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【書評】なぜ志村けんはコントの共演者に「死ぬ」ことを求めたか?

昭和から平成、令和のお笑い界を駆け抜け、今年3月末に新型コロナウイルス感染症により70歳で忽然とこの世を去った志村けんさん。そんな志村さんが綴ったとされるコラム160編を収めた書籍が、好評を博しているのをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、そんな「じつによく仕上がった」と言う一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:志村けん『志村けん 160の言葉』

志村けん 160の言葉
志村けん 著/青志社

志村けんは2020年3月29日逝去、享年70歳。日本中がその死を悼んだ。きっと本になると思っていたら、早くも8月19日に青志社から発行された。編集人・発行人は阿蘇品 蔵、珍しいお名前だ。表1は須藤夕子による、志村けんが僅かに首をかしげたステキなポートレートだ。表4はおなじみ「バカ殿様」の衣装で、アイーンのポーズ。

まえがきで加藤茶が「志村がいた日々」を書いている。うまい。うますぎる。志村が書いたとされる160編のコラムは、「日経エンタテインメント」はじめ多くの雑誌のインタビュー、対談における発言を整理・再構成したもので、各編のタイトル代わりの本文抜き出しがうまい。プライベートを含めて、写真も少なくない。編集者の腕が冴える。いい仕事したな。うらやましい。

志村が今までこだわってきたのは、時間をかけ準備して、細部まで作り込むお笑いである。ネタを考えるだけでなく、番組全体の構成、照明、セット、音楽まで、以前はすべて自分でやっていた。そのために、ありとあらゆるジャンルの音楽を聴き、映画も山のように見る。新しく出たビデオやDVDはすべて買う。家にどのくらいの映像資料があるのか、自分でもわからないという。

コントで共演者に求めるのは、基本的に芝居がちゃんとできる人。それと、「死ぬ」ということがわかる人だという。たとえば加藤茶がウケる場面では、ほかの人たちは自分を「死なせて」、加藤を助ける芝居をする。あえて引き立て役に徹することができるか、ということだ。「おれが、わたしが」な人が多い芸能界、志村にとっては、一緒にやりたくない人だらけだったのではないか。

志村にもすごくウケない時代があった。一生懸命やっている姿って、お客さんは見たくないのだ。いかにも遊んで、楽しんでやってるふうに見せると、お客のほうも楽しくなる。そのことが、やって1年か2年のときに分かったという。

一生懸命やっているっていうのは腹の中に置いときゃいいだけで、お客には「いいなあ、おまえ、好きなことやってて」って思わせなきゃいけないんですよね。

よく“ベタ”な笑いって言われるんだけど、それは“腕”がないとできないんだよね。ここでこうなるって分かってて笑わせるんだから、飽きられないために手法を変えたりするんだけど、それもベタができていないとできない。舞台なら内容の6割が、こうなってこうなるという予測どおりに運んで笑えるっていうくらいがいい。6割方予測通りに進んで、あとの4割は予測がつかないってのが、お客さんが一番たのしめて、気分よく帰れるんだよ。

「本書は志村けんさんのインタビュー、対談などにおける発言を再構成したものです。尚、本書で掲載された記事について、著作権者等からの権利申し立てがあった時は、すべて弊社で責任をもって対応致しますので、当社編集部までお申し出下さい」と編集部が巻末に記す。ここまできちんと記す出版人も珍しいと思う。普通の寄せ集め再編集本ではない。じつによく仕上がった一冊である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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