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トランプ落選は確実か。アメリカの理念を崩壊させた大統領の功罪

警察官による黒人男性殺傷事件に抗議する大規模デモに対し、人権無視とも言える軍による鎮圧を示唆したトランプ大統領に、国内外から非難の声が上がっています。この動きを受け「トランプ氏の再選は極めて困難になった」と持論を展開するのは、日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さん。津田さんは自身のメルマガ『国際戦略コラム有料版』に今回、そう判断せざるを得ない理由を記すとともに、「トランプ後」に日本が取るべき外交政策を考察しています。

トランプ「再選不可」なら日本は?

米国内の抗議デモを、トランプ大統領が軍で制圧しようとしたため、マティス元国防長官にまで「国を分断させる」と非難された。これでトランプ再選は、ほとんど不可能になったようだ。その時の日本はどうするかの検討。

米国および世界の状況

NYダウは、2月12日29,568ドルまで上昇して史上最高株価になった。3月23日18,591ドルまで下げて、先々週5月29日は25,383ドルで、6月1日は91ドル高の25,475ドル、2日は267ドル高の25,742ドル、3日は527ドル高の26,269ドル、4日は11ドル高の26,281ドル、5日は829ドル高の27,110ドル。

黒人暴動やコロナなどの問題点があるが、経済活動再開期待で連日の大幅高になっている。自宅でのリモートワークで、株を個人投資家が盛んに取引して、株価を上げている。実体経済とは関係ないような雰囲気になっている。

給付金で米国の個人所得は10%も増えているが、消費支出は14%も減っている。結果、貯蓄が33%も増えた。この貯蓄で株投資をしているようである。

その上に、5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数は250万人増で、失業率は13.3%と大幅な改善となり、大幅高になった。

ナスダックは、2月19日の最高値9,838ポイントに迫る9,814ポイントになった。場中に9,845ポイントになり、史上最高値を抜ける場面もあった。

欧州では、欧州復興基金をドイツのメルケル首相が賛成して、かつECBは1兆3,000ユーロの金融緩和策を実施するなどで、欧州経済の落ち込みが限定的になったと、ユーロが上昇している。

メルケル首相は、EUの一体感を保持して、次の世界秩序の中心になることを目指しているように感じる。米国の衰退がハッキリしてきたので、次に世界を支えるのはドイツであると見ているようだ。

しかし、「倹約4カ国」と呼ばれるオーストリア、オランダ、スウェーデン、デンマークは、欧州復興基金に反対している。

日本の状況

日経平均株価は、2018年10月02日に24,448円でバブル崩壊後高値になり、3月23日18,591ドルまで下げて、先々週の5月29日は21,877円、6月1日は184円高の22,062円、2日は263円高の22,325円、3日は288円高の22,613円、4日は81円高の22,695円、5日は167円高の22,863円。

15週売り越していた海外投資家が、大量な買いに回り、日経平均株価が連騰に沸いている。その上に、日本も自宅でのリモートワークで、個人投資家が増えて、株価を押し上げている。2万3000円台に乗せると、コロナ下落前の水準になる。実体経済は悪いが、株価は高い状態になっている。

それと同時に、1ドル109円台と円安に向かっている。米国長期金利の上昇で金利差が拡大したことで、円安株高のリスクオン相場の形になってきた。

1次と2次補正予算で60兆円と大幅な財政出動をするが、年間予算は100兆円であり、大幅な増額になっている。3次補正予算の可能性もある。しかし、この補正の税収はないので、すべて国債であり、その国債を日銀が無限大に買うという。政府と日銀が一体で資金を作るということは、実質的に財政ファイナンスである。市中の通貨量が増えることになる。この面からも円安になる。

FRBの無限大の金融緩和で、日銀が何もしないと円高になるが、財政ファイナンスを行うことで、円高を止めて円安にしている。日米が協調的な金融緩和を行っているとも見える。

しかし、現在、このコラムで提案した大幅な財政出動を実行することで、大恐慌を止めるしかない。

というように、想定した円安である。ハイインフレになる可能性もあるので、国民の皆さまは、株投資や海外投資をして、円で持たない方が良いことになる。このためがどうか、日経平均株価も上がり、2万3,000円台直前となったのでしょうね。

米国の抗議デモを武力で鎮圧か

ミネソタ州でのフロイドさんを窒息死させた警官に対する抗議のデモが米国全土に広がっている。一部暴徒化して、裏にアンティファという中国の組織があるとして、このデモに対して、トランプ大統領は、「民生・軍隊など連邦政府の資源で利用できるものをすべて動員する」と警告した。

しかし、抗議デモに対して人種差別反対の見解もなく、人権擁護の言葉もなく、テロ組織の行為であり、軍を使った鎮圧をするとした。その上、州兵を使わない州知事を非難した。

そして、平和的なデモを行っていたワシントンのデモ隊に対して、州兵が催涙ガス弾を発射しデモ隊を制圧している。一部の過激な暴動に対する州兵の行為はまだ、許されるが、平和的なデモを力で制圧した。

これに対して、マティス元国防長官が「ドナルド・トランプ氏は、米国人を結束させようとしないばかりか、そのふりさえしない。こんな大統領は私の人生で初めてだ」「それどころか、私たち米国人を分断しようとしている」と批判した。

これに続いて、マーク・エスパー米国防長官も反乱法を発動して連邦軍武隊を派遣し、デモを鎮圧することに反対すると表明。エスパー氏は記者団に対し、「このような状況下で行政当局に対する支援を行うには、州兵が最も適しているとこれまで常に考えてきたし、今後も変わらない」と表明。「現役部隊の動員という選択肢は、最終手段としてのみ使われるべきで、最も緊急かつ差し迫った状況に限られるべきだ」とし、「われわれは現在、そのような状況にない」とした。

6月4日は、31年前に天安門事件があった日であり、平和的なデモ隊に中国人民軍が出て弾圧したが、これと同じようなことを民主主義国家の米国でも行うことになりそうになった。

トランプ大統領は、「人権」より「法と秩序」を優先したことで、香港での国家安全法を施行する上で、香港市民のデモを軍事力と警察力で完全に抑え込む習近平国家主席の「人権」より「法と秩序」と変わりがないことにもなる。

このような情勢で、政治的な発言を控えていた前・元米大統領4人が、記者会見を行い、暗にトランプ大統領の軍によるデモ鎮圧を非難した。

エスパー米国防長官も多くの米軍幹部から抗議を受けて、軍隊の派遣を停止したようであるし、軍隊の構成員に黒人が多く、抗議デモの鎮圧は、軍の中にいる黒人たちが反乱を起こす可能性もあった。

事実、州兵が抗議集会に同調して参加していた州もあるし、警察官が抗議集会で片膝を立てて座り、同調する姿もあった。

これと同じことが米軍でもおきる可能性が高いのは、米軍のトップ層まで黒人がいるからであるが、そうすると軍の反乱となり、米国の崩壊になる危険性も、歴史家で人格者のマティス元国防長官は見ていたように感じる。軍隊はあくまで外の敵に使うものであり、国内のある勢力に使うときは、慎重に行う必要がある。

事実、ミリー統合参謀本部議長、マッカーシー陸軍長官、ギルデイ海軍作戦部長、ゴールドファイン空軍参謀総長などが「軍は米国民とともに」と表明して、トランプ大統領、総司令官の命令に従わないとした。普通なら、エスパー国防長官と米軍幹部を大量に解雇すればよいが、それもできない。軍を敵にすると、クーデターやトランプ暗殺の可能性も出てくる。

というように世論が分裂した状態で、軍を使うことは難しい。そのような基本的なことも知らないトランプ大統領は、大きな反発を受けることになったようである。

軍出動は、ローマ帝国の最後と同じになる。ローマ軍の主力がゲルマン民族になっていたが、ゲルマンの反乱にローマ軍が出動したが、逆に反乱軍になって、ローマ帝国は滅亡する。

このため、バイデン候補の支持率が急上昇している。トランプ大統領の支持率はコアな人たちであるので支持率40%と変わらない。黒人層が大挙して、バイデン候補を支持し始めた。福音派の一部や共和党保守本流もトランプ大統領から離れたようである。

批判が大きくなり、やっと、トランプ大統領は、フロイドさんが受けたような暴力は許されないと発言。「法の下の平等な正義は、人種、肌の色、性別、信条に関係なく、全ての米国人が法執行機関から平等な扱いを受けることを意味しなければならない」と語った。やっとである。

というように、ローマ帝国崩壊と同じような米国の崩壊を目の前で見ている。米国の破壊者トランプ氏の破壊力はすごいことになっている。米国の理念も潰し、米国の時代は過ぎ去った。

日本の外交はどうするか?

トランプ大統領の「人権」より「法と秩序」の考え方に、ドイツのメルケル首相、カナダのトルドー首相も唖然としている。このため、メルケル首相は6月に計画したG7首脳会議への出席を辞退した。また、イギリスのジョンソン首相も、ロシアをG7に復帰させるというトランプの提案を拒絶した。

このようなことは、欧州の同盟国や友好国が、いかに米国に幻滅しているかを表している。特にトランプ大統領の抗議デモに対する人権無視のデモ弾圧で、ダメ押しになったようだ。

ホワイトハウス周辺の平和的なデモ隊が「強制排除」されたことに、メルケル首相をはじめヨーロッパの複数のトップ層から非難の声が上がった。トルドー首相は、悲痛な顔をして「見たくないものを見た」とコメントしている。

逆に、いつも人権問題で米国から批判されてきた中国は、米国内の人種問題や人権抑圧を嬉々として取り上げ、イラン外務省の報道官は「国家による弾圧」に立ち上がった米国国民に同情の意を表した。

米国のデモ弾圧で、中国は香港デモ弾圧を正当化できることになり、天安門事件も正当化できることになってしまった。

また、中国は、米中貿易協議の第1段階合意の米国からの輸入を止めている。合意を破棄はしないで、米国の出方を見ている。トランプ大統領も景気浮揚のためには、中国への輸出が必要であり、中国への非難をどうするのか、米中は腹の探り合いをしている。

米国の対中政策は、言葉上では非難しているが、まだどうなるのかわからない。トランプ外交は、取引外交であり、主義主張がなく、成果があれば簡単に変わることが多い。

国内のデモ制圧や対中関係などで、トランプ大統領の支持率が少し下がり、バイデン候補の支持率が上がり、差は10%以上になっている。このままであると、11月の大統領選挙で再選されないことになる。勿論、まだ5ケ月もあり、わからないが、トランプ氏が大統領では無くなることも視野にいれる必要が出てきた。

ということで、米民主党バイデン候補の対中政策がどうなるのかが、重要な外交政策決定のキーになってきた。

しかし、バイデン候補の対中政策が誰にも分らない。中国はハッカー集団を使い、バイデン候補のサイトに侵入して政策を探ったようである。というように、中国にも分らないのであろう。

もう1つ、心配なのが米国の大統領が変わると、今まで進めてきた米国との約束がすべて反故にされてしまうことである。トランプ大統領と進めてきた日米同盟の枠組みが反故になることもありえる。

しかし、同盟国や友好国から信頼されない、予測できない米国と日本が同盟しても、何も解決できない。中国に対抗することもできない。中国対抗の効果的な国際秩序や規範も構築できない。

日本は、単純に米国との同盟関係を維持すればよいという事態では無くなってきた。人権を旗印にできない米国の世界覇権は、失われようとしている。

日本は、ドイツなどの欧州や英国と緊密に連絡を取り合い、米国抜きでも国際秩序や規範を共同で決めていくしかない。米国は当分、主義主張がない予測できない、取引での外交と割り切り、そのように見て、距離を置いた友好な関係を構築するしかない。

そして、バイデン候補の対中政策を見て、次の日本の外交政策に出るしかない。そこまでは、中国に対する政策もあいまいにするしかないのかもしれない。

中国と米国が「人権」より「秩序優先」という同じムジナになったことで、正義の理念は消えた感じになった。今までの世界正義の人権外交を日欧で引継ぐしかないようだ。

さあ、どうなりますか?

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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