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「20億中抜き」の電通隠れ蓑法人を経産省が自作したという証拠

数々の疑惑が浮上し、国会でも野党により厳しい追求がなされている持続化給付金事業。委託先の選考や巨額な委託費の流れなど不透明さばかりが目につく当事業ですが、そもそも給付金事務を受託した「サービスデザイン推進協議会」とはどのような団体なのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、これまでに明らかになっている数々の「事実」を改めて検証しつつ、その正体に迫っています。

経産省が自作した電通隠れ蓑法人が給付金事務を受託する不透明

その法人の名を検索すると、「おもてなし規格認証」というサイトに行き当たった。はて、聞きなれない名称だがと、説明を読む。

日本全体のサービス産業の底上げをはかるためには…ふさわしい評価が受けられる制度的な枠組みが必要です。…サービス品質を「見える化」するため…「おもてなし規格認証」が誕生しました。…経済産業省での検討を経て、民間規格として運用されており…云々

どうやらこのサイトが、近頃、769億円で持続化給付金事業の事務を受託し、やれトンネル団体、幽霊法人だと、“勇名”をとどろかせる「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」のホームページらしい。

なのに、この団体名がサイトのなかでほとんど登場しない。「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」とは、の説明があってしかるべきだろう。住所の記載はあっても、代表者、電話番号すらわからない。

野党議員がこの住所をたよりに築地のビルの事務所を訪ねたところ、室内に誰一人いる様子はなく、さらに調べてみると、国の仕事を請け負いながら、法で定められた決算公告を設立以来したことがないこともわかった。

この騒ぎが勃発するや、一気に関係者の危機感が高まったとみえ、この6月4日になってサイトの中に下記のページが加わった。

この度、一般社団法人サービスデザイン推進協議会の法人サイトを公開いたしました。今後ともよろしくお願い申し上げます。https://www.servicedesign-engineering.jp/

もはや多くの国民の知るところとなったこの法人。コロナ禍で売り上げが大幅に減少した企業に金銭面の助成をするため2兆3,176億円の予算がついた持続化給付金事業の支給にかかわる実務を国から769億円で受託し、そっくり749億円で電通に再委託したたため、中抜きした20億円は誰の懐に…と疑惑が深まった。

メディアは代表理事である笠原英一氏に取材をこころみた。「NEWS23」が電話取材の映像、音声を流したのが、6月4日の放送である。

—持続化給付金事業受託の経緯は

 

「4月の時点で受託するということを事後的に私は聞いているんです」

 

—持続化給付金事業の責任を負っている自覚は

 

「これね、私は、すみません、飾りです」

 

—電話番号さえない団体というのは

 

「そこがね、まずい。そこは改善しなきゃいけないですね。本当、すみません」

同協議会は新たなサイトに「ホームページリニューアルご挨拶」と題する文章を掲載した。

当協議会の活動内容と持続化給付金事業の受託経緯と業務内容に関して、しっかりとご説明ができていない点について多くのご批判をいただきました。そのことを真摯に受け止め…ホームページを強化・リニューアルいたしました。今後、積極的に活用してまいります。

マーケティングの専門家で、立教大学大学院客員教授でもある笠原氏は、まさに電通ともパソナとも関係がない有識者として、“飾り”であることを自覚していたのだろう。

しかし、事ここに至れば、わずらわしいことにいつまでも関わりたくない心境はよくわかる。6月8日に笠原氏は代表理事を辞任した。代わって電通、パソナ、トランス・コスモスの3社の役員が共同代表理事に就任し、その日のうちに、記者会見を開いて、同協議会が幽霊法人でないことの説明に躍起となった。

できたてほやほやのHPによると、理事は8人で、「新たなサービスデザインとその市場創造」と事業の目的が記されている。しかし、なぜ2016年5月16日に設立されたばかりのこの法人に769億円もの事務の仕事が国から転がり込むのか。そこはやはり発注元の経産省、とりわけ中小企業庁の判断が妥当だったのかどうか、精査せねばなるまい。

まず問題になるのは、この事業の入札だ。野党議員が入手した「入札調書」によって、デロイト・トーマツ・ファイナンシャルアドバイザリー合同会社とサービスデザイン推進協議会が応札したことがわかる。ところが、デロイト・トーマツの入札額は黒塗りにされているのである。

デロイト・トーマツといえば世界的な会計事務所のグループで、入札調書にも等級を「A」とし、最上ランクに格付けている。にもかかわらず、等級「C」のサービスデザイン推進協議会を選んだ理由は何なのか。

デロイト・トーマツの入札金額が、推進協議会より高いのなら納得がいく。黒塗りをせずに公表すれば、はっきりするだろう。なのに、6月3日の衆議院経済産業委員会で梶山弘志経産相が「価格公表を控えてほしいとデロイト・トーマツが言っているので」と、“安倍政権定番”の逃げを打ったため、何もわからないまま疑念だけを深める結果となった。

その行き着くところは、経産省との関係だ。最初から、サービスデザイン推進協議会に決めていたのではないか、と怪しむ気分がムクムクと湧き上がってくる。

サービスデザイン推進協議会は、電通、パソナ、そしてIT関連のトランス・コスモスがつくったことになっているが、実際は経産省が絵を描いたと、筆者は思う。

電通もパソナも、政官との癒着で巨利をむさぼっている。あらゆる分野の企業ネットワークにもつながっている。官僚たちは、こうした大企業に仕事をまわすことによって、将来の天下りにそなえる。たとえ取引額は相場より高くついても、自分たちの腹は痛まない。

そもそも官僚たちは業界団体や有識者団体をつくり、省益や、天下りに利用する術に長けている。自分たちの仕掛けた民間団体の、あたかも事務局のように立ち回ることすらある。

それで思い出すのは2013年、元東大総長、有馬朗人氏を会長とする民間団体「エネルギー・原子力政策懇談会」が、原発再稼働を求める「提言書」を安倍首相に手渡したときのことだ。

その文書を作成したのが経産省官僚であることがわかり、メディアに報じられた。もちろんこれは原発推進をはかるための仕掛けだ。

今回の持続化給付金については「なによりスピード」と政府は強調し、サービスデザイン推進協議会を選んだ理由の一つにしているが、たとえそうだとしても、不透明なやり方では、税金を無駄に使っているように見えてしまう。

なにしろ、サービスデザイン推進協議会に委託し、それを協議会が電通に丸投げ、電通はさらに下請けに出すというかたちで、取引が連なるごとにマージンが発生しているのだ。

電通にそっくり“再委託”した協議会には20億円、電通ライブなどの関連会社に“再々委託”した電通には104億円、パソナ、トランス・コスモスなどいくつもの企業に外注した電通ライブには8,000万円が残るしくみだ。

これでは費用がかさむはずであろう。なぜ電通なら電通、デロイトならデロイトと、ふつうに発注しないのかという疑問が生じてあたりまえである。

サービスデザイン推進協議会の入居するビルのテナント名を見れば、そのワケが、うすうすわかる。

サービスデザイン推進協議会の事務所があるビルの2階フロアーには「商店街まちづくり事務局」「中心市街地活性化事業事務局」があり、3階にも「中心市街地再生事業事務局」など4か所、いずれも電通が落札した経産省、国交省関連事業のオフィスが並んでいる。

6月3日の衆院経済産業委員会で、斉木武志議員(国民)は「コスト圧縮を考えると、全部、電通本社の公共政策部でやればいいではないか」と指摘した後、この問題の本質にかかわる事実を突きつけた。

「サービスデザイン推進協議会の設立そのものを経産省が行ったのではないか。あの団体の定款の作成者がなぜか経産省情報システム厚生課の名前になっている」

この質問には補足が必要だ。同協議会の定款が掲載されたページのURLをもとに、2016年5月に作成された初期定款のプロパティ欄にたどりついたブロガーがいて、斉木議員はその情報をもとに質問したと思われる。

なんと、そのプロパティには、「補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)」なるタイトルとともに「情報システム厚生課」と作成者名まできちんと記録されているのである。

梶山経産相は「職員にヒアリングをした結果、定款作成プロセスへの関与はないということでした」などと述べたが、同協議会の定款作成に経産省がかかわっていたことを確信させる証拠がネット上にあるのに、それを否定する証拠はいまのところ経産省側から示されていない。

経産省とつるんで同協議会を実質的に動かしてきたのが、平川健司氏という人物であるらしい。

平川氏は2016年の協議会設立時、電通に在籍したまま理事に就任し、昨年6月に電通を退職してからも、そのまま業務執行理事を務めている。

6月8日の釈明記者会見では、平川氏が、いかに電子申請についてのノウハウが協議会にあるか、申請サポートなどの実務が大変であるか、電通などとの協力体制が必要であるかについて、一手に説明を引き受けていた。

たしか、テレビの取材に対し、笠原前代表理事が「電通は国民に評判が悪いので」と漏らしたと記憶する。パソナも政商のイメージが強い。

こうした企業に経産省がべったり依存していることを悟られないよう、わざわざ別名の法人をつくったのではないだろうか。週刊文春の取材に、笠原前代表理事は「電通の友人に頼まれて、インバウンドの研究をやろうと思って入ったんだけど、何にも活動がない」と語っている。

つまるところ、政府の仕事をますます増やしていきたいであろう電通、パソナなどの“隠れ蓑法人”が、同協議会なのではないか。経産省官僚としても将来の天下り先として協議会を肥やす思惑がないとはいえないだろう。

経産省は4月2日、同協議会と電通の担当者を呼んでヒアリングをしている。競争入札が公示されたのは4月8日のことであるのに、それより2日前には同協議会が「jizokuka-kyufu.jp」のドメインを登録している。

別の日にヒアリングをしたというデロイト・トーマツは、気の毒ながら“当て馬”にすぎなかったのではないだろうか。

これまでの経緯は、とにもかくにも不透明。その一語に尽きる。せめて安倍首相は、競争入札が適正に行われたかどうか、黒塗りのない資料を公開するよう、経産相に指示すべきである。

image by: , CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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