことが「選挙人又は選挙運動者」に対する「供与」として買収罪に問われるのであれば、その資金の提供者は、「第一号から第三号までに掲げる行為(当選を得る、得させる目的での金銭等の供与)をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付」(221条3号)をしたことになり、(少なくとも、「選挙運動者」である克行氏本人に提供された分については)「交付罪」が成立することになる。

資金の提供者とは自民党本部であり、そのトップは安倍晋三総裁にほかならない。当然、「交付罪」の捜査対象になるべきだ。

ウソつき、愚図、えこひいき。三拍子そろって、内閣支持率が急落し、いまや斜陽の感が否めない安倍政権。検察を人事で脅して意にそわせようという企みにも失敗し、コロナ対策、不況克服への強いリーダーシップを示せないまま、レームダック化しつつある。

自民党本部二階の事務総長室。壁面を彩る一幅の大きな油絵は、元宿氏の描いた作品だという。自民党本部に迫る捜査の足音を感じながら、今その部屋で、元宿氏は何を考えているのだろうか。

image by: 河井あんり - Home | Facebook

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