近年、海底を舞台に新たな技術競争が始まっています。その主役となるのはUUV(水中ドローン)。軍事、インフラ保守、資源開発といった複数の分野を横断しながら、この技術は次の10〜20年で巨大産業へと成長する可能性があるとも言われています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアの中島聡さんが、水中ドローンというメタトレンドについて背景と構造を整理しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
UUV(水中ドローン)というメタトレンド
最近はAIやロボットの話題が多い私ですが、実はもう一つ、これから10~20年のスパンで非常に大きな産業になる可能性のある分野があります。
それが UUV(Unmanned Underwater Vehicle、水中ドローン) です。
空を飛ぶドローンや自動運転車の話はよく耳にしますが、実は海の中のロボットも同じくらい重要な技術になりつつあります。むしろ長期的には、宇宙産業よりも大きな市場になる可能性すらある、と言う専門家もいるほどです。
今回は、この「UUV」というメタトレンドについて整理してみたいと思います。
地球の表面の約71%は海ですが、その海底のほとんどはまだ十分に調査されていません。人類が詳細に把握している海底は20%程度とも言われています。
宇宙は広大ですが、人間が実際に利用している領域はかなり限られています。一方、海底にはすでに人類の経済活動を支えるインフラが広がっています。
海底通信ケーブル
ガス・石油パイプライン
海底電力ケーブル
海底センサー
特に重要なのが海底通信ケーブルです。インターネット通信の約95%は衛星ではなく海底ケーブルを通っています。つまり、世界のデジタル経済の背骨は海底にある、と言っても過言ではありません。
そんな海底インフラの脆弱性を世界に知らしめたのが、2022年のNord Stream パイプライン破壊事件です。
バルト海を走るガスパイプラインが爆破されたこの事件は、「海底インフラは実はほとんど守られていない」という事実を各国に突きつけました。数千kmにわたり、水深数百~数千メートルに広がる海底インフラを、人間が潜水して監視するのは現実的ではありません。そこで必要になるのが海底ロボットです。
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この流れは軍事分野でも同様です。米海軍は将来的に、艦隊のかなりの部分を無人システムに置き換える構想を検討しています。
代表的なプロジェクトとしては、大型UUV、潜水艦発射型UUV、長距離自律型UUVなどがあります。その一つがOrcaと呼ばれる機体で、小型潜水艦に近いサイズで偵察や機雷敷設などを自律的に行うことを想定しています。
背景にあるのはコストの問題です。最新の攻撃型原潜は一隻あたり約30億ドル。一方、UUVは数百万ドル程度で作れる可能性があります。
潜水艦1隻 = UUV数百機
この構造を考えれば、軍事アナリストの間で「水中ドローンの群れ(UUV swarm)が海戦の主力になる」という議論が起きているのも、当然のことかもしれません。
UUVの重要性は軍事だけにとどまりません。もう一つの大きな理由が海底資源です。ハワイとメキシコの間に広がるクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)には、多金属団塊と呼ばれる鉱物が大量に存在しています。この団塊にはニッケル、コバルト、マンガン、銅――つまりEVバッテリーに必要な金属が豊富に含まれています。
The Metals Companyなどの深海採掘企業が海底ロボットを使った採掘を計画していますが、深海の生態系は非常に脆弱で回復に数百年かかる可能性もあると言われており、環境面での議論は今後も続きそうです。
UUV産業は、いくつかの技術レイヤーに分かれています。AI・自律航行、ミッション制御ソフト、ソナー・センサー、バッテリー、機体――この中でも特に重要なのが海底ソナーと水中バッテリーです。海中ではGPSも電波通信も使えないため、ソナーによる地形認識と長時間動く電源が勝負を分けます。
この分野で注目されている企業の一つがKraken Roboticsです。高解像度の海底ソナーと深海用バッテリーを開発しており、水中ドローンの「目」と「電源」にあたる部分を手がけています。
「次のフロンティアは宇宙」とよく言われますが、実は人類にとってもっと身近で巨大なフロンティアが海底なのかもしれません。海底通信、海底エネルギー、海底資源、海底軍事――AI、ロボット、エネルギー、地政学のすべてが交差する場所が、海の中なのです。
UUVは、その中心にある技術です。これから10~20年で、この分野がどこまで大きくなるのか。投資の視点からも、非常に面白いメタトレンドだと思っています。
(注:私はKraken Roboticsの株を少しだけ持っています。本当に手に入れたいのはAndriulの株ですが、未上場で入手が不可能なため、Andriul向けに水中バッテリーなどの技術を提供しているKraken Roboticsの株を入手しました)
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