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起訴された河井夫妻。新聞各紙の報じ方から透ける真の「黒幕」

河井案里容疑者が初当選した昨夏の参院選の買収事件で、東京地検特捜部は票の取りまとめを依頼する趣旨で地元議員ら100人に計約2900万円の現金を渡した公選法違反罪。検察は夫の前法相・克行容疑者を起訴、案里容疑者も5人170万円分につき買収罪で起訴しました。この件について、9日の新聞各紙はどう報じ分けていたのでしょうか?メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者で、ジャーナリストの内田誠さんが、各紙の報じ方から真の「黒幕」の存在を炙り出しています。

河井夫妻の起訴について、各紙はどう報じたのか?

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…河井前法相夫妻 起訴
《読売》…河井前法相夫妻を起訴
《毎日》…大雨被害 本州でも
《東京》…感染者増と比例せず

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…現金2900万円 趣旨が争点
《読売》…買収意図の立証 焦点
《毎日》…札束選挙 法廷で解明
《東京》…5兆円投資IT化停滞

【プロフィール】

■説明付かぬ選挙区外への配布■《朝日》
■受領した側も立件せよ■《読売》
■買収の背景に1.5億円?■《毎日》
■党本部による異常な肩入れ■《東京》

説明付かぬ選挙区外への配布

【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

現金2900万円 趣旨が争点
「総合的に買収」VS「地盤固め」
「100日で判決」困難か
与野党「辞職を」政権 乏しい説明
党本部支出の1.5億円 関連は
陣営側「広報誌の配布や電話に投入」

リードには「案里議員の陣営を応援しながら詳しい説明を避け続けてきた政権幹部への厳しい声はやまず、与野党からは河井夫妻の議員辞職を求める声が相次いだ」としている。政権幹部とは、安倍首相であり、菅官房長官のことでもあるだろう。

記事は、裁判の焦点が「現金提供の趣旨の立証」であるとして、現金を配られた地方議員の大半が受領を認めているようであることを押さえた上で、ポイントとなるのが「現金提供の時期と規模」であると解説している。今回起訴されたなかには、案里議員が立候補を表明した昨年3月からのものが含まれており、7月4日公示日との間が4か月も離れていて、「政治活動との見分け」がつきにくいため、これまでは立件してこなかったという。自民党のベテラン議員によれば「選挙から1か月以上前なら買収にはあたらないというのが我々の感覚」だという。

夫の克行議員は、現金提供は「地盤固め」と説明しているようだが、自分の選挙区である衆議院広島3区内については21人に540万円を提供したのに、地盤外の参院広島選挙区内には29人1360万円を出しており、また提供の際には「案里をよろしく」と何回も口添えしていることも特捜部はつかんでいるという。

100日裁判になる見通しだが、弁護側の戦い方次第では時間が掛かりそうだという。

●uttiiの眼

党本部からの1.5億円と買収資金との関係については、基本的なカネの流れをおさらいしたあと、ポスティングなどに1億円以上かかった(克行被告の説明)という話と、検察が原資の解明を目指して捜索を行った旨が書かれているが、全体の印象としては「一度口座に入ってしまえば、その先の解明はなかなか難しい」としていて、買収の原資を党本部からの1.5億円(大半が政党交付金)とする主張の困難さが強調されている。

受領した側も立件せよ

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」。見出しから。

買収意図の立証 焦点
河井夫妻起訴
現金提供 県内幅広く
罰金以上確定 失職や当選無効

uttiiの眼

《読売》も《朝日》同様、衆院広島3区内と区域外に配った相手の数及び金額について触れているが、《朝日》とは数字が違っている。「これまでの取材では、現金を提供した地元政治家40人のうち、広島3区内が15人だったのに対し、区域外は25人だった」とし、金額も490万円に対して1190万円と「約2.4倍に上った」とする。《朝日》の数字より分かりやすい。

《読売》は参院選直前の克行被告の激しい動きについて書いていて、「参院選前月の6月には、少なくとも800万円超を集中的に配布し、1日に6軒はしごすることもあった」という。

《読売》は前半の最後段で、重要な疑問を突きつけている。現金を受け取った首長や議員は4人が辞職しているが、かれらを含め、現金を受け取った側には公選法上の「被買収」の罪が当て嵌まるはず。もしも検察当局が、不起訴と引き換えに彼らに現金受領や買収の意図を認めさせたということであれば、不公平ではないかという。《読売》の言うように立件されれば、広島の政界は「大掃除」となるだろう。

買収の背景に1.5億円?

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」。見出しから。

札束選挙 法廷で解明
検察、現金「参院選目的」
1.5億円「買収」呼び水か
審理 長期化も
首相謝罪「党が説明」
政権に逆風 公明「議員辞職を」

《毎日》は、特捜部による捜査の展開を振り返っている。捜査の焦点が「票のとりまとめを依頼する目的で現金を配っていたと証明できるか」だという点は、各紙同様の記述。「案里議員が自民党公認を得た3月から投開票後の8月まで続いた」現金配布が、地元議員らの「当選祝い」や「陣中見舞い」だったという説明を崩したのが、「現金提供先を詳細に示した『買収リスト」』だった」という。

1.5億円の性格については、特捜部も「党の広報誌の配布費をはじめとする通常の政治活動に充てられたとみている模様だ」と言う。ただし、無関係とまでは言っておらず、「陣営の資金に余裕が生まれたことは否定できず、検察当局も買収の背景にあるとみる」として、見出しにも「1.5億円『買収』呼び水か」と書き出している。

●uttiiの眼

1.5億円の犯罪性については、《朝日》も《毎日》もほぼ追及を断念するかのような記述になっていて、気に掛かる。

党本部による異常な肩入れ

【東京】は23面社会面の記事。見出しから。

「買収」巡り 真っ向対立
検察 立証に自信「当選祝い 通じない」

公選法違反の買収か、それとも「当選祝い」や「陣中見舞い」の寄付に過ぎないのか。《東京》が取材したある検察幹部は「過去の統一選時には地元議員らへの寄付はほとんどなかったのに、なぜ今回は大規模に現金が配られたのか。領収書もほとんど受け取ろうとしていない」と指摘、さらに「案里議員の出馬表明直後から配布が始まったことからも、買収の趣旨だったことは十分に立証できる」と言っているという。

●uttiiの眼

検察幹部の買収を立証する根拠のくだり、説得力がある。《毎日》が指摘している「買収リスト」の存在と併せ、被告側には反論しづらい点だろう。

1.5億円の性格については《東京》も「巨額の援助が買収を後押ししたのだろうが、カネに色は付いておらず、原資と断定するのは難しい」という検察幹部の話を引いているが、最後にある自民党関係者の次のような言葉を紹介している。

「党本部が異常な肩入れをしなければ、こんな大規模買収劇は起こらなかったはずだ」と。

image by: 河井あんりFacebook

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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