世論調査で74%という高支持率を得て船出した菅義偉新政権。しかし、継続を謳った安倍政権がやり残した宿題は難題ばかりで、国民の期待に応えるのは簡単なことではありません。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、問題解決のためにはまず「日本でしか通用しない物差しを棄てること」と説き、菅さんが師匠と仰ぐ梶山静六元官房長官の言葉を紹介しています。
菅さんは「大医」になれるか
菅義偉新政権がスタートして1週間。コロナ対策をはじめ、難問に取り組む姿勢が国民の好感を呼び、世論調査の内閣支持率は74%(読売、日経)にも達し、期待の大きさを物語っています。
これまでにも、この編集後記で日本の首相の権限は米国の大統領より強力なこと、安倍晋三前首相は「官邸官僚」を駆使することによって強力な権限を振るい、安定政権を持続できたこと、などを書いてきました。菅首相が安倍官邸を官房長官として支え、官邸官僚が動きやすいように内閣人事局を使って官僚機構ににらみを利かせていたのは周知の事実です。
その菅さんが可能な限り速やかに着手しなければならないのは、安倍政権が残した宿題の数々を片付ける作業でしょう。尖閣や北方領土の問題、沖縄県普天間飛行場の移設、拉致問題…。本当に難問ばかりで気の毒なくらいですが、正攻法で取り組めば一定の解決を見出すことができない訳ではないと思います。
それを実現するためには、戦略的な視点を備えることによって、日本でしか通用しない物差しを棄てることから始めなければなりません。菅さんが師匠と仰ぐ梶山静六元官房長官の「官僚の言うことを鵜呑みにするな」をはじめとする言葉の真髄は、その点にあるのではないかと思います。そのためには、首相、政治家と秀才を集めた官僚機構の位置づけについて整理しておく必要があります。
中国唐代の名医・孫思邈《そんしばく》の著書『千金方』に「上医医国、中医医人、下医医病」という言葉があります。上医は国をいやし、中医は人をいやし、下医は病をいやす、と読みますが、「上等の医者は国を治す能力があり、中等の医者は人を治すことができ、下等の医者は病気しか治せない」という意味です。
これを首相、政治家、官僚機構に当てはめると、官僚機構は下医の仕事を担当していることがわかります。そして、中医は政治家、大医は宰相、それも戦略眼を備えた宰相ということでしょうか。
むろん、下医のレベルにある限り、大医の仕事はできません。その下医に大医の仕事まで丸投げしてきたのが、これまでの官僚依存体質なのです。実を言えば、梶山さんにも官僚OBを信頼して失敗した過去があります。菅さんが梶山さんに恩返しをするためにも、その失敗を成功に転じるために、大医になってもらいたいと思っています。(小川和久)
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