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「アホノミクス」と吠える浜矩子の論理が破綻している明白な理由

次期総理最有力候補である菅義偉官房長官が、その継承を明らかにしているアベノミクス。合同野党の代表戦の論点にもなっているアベノミクスですが、安倍政権が目玉と謳い続けてきた同政策について、正しい「評価」はなされていないようです。今回、米国在住作家の冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、賛成派・反対派双方の主張の問題点を論理的に指摘しつつ、与野党に対して「アベノミクスを正しく再評価するべき」との要求を記しています。

アベノミクスの再評価をごまかすな

安倍総理辞任を受けて、自民党総裁選と、合同野党の代表選が進行中です。そんな中で、アベノミクスへの評価というのも論点になっているようですが、話の中身は極めて表面的です。

賛成論の多くは、円安政策は継続ということのようです。ですが、その場合にも少なくとも6つの問題点があります。

とにかくこの6点をしっかり考えた上で、円安政策をどうするのか、明言はできなくても、危機感だけは伝わってくるような政策論議を期待したいです。現状は、極めて残念と思います。

とにかく現状のアベノミクス論ですが、日本の現実派からは、

といった生ぬるい議論ばかりです。この「第3の矢はスロー」という点については、私もそのような言い方に傾いていたのですが、ここは「円安政策が構造改革を阻害していた」という認識が必要な時期であると思います。そんなに難しい理屈ではありません。

多国籍企業の場合に、日本における「日本語と紙による事務仕事」は円安だとコストが圧縮して見えるので改革圧力が弱くなるということが一つあります。そして円安だと国際労働市場と技術者や専門職の給与水準が大きく乖離するので、先端的な人材を国内で採用できなくなる、この2点を考えただけで、円安が改革の敵だということは理解していただけると思います。

一方で左派のアベノミクス批判に至っては、論理破綻の惨状を呈しています。例えば浜矩子という経済の先生は、アベノミクスのことをアホノミクスと呼んで吠えていますが、その内容としては、

などというトンチンカンなことを言っておられます。いいですか、アベノミクスは良くも悪くも円安政策が柱なのですよ。仮にそれをアホノミクスだと言って否定するのであれば、円安でなく円高が良いということになります。

日本経済が現状のままであって、そこに円高が来たら、現在の生産性向上では済まないような大リストラがされるのです。そうでなくては、多国籍企業は利益を出せないからです。働き方改革などのマイナーな改革ではなく、徹底した改革が要求されるのです。事務仕事は資金調達、会計、法務、契約などすべてが英語化されて、日本での紙と印鑑の仕事はもう残らないと思います。

私は、まだ日本の経済社会にはその改革をするだけの余力はあり、ラストチャンスとして取り組むべきと思いますが、百歩譲って、浜先生の立場に立って「そういった生産性のダイナミックな向上策」は非人間的でやめるべきだと考えるのなら、円安政策であるアベノミクスを認めなくてはおかしなことになります。

野党の経済政策もかなり怪しさ満点です。枝野氏などは「まず賃金を上げる」という政策で、それが実現すれば回り回って人間的な社会になるなどというファンタジーを描いていますが、違うと思います。知的で高付加価値な労働が、ジャンジャン国外流出している現状をどう変えるのか、その点に危機感がなければ、絶対に結果は出ません。

いずれにしても、今回の政変を機会にして、アベノミクスの再評価がされると思いますが、とにかく与野党ともに真面目に考えていただきたいと思うのです。

野党分裂のテクニカル要因をどう見るか?

野党統合が進んでいるわけですが、「立憲にいる」、「国民民主から立憲との合同にきた」、「合同には行かない」という3つのグループが存在しているようです。

ところで、結局のところ選挙制度としては小選挙区の定数は1ですから、分裂すれば自民党と公明党の連合が有利になります。ですから、野党が分裂していることで、自民党の政権が維持できているわけです。では、そうであるにもかかわらず、どうしてこの3つのグループに分かれているのかという理由ですが、

  1. 官公労を敵に回しても官公庁のリストラをすべきかどうか?
  2. 共産党との選挙協力を認めるか、認めないか?
  3. 小池(あるいは橋下)が動いた場合にそっちへ流れる可能性を残したいのか?

という3つの問題で追及していくと、どうやら3つの色分けが見えてくるようです。つまり、テクニカルな要因としては上記の3つの問題があって、それで一緒になれないということが明確になってきたように思われます。

ということであれば、今回のドタバタ劇は、これでもまだ対立構図が見えてきただけ「多少マシ」になってきたということなのかもしれません。

もしかすると、安全保障面での「一国平和主義」を掲げるかどうか、エネルギー政策面での「原発即時廃止」を言うかどうかといった問題で分裂(今でもその分裂はあるにしても)しているよりは、分かりにくいかもしれませんが、何とかまとまるのかもしれないと思って見ていこうと思います。

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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