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安保法制は60点。軍事評論家が総括する「安倍政権に欠けていたもの」

安倍首相の突然の辞任表明を受け、マスコミの注目は総裁選の行方に集まっています。首相が誰になったとしても長期間にわたった安倍政権の功罪を検証し、とりわけ「罪」の部分は改めなければなりません。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、安倍政権のコロナ対応の拙さを招いた「官邸官僚」主導の限界を指摘。政治ドラマ『ハウス・オブ・カード(野望の階段)』などに見られるホワイトハウスの人材活用術に学ぶところがあると進言しています。

安倍政権、『官邸官僚』の限界

安倍首相の辞任表明を受けて、その評価をしなければならないのですが、長期政権を維持できたことで国際的な信頼を獲得できたことは間違いありません。オバマとトランプを相手にした日米関係の深化、サミットにおける存在感の発揮、それを受けた中国、ロシアとの一定の外交関係の維持…。これについてはプラスの評価を与えることができます。

私も衆議院で参考人として話した安保法制は、かろうじて60点でしょうか。経済政策でも、批判することは簡単ですが、就任時の倍以上になった株価だけを見ても、それなりの成果が生まれたとするのは、多くのエコノミストの言うとおりです。

コロナ対策については、これからお話しするような仕掛けが欠けていることで迷走した部分があるのは事実ですが、それよりもなによりも残念だったのは安倍首相の私的な問題の処理が上手にできなかったこと、政治を私するような事柄が目に余ったことです。

森友、加計、桜を見る会の問題は明らかにやり過ぎです。それでも、問題化したあと国民に素直に謝罪していれば、それで事なきを得た可能性があるのに、ガンコに強弁をしすぎた。これでは安倍シンパでさえ心証を害し、支持率が低下するだけでなく、安倍首相への評価まで引き下げる結果になるのは避けられませんでした。そこで、安倍政権に欠けていた仕掛けについてお話ししたいと思います。

安倍首相は今井尚哉首相補佐官兼首相秘書官、北村滋国家安全保障局長といった「官邸官僚」を駆使し、内政外交を進めてきました。文字通り官邸主導だった訳です。しかし、この「官邸官僚」たちだけで国家の運営がうまく行く訳はありません。国家安全保障会議(NSC)を機能させ、日本版FEMA(緊急事態管理庁)や情報機関を創設して動かすことまで行かなければ、巨大な国家の営みに目配りなどできる訳がありません。

安倍政権の「官邸官僚」による官邸主導は、うまくいった場合、失敗したケースを含めて、あくまでも個人プレーだったことを忘れてはならないのです。本当にNSCや日本版FEMA、情報機関などの司令塔に能力を発揮させようとすれば、それを動かすチームが首相を支えていなければなりません。安倍政権では、そのチームが「官邸官僚」だった訳ですが、当然ながら得手不得手があります。それを補う仕掛けが必要なのに、存在しませんでした。

どうすればよいのか。たとえば「官邸官僚」の中心にいる今井首相補佐官や北村国家安全保障局長は、NSCなどを機能させるだけの能力を備えた人材を、それこそ、とっかえひっかえ投入しなければならなかったのです。NSCがあるから大丈夫と丸投げしていては、NSCが機能する訳がありません。

米国のホワイトハウスの内幕を描いた数々の書籍を見ても、首席補佐官以下の大統領のスタッフと、その下で働く専門家集団の入れ替わりの激しさは、驚くほどです。人材の入れ替わりは、大統領の好き嫌いの問題に矮小化されがちですが、国家の組織を機能させるための試行錯誤の結果だと見てもよいのです。本を読む時間がない向きには、Netflixの政治ドラマ『ハウス・オブ・カード(野望の階段)』をお薦めします。大統領を支えるスタッフたちの姿が、リアルに描かれています。

ポスト安倍で名前が挙がっている皆さんに申し上げたいのは、日本版FEMAやCDC(疾病予防管理センター)の創設が必要だと言っているだけでは、組織を作ることが最終目標になってしまい、その組織は機能しないということです。必要な組織は、小さなチームからでもよいから設置してください。そして、それを動かすための人材を自分の周辺に配置し、その人事も固定化しないようにしてください。それでは、お手並み拝見と参りましょう(笑)。(小川和久)

image by: 首相官邸

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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