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元ミス同志社アナリストが解説。日本株に投資するバフェットの真の狙いとは?

米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本の5大商社に投資していることを明らかにし、市場関係者を驚かせました。発表を受け、5大商社の株価が軒並み急騰するなど、この動きを歓迎する声が多く聞こえてきます。バフェット氏による日本株への投資の裏には、どのような理由があるのでしょうか?株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが解説していきます。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

投資の神様バフェットが認めた「日本の5大商社」

総合商社と言えば、高給で就職ランキングでも人気の高い業界です。日本に残された最後の旧来型エリート集団とも言われている業界ですが、株式市場では今まであまり人気がありませんでした。商社株は評価が低く、割安に放置されています。むしろ、商社の稼ぐ力に限界が見え始めている、とも言われていました。

そんな、日本の商社に朗報。5大商社株を著名投資家ウォーレン・バフェット氏が大量購入していたのです。

アメリカ時間8月30日、バフェット氏の90歳の誕生日に、日本の5大商社株(伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)をそれぞれ5%超まで取得したという報道に株式市場が沸き立ち、5大商社の株価は軒並み上昇。

バフェット氏の誕生日に発表し、わざわざプレスリリースまで出して注目を集めた背景には、これが重要な投資であることを意味していると言えるでしょう。

なぜ日本の商社に投資をしたのでしょうか?バフェット氏の投資判断は、アフターコロナの世界の世界を見通すヒントになるはずです。

バフェット氏と言えば「バリュー株」投資

バフェット氏の投資手法として有名なもの「バリュー投資」です。バリュー株とは、企業価値に比べて株価が割安な銘柄を購入する手法。一般的にバリュー株投資は、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの株価指標が割安になっている銘柄を指します。

東証一部の平均PERは約15倍ほどで、成長性の高いと見なされている企業であれば、60~100倍といった数値はざらにあります。一方、PBRは1倍を割れていると割安の目安となります。

では、商社株がどのくらい割安だったのでしょうか。

5大商社株の株価バリュエーションは20年8月31日時点では、PERは10倍~18倍、PBRは伊藤忠を除いては全て1倍以下と、企業価値を高く評価されていませんでした。

アメリカ株はずいぶんと上昇してきており、成長性が見込めるものの中で、割安株を探すことが難しくなってきています。そこで、日本株に目を向けた際に、割安で放置されている商社株に目を付けたということになるでしょう。

なぜ、日本の商社株は今まで放置されていたのか

これまで商社株が評価されてこなかった大きな理由の1つが、総合商社は「コングロマリット・ディスカウント」として投資判断するのが難しいといった点です。

「コングロマリット・ディスカウント」とは、例えば「ラーメンからミサイルまで」といわれるように、商社はとても幅広い商品を扱うため、全ての事業を精査することが難しく、「何をやっているのか、よく分からん」ということです。

しかし、著名投資家のウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャーハザウェイは、傘下の事業会社にエネルギー、金融、金属加工など幅広い事業を抱えるコングロマリットの側面を持っている企業でありながら、株式市場からは高い評価を得てきました。

そんなコングロマリット企業であるバークシャーにとっては、日本の商社株の状態をある程度把握でき、今後企業価値を向上させる自信がある、ということでしょう。

コングロマリット企業として評価されにくかった日本の商社株が、この先どのくらい価値を高め、企業価値が評価されていくのかとても楽しみです。

商社株のどこが魅力的?

続いて、アフターコロナの世界を考えてみましょう。商社のメリットはどこにあるのでしょうか。

今、各国の政府や中央銀行がコロナウイルスの危機から世界を守るために、金融緩和を行っています。景気刺激策としての給付金や、コロナのダメージが大きい航空会社や飲食業界などの企業の救済を行うために、金融市場へ多額の資金を投入しているのです。

この多額の資金供給が、後々インフレを招くのではないかとの懸念があります。さらに、FRBのパウエル議長がインフレ率について、年間目標である2%を上回ることを容認すると述べていることからも、インフレリスクについての議論が大きくなってきています。

しかし、民間エコノミストたちの見解では、アフターコロナの世界は、インフレではなくむしろデフレだという意見がほとんどです。

消費者物価指数(CPI)の上昇は、思っている程簡単には上昇しない可能性が高く、過去のデータを見ても、大きな危機の後は日本の卸売物価指数にあたる、生産者物価指数(PPI)が上昇しやすくなります。

つまり、景気が回復した際に、まず『BtoBの物価が上がりやすい』=『商社が有利な状況』が生まれやすいと考えられるでしょう。

商社投資はリスク分散?

先ほど述べたように、商社は幅広い産業に関わっているため、「商社に投資すること自体が分散投資になる」との見方もあります。そして、バフェット氏はどこか1社だけに投資したのではなく、日本の5大商社をまとめて購入しました。この取得方法からも、リスク分散していることが伺えます。

商社のなかでも得意とする領域が違うため、5社に全て投資することでリスク分散しながら、日本の商社業界そのものに投資をしたと言えるでしょう。

コロナ危機によって世界の株価は大きく値下がりしましたが、金融政策によって株価の回復が進んでいます。しかし、株価が大きく戻った筆頭はアップルやマイクロソフトといったプラットホーム企業です。

アフターコロナの世界では、デジタル化がさらに進むという見通しから、これらの値動きは当然の動きではありますが、上がり切った銘柄の高値をさらに追うといった状況になっています。

バフェット氏は元々、割安で安定銘柄に長期投資する投資手法を得意としていますので、バフェット氏が買える銘柄は極端に少なくなってきているのです。

また、バフェット氏は日本株や金に投資しないことで有名ですが、コロナショックの中で彼の投資行動が大きく変わっているとも言えるでしょう。日本の5大商社株を取得し、金鉱山の株も買っています。

危機的な状況の中では、今まで有り得ないと思われていたことが普通に起きるのです。こういった危機の中だからこそ、当たり前を疑い、柔軟に対応していく必要があるでしょう。

アフターコロナは日本株に光があたる

バフェット氏は日本の商社株が割安だというだけでという考えではなさそうです。なぜなら、バークシャーは傘下の事業会社にエネルギー企業を抱えていますので、日本の商社との協業も視野に入れていると言われています。純粋な株式投資だけではなく、ビジネスでも連携していくということになりそうです。

今回のバークシャーによる日本の5大商社への投資は、「日本への投資」という側面が大きく、世界の投資家があらためて、日本株を見直すきっかけになるでしょう。

image by : 著者提供

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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