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平気で嘘つく狡猾さと驚くべき度胸。小池百合子という虚飾の女帝

都知事選歴代2位となる約366万票を得て、他を寄せ付けない強さで再選を果たした小池百合子氏。なぜ小池氏はここまでの圧勝を飾ることができたのでしょうか。その理由を「都民の熱烈な支持を集めたからではない」とするのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、「新型コロナ対策が追い風になった」だけだと断言した上で、そのコロナ対策の内容についても疑問を呈しています。

コロナが追い風?虚飾の女帝、都知事に再選

再び、首都圏にコロナ感染の波が広がっている。社会経済活動を心おきなく進めるには、「検査と隔離」の徹底が必要なのに、東京都の動きはいまなお鈍い。

それでも、東京都知事選は大方の予想通り、小池百合子氏が再選された。

石井妙子著『女帝 小池百合子』(5月末発行)が一躍ベストセラーになり、「カイロ大学卒」の学歴など、出世物語にひそむ疑惑の数々が掘り出されたが、小池氏はこの間、平静を装い続けた。

事前調査通りの圧倒的勝利。それは、前回のように、小池氏が都民の熱烈な支持を集めたからだろうか。決して、そうではあるまい。

この4年間、小池氏は都知事としてどんな業績を残したのかを考えてみるがいい。「東京大改革2.0」を今回選挙のスローガンにしたが、「1.0」はいったい何をやったというのだろう。

築地から豊洲への市場移転問題も欺瞞に満ちていた。「立ち止まって考えなければ」と言って当選した手前、とりあえず延期して、前知事との違いを強調するポーズをとったが、結局それはその後2年にわたる人心、行政の混乱と、時間、カネの無駄をもたらしただけだった。

では、なぜ小池氏が圧勝したのか。結論から言おう。都知事が否応なしに取り組まなくてはならない新型コロナ対策が強烈な追い風を呼び込んだのだ。

この非常時、ウイルスに立ち向かうべきリーダーを替えてゴタゴタしてもらっては困る。それが都民の本音だろう。

自分が他人からどう見えるかを、状況や環境の変化に応じて想像できる能力の持ち主が、小池百合子という政治家だ。今回の選挙戦略は、ひたすらコロナ対策にまい進する知事を演じ切ることだった。

CDC(米疾病対策センター)東京版の創設。名前をつければ、具体的な印象を帯び、耳あたりがいい。公約の柱はできた。

そして、「密」を避けると訴え、ひたすらオンライン運動を徹底する。緑色をまとった支援者を集め、街角を回る必要などない。テレビへの露出は、日々のコロナ記者会見でたっぷり確保できるだろう。他候補との決定的な違いはそこだ。

すべては狙い通りだった。PR臭ふんぷんたる小池候補のオンライン映像はテレビ番組には使いにくい。小池氏の場面に時間を割けないとなれば、他の主要候補の運動風景もまた、制限せざるを得ない。平等な放送時間を割り当てるという昨今の呪縛は、選挙報道をつまらなくしているが、今回の都知事選たるや、あまりにも貧相だった。

テレビ局の事情を熟知している小池氏だからこそ、思いついた作戦かもしれない。街頭を避け、オンラインに閉じこもって、他候補のメディア露出を妨げる。現職でもなければ、小池氏ほどの知名度もない他候補は、街頭演説で人を集めたいところだが、「密」になればコロナ感染が怖いため、思うに任せない。

せめてテレビの公開討論会をと、山本太郎氏や宇都宮健児氏が、テレビ各局に求めたものの、結局は開かれずじまい。それも、小池候補がコロナ対策などの理由をつけて拒否したためだと、他陣営は憤る。

小池氏の気になる敵は、他の候補者ではなく、『女帝 小池百合子』という一冊の本の影響度だったかもしれない。この本が世に出たのをきっかけに、いくつかのメディアが学歴詐称問題を蒸し返した。

怪物・小池百合子が男性社会の政界でのし上がっていった秘密を綿密な取材で解き明かす興味深い本である。

著者の石井妙子氏は、小池氏がカイロ大学に通っていたころ、同じ部屋に同居していた早川(仮名)という女性から取材した事実をもとに、小池百合子氏の虚飾と実像を浮かび上がらせた。

小池氏は学生数10万人の国立カイロ大学を日本人女性として初めて、しかも首席で卒業した才媛、英語はもちろんアラビア語も堪能というふれこみで世に出た。

きっかけは1976年10月のこと。サダト大統領夫人が来日する半月ほど前に日本に戻った小池氏は、父が関係する日本アラブ協会の推薦で夫人のアテンド役をつとめた。「エジプト人でも卒業が難しいカイロ大学を卒業した初めての日本女性」と、マスコミに自分を売り込むと、新聞に取り上げられ、テレビ、ラジオにも次々と出演した。

同居していた早川さんは、カイロ大学の進級試験に落ちた小池氏が、「カイロ大学を卒業」と日本で既成事実化されていることなど知る由もない。約1か月を日本で過ごした小池氏がカイロに帰ってきたときの様子が同書で次のように描かれている。

アパートで迎えた早川さんは、わずかな期間で別人のように変わった小池を見て驚いた。…小池は嬉しそうにスーツケースから新聞を取り出すと早川さんに見せた。顔写真付きで小池が紹介されていた。早川さんは読み進めて思わず声をあげた。…「百合子さん、そういうことにしちゃったの?」小池は少しも悪びれずに答えた。「うん」…わだかまるものはあったが、小池はとにかく日本に帰りたいのだ。カイロ大学を出られなかった、とは口が裂けてもいえない。…小池はさらに続けた。「あのね、私、日本に帰ったら本を書くつもり。でも、そこに早川さんのことは書かない。ごめんね。だって、バレちゃうからね」

このエピソードに、小池氏の稀有な特質が凝縮されている。

女性らしさとしたたかさ、平気でウソをつく狡猾さと驚くべき度胸。事実を別の美しいストーリーに仕立てあげ、その主人公である自分を売り込む「人生マーケティング」の最初のステップだった。

その後、小池氏は、男社会のメディア、政界に飛び込んで、「ジジ殺し」と評されながら政財界の大物に近づき、引き立てられ、のしあがっていった。

再選を早々と決めた小池氏の当確第一声は、オンラインのライブ配信で流された。

「都民の皆様に東京大改革をご評価いただいた。コロナ対策については、集団での検査が進んでいる。今後は、東京版のCDCをつくって効率よく動かしていきたい」

支持者がいないこじんまりとした部屋からのライブ配信。「ふつうは万歳するところではありますが、コロナ禍で万歳する気にはなかなかなれません」。

一瞬緊張が走ったのは、テレビ東京の番組につながり、池上彰氏に『女帝 小池百合子』を読んだかと聞かれたときだ。小池氏は「読む暇がございません」「コロナで大変忙しくしております」と、涼しげな表情を浮かべたが、素っ気ない返答に不快感がにじんだ。

それにしても、小池都知事の新型コロナ対策は今のやり方でいいのだろうか。

新宿歌舞伎町における集団検査は、陽性者が出たホストクラブなどで実施しているにすぎない。都の担当部局は「これまでの枠組みと変わらない」と言っている。検査数は、あまりにも少なかった時に比べて増えているだけで、本格的拡充への仕組みはいまだにつくられていないのだ。

『女帝』の著者、石井妙子氏は小池都知事のコロナ対応をめぐって、以下のように書いている。

彼女はオリンピックにこだわり、自分が再選を果たせるかだけを気にし、新型コロナウイルスを軽視した。東京都が備蓄する防護服約30万着を、自民党の二階幹事長の指示のもと、中国に寄付した。しかも、決裁の手順を無視し、記録を正確に残さぬ形で。

今年2月4日に小池氏が自民党本部で二階幹事長と会談したさいに持ち上がった中国救援の話。二人とも、まだ日本での感染拡大に危機感を抱いていなかったのだろう。小池知事は二階氏の要請に応じる代わりに、都知事選における自民党の支援の約束をとりつけたといわれる。

『文藝春秋』2020年7月号によると、この情報は3月の都議会で自民党が都知事に質問するまで、まったく表に出ることがなかった。中国に恩を売りたい二階氏と、都知事選で自民党の支援を得たい小池氏の思惑が一致した結果、その後日本の医療機関が危機的な欠乏状態に陥った防護服を、議会にも報告せず、大量に中国に渡してしまったということになる。

その人が、もたつく安倍政権の尻を叩いてコロナと闘う都知事をさっそうと演じてきたのだ。やっぱり、なにかがおかしい。

image by: 首相官邸

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