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文筆家が愛用する「ひとりSlack」のすごい効果。アイデアは継続なり!

アイデアがひらめいた際、メモをとることをルールにしているという方は多くいらっしゃいますが、ツール選びに悩んでいる方が多いのもまた事実。いったい何を用いるのがもっとも便利で効率的なのでしょうか。今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』ではブロガーで文筆業、コンビニアドバイザーでもある倉下忠憲さんが、さまざまなツールを試した末に辿り着いた、「ひとりSlack」という方法を紹介。世界中で人気のビジネスチャットは、メモを残すことはもちろん、アイデアを育てる上でもこの上なく優秀なツールでした。

「ひとりSlackで継続的思考」 #知的生産の技術 #メモの育て方

「ある対象について継続的に考え続けるにはどうしたらいいのか?」

最近ずっと考えているテーマです。〈メモの育て方〉という連載を書いているのも、その探究の一環です。

たとえば散歩をしていて、ふと「2020年からのメルマガはどんなことを書いていこうか」と思いついたとします。それと一緒にいくつかのテーマ候補も思い浮かびました。もちろん、即座にそれはメモに書き留めます。

しかし、そうして書いただけでは終わりにはなりません。他のテーマ候補についてもアイデア出ししたいですし、それらの中から実際のテーマを選択する作業も必要です。きっとそれは、一日で完結するものではないでしょう。時間を置き、アイデアを集め、実際例を収集し、ときに他人と相談しながら少しずつ煮詰めていく工程が必要となります。

その工程をどのツールで実施すればいいのか?

ここで注目したいのがタイミングです。もし、追加で考える作業を、家の作業机の前で「よしやろう」と思ったタイミングでしか実施しないなら、どんなツールを使っても問題ありません。極厚のアナログノートでも、テキストファイルでも、なんならWordだって大丈夫でしょう。

しかし、最初に思いついたのと同じように、散歩をしているタイミングでふと思いついたらどうでしょうか。その状況で、ぱっと「以前の書き込み」を取り出せるツールでないと、思考の流れが混線します。以前考えたことをもう一度考えたり、考えるべきことが抜け落ちたりするのです。これはできれば回避したいところです。

私のメインツールの一つであるEvernoteは、こうした使い方はあまりフィットしません。モバイルでパッと情報を取り出せるかというと、やっぱり微妙なわけです。

では、他のツールではどうでしょうか。

たとえば、Ulyssesは可能性があります。一つのファイルですべてをまかなうので、断片的な思いつきを保存するのは向いています。モバイル版もキビキビ動くので特に支障はありません。わりと、適性があるツールです。

同じように、Mac標準の「メモ」アプリも、適性がありそうです。メモを任意の順番に並び替えられますし、クラウド連携も素早く、安心感があります。

一方で、Scrivenerのようなツールはこうした使い方には向いていません。もともと1プロジェクト1ファイルの体制になっているので断片的な記録が扱いづらく、またモバイルもキビキビ使えるとは言い難いものです。

やはり、ツールには特性があるものだなと考えたところで、記憶の底からコンコンとドアをノックする音が聞こえてきました。慎重にそのドアを開けてみると、「ひとりSlack」が目の前に立っていました。以前結城浩さんがメルマガで紹介されていた、チームツールであるSlackをひとり情報ツールとして運用する、というやり方です。

私も、そのときは一度試してみたのですが、結局長くは続かず、そのまま放置されている状態でした。しかし、試してみたことで、機能自体は頭に入っています。そして、その記憶が、今の思考と結び付いたのです。

「求めている用途はSlackがピッタリじゃないのか?」

Slackは、クラウドツールなのでデスクトップでもモバイルでも問題はありません。そして、チャットツールなので、ある書き込みにリプライを与えることができます。別の言い方をすると、ある書き込みを「スレッド化」できるのです。

たとえば、12月6日に散歩をしていて、「2020年のメルマガは何を書こう」と思いついたとします。それをぱぱっとslackに書き込みます。さらにその書き込みへのリプライとして、そのとき思い浮かんだ暫定テーマも一緒に書き込みます。それで、この発言群が「スレッド」になります。

翌日、また散歩をしていて「そうだ、メルマガにはこれを書けばいいんじゃないか」と思いついたとしましょう。そのときは、Slackを開き、前に書き込んだスレッドを探して、そこに追記すればいいのです。そうすることで、一連の思いつきが、一つのグループになります。

タイムライン的に(つまり時系列に)書き込んでいるのに、関連する項目群がひとまとまりになってくれるのです。まさに、こういう機能があれば、継続的思考にピッタリではないでしょうか。

そう考えて、実際にいくつかメモを残してみました。そして、理解しました。この「スレッド」こそが、ひとりSlackの肝なのだと。

Slackは、通常のタイムラインに加えて、「スレッド」というビューがあります。それを選択すると、自分が参加した(≒発言した)スレッドだけが表示されます。この機能が重要なのです。

多くの情報ツールにおいて、複数の情報をひとまとめにする機能は付いています。それはそれで便利なものです。しかし、それらのツールでは「ひとまとめにした情報」だけを抽出する手段がありません。あるにしても、一手間も二手間もかかってしまうことが大半です。

その点Slackは、最初からそのためのビューが用意されています。たったワンクリックでそのビューを呼び出せるのです。よって、利用者はスレッドを積極的に使っていけます。

どういうことでしょうか。

スレッド化したものだけを抽出できる(しかも発言順で時系列に並ぶ)というのは、一種のフィルターです。タグを付けて、そのタグが付いたものだけを引っ張り出すのとやっていることは同じなわけです。

しかし、スレッドの場合、タグ付けのような特殊な操作、言い換えればメタ作業を付与するためだけの操作は必要ありません。発言にリプライを与えればいいのです(実際は「スレッドを開始する」をクリックする)。

そして、ここからが重要なのですが、以下の二つを比べて、継続的に考えたいのはどちらの方が多くなるでしょうか。

さまざまな例外はあるでしょうが、やはり「継続的に書き込まれているもの」の方が、さらなる書き込みの可能性は高いのではないでしょうか。類は友を呼ぶではありませんが、何度も考えていること(≒言及しているもの)であればあるほど、さらなる追記の可能性は高まります。逆に、一度もスレッド化されなかったものは、そのままスレッド化される可能性はどんどん小さくなってきます。

つまり、「スレッド」のビューで呼び出される項目は、自分が複数回言及している対象であり、それは疑似的に重要度のパラメータとして採用できる、ということです。

上記のような性質は、どことなく「押し出しファイリング」を彷彿とさせます。

「押し出しファイリング」の要点は、新規作成されたもの、一度取り出したものは必ず右側に戻す、というルールにあって、このルールのおかげで整理のための活動が必要なくなり、使っていくうちに自動的にファイルが整理されていきます。

ひとりSlackのスレッド化も同様です。整理のための特別な操作は必要ありません。何度も思いつくことは、スレッド化して追記する。そのルールを守るだけで、必要なもの(追記したい対象)は「スレッド」ビューですぐさま見つけられるようになります。そうして新しい書き込みが増えたスレッドは、また次の日見つけ出すのも容易になる、というわけです。

この性質を逆に使うことで、明日の自分に先送りしたい項目をあえてスレッド化しておくという方法も考えられます。そうしておけば、たくさんの書き込みがあったとしても、明日の自分は容易にその書き込みを見つけられるようになるわけです。

このように考えると、「ひとりSlack」は、継続的かつ間欠的な思考の保存場所としてたいへん優れた適性を持っていることがわかります。

基本的にはタイムラインのように時系列に書きながら、継続的に考えたいことについてはスレッド化して抽出できるようにする。しかも、それは特別な操作感ではなく、まさにそれをしたいと思って実行する行為です。これはハイブリッド的な良さがありますね。

紙のノートを使っているなら、たとえば表紙に付箋を貼り付けることで、重要な事柄を目立たせることが可能ですし、他にもいろいろ方法はあるでしょう(※)。

※本号「モレスキンノート術」参照

一方、デジタルツールの場合、項目の順番を任意で変更できないと、そのような対応はほとんど絶望的です。せいぜい「継続的に考えたいこと」というタグをつけて対処するしかありませんが、その行為の「わざわざ感」は継続を補助してくれはしないでしょう。さらに言えば、Evernoteに代表されるノートツールは、ノートの中身を自由に彩れても、ノートリストの項目色を変えることはできないので、特定のノートを目立たせるのが難しいのです。

※絵文字を入れるというのが最大の手段です。

では、項目を任意の順番で並べられるツール(アウトライナーやUlysses)ではどうかと言うと、もちろん重要なものを上位に位置させる対応が可能ですが、書き込みが頻繁になると移動の手間は増えます。それが「まあ、いいか」というマインドを増長させてしまう可能性は否定できないでしょう。

その点、「ひとりSlack」は、スレッド化したものだけを標準で取り出せますし、スレッド化する行為自体がナチュラルです。特別な操作をしている感じがしないので、自然に続けていけます。これは長い間使い続けるほど、効果が実感できる要素でしょう。

というわけで、「ひとりSlack」は継続的思考の引受先としてピッタリだという話をしてきたわけですが、天の邪鬼な私は「じゃあ、Slackを使おう」となるのではなく、この性質を理解した上で、たとえばScrapboxを使ったらどうなるか、ということについて考えたくなります。

image by: Piotr Swat / Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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