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国会を“メンツと権力の道具”として利用した高市早苗の罪。“良識の府”に予算成立の強行突破を阻まれた自業自得

今年1月に強行した衆院解散総選挙の圧勝で、強固な権力基盤を手にした高市首相。しかしその強権的な国会運営は、結果的に首相が執着した「年度内予算成立」という目標を頓挫させることとなりました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、高市政権が暫定予算案の提出という「政治的敗北」を喫することとなった要因を分析。さらに今般の国会で露呈した「高市早苗の正体」を喝破しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題::高市流傲慢が生んだ「政治的敗北」の深層

泡と消えた「年度内予算成立」。高市流傲慢が生んだ「政治的敗北」の深層

高市首相ただ1人がこだわってきた26年度当初予算案の「年度内成立」は、時間切れで泡と消えた。予算審議が遅れるのを承知で衆院解散を強行した自分のメンツのために、どだい無理なことを自民党幹部に押しつけ、とどのつまり、「参院の壁」に阻まれて、無残な結果に終わったかっこうだ。

高市首相は高い支持率を背景に、自らの権力を強化するため、1月19日に衆院を解散した。そのかいあって、自民党は圧倒的な議席数を獲得し衆院での少数与党状況を解消、党内における求心力を高めることにも成功した。

強いリーダーの資格を得た高市首相は、実質的な自民党の支配者とみられた麻生太郎副総裁に衆院議長ポストへの就任を勧め、怒る麻生氏の拒否にあいながらも、「一強」体制へ着々と歩みを進めた。だが、外部の敵から“解放”された高市首相を待ち構えていたのは、その内面に潜んでいた“魔物”だ。

新年度予算の審議入りが当初予定より1か月も遅れ、日程上、「年度内成立」が不可能であることは誰が見ても明らかだった。それでも、高市首相は「年度内成立」を諦めなかった。なぜそこに執着したのか。

歴史的な大勝利をおさめた総理大臣の頭を支配するものは、我々凡人の想像の及ぶところではないが、おそらく自己陶酔や万能感といったものが無意識のうちに広がっていたであろう。そんな心理状況にあって、唯一、“不満”があるとすれば、「解散で政治空白をつくったために予算執行が遅れ、国民生活がリスクにさらされる」といった批判の声だったはずである。

その批判があまりにも“正論”であるがゆえに、負けん気の強い高市首相は意固地になった。つまり“メンツ”にこだわった。国会運営に関わる自民党幹部をわざわざ首相官邸に召集し、「年度内の成立を諦めていない」と語ったのは、もちろん予算の超スピード審議を促す号令であり、絶対服従を求める圧力だったはずである。その心の底に、ここまで国民の信任を得た自分にできないことはないという驕り高ぶりがなかったとは言えないだろう。

その後、国対族としてならしてきた坂本哲志衆院予算委員長が職権を乱用し、野党が反対する中で一般質疑の開催や採決を職権で相次いで決定、わずか59時間に審議時間を短縮して予算案を通過させたのは周知の通りだ。

審議の短縮に反発する野党議員の追及に対して高市首相は同じ答弁を繰り返した。「国会の運営につきましては、国会においてお決めいただくものと承知しております」。

だが、これが“逃げ口上”であることは火を見るより明らかだ。高市首相の腹の中に「国会審議を短縮してもかまわない」という観念があるからこそ、その意を受けた予算委員長らが安心して動けるのだ。

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参院自民の「衆院のカーボンコピーではない」という強い自負

それにしても、なぜ国会審議をそれほど軽視できるのだろうか。どんなに時間をかけても、結論は同じ。そういうことなのだろう。かねてから指摘されてきた通り、たしかに国会は「形骸化」している。

省庁が立案した政策を自民党の政務調査会や総務会で議論し、そこで了承されたら、国会で成立したも同然。野党がどんなにその政策を批判しても、修正されることはまずない。それでは、国会は一体何のためにあるのか。ドイツなどでは議会で1,000か所以上も予算案を修正するのが普通らしい。予算案に指一本触れさせない日本に対し、修正こそが議会の権威であるとする欧州諸国との差は絶望的だ。完全な予算案などない。だからこそ、議会があるのだ。

ところが、日本の首相が国会の不思議なありようを逆手にとって、予算案の審議短縮をするよう圧力をかける。これでは、国のトップが率先して「国会の形骸化」を促進しているということになりかねない。

むりやり衆院の審議を短縮させたものの、少数与党である参院では、高市首相のアテは外れた。

そもそも参院には「良識の府」として、衆院のように政局に左右されず、じっくり議論を進めるべしという風土がある。同じ自民党でも参院自民党には、古くから「衆院のカーボンコピーではない」という強い自負があり、野党とも協力的な姿勢を示す傾向が強い。

参院が少数与党である以上、予算成立には野党の協力が不可欠だ。しかし、衆院での強行突破がその交渉を困難にした。国会対策は、ふだんから野党との信頼関係や「貸し借り」で成り立っている。

衆院があれほど無茶をしたのだから、自民側が「まあまあ、ここは一つ…」と頭を下げても、野党側の拒否感は強い。それがわかっているだけに、自民側も、無理に野党を説得しにかかって泥をかぶるのを避けようとした面もある。

しかし、いくら衆院で圧勝しても、少数与党の参院では通用しないことくらい、熟練の政治家であれば、わかっているはずだ。最初から暫定予算を組む方針を鮮明にすればよかったのに、「年度内成立」をごり押ししたがために、野党の協力を得られる見通しがたたず、暫定予算に頼るしか手がなくなってしまった。

高市首相は参院のコントロールを含めた党内ガバナンスが弱いのに、自分の影響力を過信してしまったともいえるだろう。

参院で議決できなければ、新年度予算案は4月11日を過ぎれば自然成立する。その間の11日分のつなぎ予算を組んだわけだが、それで良しとするのではいささか問題意識が足りない。

暫定予算では、新規の政策経費を計上することは原則として許されない。今回、例外的に小学校給食や高校授業料の無償化が計上されたが、その他の新規事業の予算執行が遅れる見通しだ。たった11日の「空白」が、民間のビジネスチャンスや自治体の計画を狂わせ、事務手続き上、新規事業のスタートを数週間も後ろ倒しにさせてしまう。

つまり、暫定予算を組むこと自体が政治的敗北であり、そうならないためには、1月に衆院解散をするなどという無謀なことをするべきではなかったのだ。

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そう簡単に取り戻せるものではない「統治の正当性」

高市首相の最大の罪は国会の「形骸化」を、自分のメンツと権力の道具として利用したことだ。民主主義の手続きを「無駄なコスト」と見なす傲慢さが、皮肉にも統治の空白を招いたといえる。

政治家のメンツが重んじられ、国民の暮らしが軽んじられる。この優先順位の逆転こそが、高市政権の正体だ。

結局のところ、今回露呈したのは「強い総理」の姿ではなく、民主主義という手続きの重みに耐えきれず、自ら瓦解した権力の「軽さ」であった。暫定予算という政治の空白は、いつか埋まるだろう。しかし、効率のために熟議を棄て、メンツのために国民生活を犠牲にして失った「統治の正当性」は、そう簡単に取り戻せるものではない。

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image by: 首相官邸

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