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NY「再ロックダウン」報道の嘘と本当。現地で何が起こっているのか?

新型コロナウイルスの感染が欧米各地で再び急速な広がりを見せ、規制強化の動きが出ています。米ニューヨークからも「ロックダウン」という言葉が聞こえてきましたが、その実態は陽性率の高い地域に限定されたものとのことです。NY在住『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』著者のりばてぃさんが、ニューヨークの感染状況を詳しく伝え、感染拡大の原因となっているユダヤ教超正統派の独特の考え方を紹介。その教えの根幹にはナチスドイツによって受けた迫害の影響があると明かしています。

NYが再度ロックダウン?

(1)NYはそんなに大変な状況なのか?

10月7日からブルックリンとクイーンズの一部の地域で店舗や学校、オフィスなどを閉めるロックダウンを実施。日本でもニュースになっていますが、このニュースだけ読むと、「ニューヨークは一時の感染爆発を逃れ感染を抑えられてきたはずなのになぜ?」と思う方もいらっしゃるでしょう。

ちょうど、この感染拡大の原因について、YouTubeに解説動画を上げたのですが、思いの外、視聴が伸びているので、このメルマガで簡単に解説しつつ、動画では伝え切れなかったお話もしたいと思います。動画でも詳しく知りたいかたは以下をご参照ください。
13分でわかるNY再ロックダウンの理由!新型コロナが感染拡大!特定のコミュニティが原因に??

(2)ニューヨークの陽性率

まず、ニューヨーク州の新型コロナ陽性率はピーク時で50%にまで上っていましたが、現在は大幅に低下し、特に7月中旬以降から9月25日までは陽性率がなんと1%以下で抑えられてきました。50%が1%以下というだけで、かなり感染が落ち着いているのがわかるでしょう。
Governor Cuomo Updates New Yorkers on State’s Progress During COVID-19 Pandemic

また、陽性率をニューヨーク州のエリアごとでみてみると、区域によっては1%を超えるところもありますが、マンハッタンを中心としたニューヨーク市の感染率は1%以下に抑えられていました。10月現在でも1%前後を行き来しています。
Governor Cuomo Announces 35th Straight Day with COVID-19 Infection Rate Below 1 Percent

でもそれもつい先月末までのことで、9月26日以降、ニューヨーク市の陽性率は急激に増加しニュースでも大きく話題になっています。日本でもフランスやイギリス、スペインで感染拡大しているのと合わせて「ニューヨークも感染拡大!」と伝わっていると思います。

でも実は、感染が拡大しているのは特定の地域のみで、その地域の人たちに対して、改めてマスクやフェイスカバーの着用、ソーシャルディスタンスをとるようにとNY州と市の自治体は呼びかけています。

具体的には感染が急に拡大したのは、マンハッタンではなく、ブルックリンとクイーンズの特定の地域。特にブルックリンはニューヨーク市の感染率の2~3倍に増えてまして、例えば、ボローパークが陽性率4.6%、グレイブセンドとホームクレストが6.8%、ミッドウッドが5.3%といずれも高い水準です。

この他、ブルックリンではウィリアムズバーグ、クイーンズのキューガーデンなども陽性率が顕著に増加。この結果、ニューヨーク市の陽性率は3.25%となり、ついに地域限定でのロックダウンがされました。
Six NYC Neighborhoods See Spike in COVID-19 Cases, as Fears of Second Wave Mount

9月30日付の最新情報を確認してみても、過去1週間平均の陽性率はここに示されているように、ニューヨーク市全体では1%を超えていますが、マンハッタンは0.6%と非常に低いです。
Cuomo to Local Gov’ts as New York Clusters Worsen: ‘Either You Do the Job or People Will Die’

(3)感染拡大の理由

感染拡大の理由ですが、経済再開が進んだことで屋内での集まりが増えているという理由もありますが、もっとも大きな原因となっているのは、ユダヤ教の超正統派、オーソドックス・ジューイッシュと呼ばれる人たちの独特の考え方と生活スタイルです。

というのも彼らが住むエリアでの感染が拡大しており、コミュニティ内での意識の違いが関係しているのではないかと報じられています。

実際、9月29日のクオモ州知事の会見では、「マスクやフェイスカバーの着用、ソーシャル・ディスタンス令は宗教に関係なく適応される」として、ユダヤ教超正統派のコミュニティリーダーとバーチャル面会しています。それでも改善しないということで、先週からこの地域限定でのロックダウンとなったわけです。

(4)独特の考え方とは何なのか?

ユダヤ教超正統派の方々が、マスクやフェイスカバーの着用をせず、また、ソーシャル・ディスタンスを維持しない理由については、イスラエル、ユダヤ、中東関連に詳しいエルサレムポストが詳しく伝えています。

それによると、ユダヤ教超正統派コミュニティの独特の考え方がマスクの着用を拒否していて、感染拡大に繋がっているようだとのことです。

独特の考え方というのは、まず、新型コロナ問題が勃発した初期段階で、このユダヤ教超正統派コミュニティで感染が拡大していたことから、すでに彼らのコミュニティには抗体がある、免疫があると信じる人が多いそうです。
COVID spreading in Orthodox areas. Why are people still not wearing masks?

つまり、集団免疫があるので自分たちは感染を恐れる必要はないという考え方のようですが、実際に抗体はどうなのか?というと、感染拡大中のウィリアムズバーグの抗体検査の直近データによると、検査を受けた約31%が抗体を持っていて、ブルックリン全体の抗体検査の陽性率26%よりも若干高いという結果だったそうです。ユダヤ教の中でも特に厳格なコミュニティであるハシディズム・コミュニティがあるボローパークの抗体検査の陽性率は44.2%でした。

集団免疫の効果については7割~8割必要だとか、最近では5割あれば良いなどなどいろいろ言われてはいますが、そもそも抗体自体が数ヶ月ほどしか維持しないとか、再感染する可能性もあるなど不確定要素がまだまだ多い状況です。

なので、一般的には「新型コロナの実態はまだまだよくわからない」ので、用心するにこしたことはない、と考える人が多いわけなんですけども、そういった新たな情報や、そもそもの科学的根拠自体を信じない人もけっこういるので、マスクをしない人が多いそうです。そもそもマスクをつけること自体が危険だといった話も出ていたりもします。

特に彼らは非常にコンサバティブなので政治的にはトランプ派であり、これは日本にも伝わっているように、トランプ派がマスク反対しているという図式ぴったりの考え方をしているそうです。

で、マスクをしない人は、上述したようにトランプ支持者に多く、例えば、中西部やトランプ支持者の多いエリアには、当然、多いわけですが、この話のポイントは、ユダヤ人の中でも特にルールに厳しい超正統派のコミュニティーで感染が拡大しているということです。

ひとりひとりの考え方ではなくて、集団で同じ行動をしないといけないというコミュニティなので、リーダーがマスク着用や屋内での大人数での会合禁止を指示しない限り、状況は変わらないのです。

ちなみに、2019年4月にニューヨーク市で麻疹(はしか)が大流行して非常事態宣言が出されましたが、この時に感染の中心にいたのも、今回の感染拡大地であるブルックリンに住むユダヤ教超正統派の子どもたちでした。

予防接種を受けない人がこのコミュニティに多く(反ワクチン派)、流行の中心になっていたと当時報じられています。結局、この地域に住み、感染する可能性がある人に予防接種が義務付けられ、従わない場合は罰金を科し終息となりました。
NY市、はしか流行で非常事態へ 予防接種を義務化し違反は罰金1000ドル

(5)文化や慣習の違い

この宗派と関係のない人はなかなか迷惑な話で、ロックダウンされたエリアの小売店の人たちは、子供がいるのにマスクしてくれなくて困るとインタビューに回答しています。

ニューヨークは本当に多種多様な文化や価値観、宗教観があるので、基本的にみんなバラバラの考え方を持っていまして、バラバラだからこそ新たなビジネスやアイデアとか文化が生まれる街としては非常に面白いのですが、今回のように、コミュニティ独特の考え方が原因で感染が拡大することもあるので、なかなか難しいところです。だからこそ、日本よりも法的にルールを決める傾向も強く、また訴訟も多かったりする理由でもあります。

…と以上が、今回、ニューヨークが再ロックダウンしたニュースの背景ですが、こういうニュースは伝え方が非常に難しく、どうしてもマスメディアの報道では事情を伝えきれないようなので、YouTube動画の反響もよかったので、このメルマガでも改めて取り上げてみました。

ちなみに、あまりにも細かすぎるので動画では省きましたが、ユダヤ教超正統派の方々は、アプリの「ワッツアップ」で届くテキストニュースで情報を得る傾向にあるのだそうです。へぇ~。これはつまり、それ以外の情報源は使われていないとも言えまして、情報の偏りが起きている原因でもあるのかもしれません。

なお、動画最後にご紹介しているネットフリックスで視聴できる『アンオーソドックス』の原作の著者デボラ・フェルドマンさんによると、感染拡大地の中心にいるユダヤ教超正統派は、ナチス迫害(ホロコースト)の生存者によって作られたコミュニティで、そのほとんどがハンガリー系のユダヤ人だそうです。

そして、彼らはコミュニティのルールや規則を守らないと再び迫害されると考える恐怖を基礎(Fear Base)とする教えだそうです。ホロコーストは戒律を守らなかったため起きた体罰であり、あんな恐ろしいことがまた起こらないように厳しい戒律を守る、のだそうです。

自由な服装ができる一般人と違い、男性は黒いスーツに黒い帽子、独特の髪型をしています。女性は結婚したら髪をすべて剃り、かつらをかぶります。着る服にも行動にも厳しい決まりがあります。

他にもいろいろあるそうですが、その全てが、かつて彼らの先祖が受けた迫害が原因であるということを知ると、ヒトラーを筆頭とするナチスの行いは改めて許せないものです。迫害がなければユダヤ教超正統派はもっと違う教えで発展したのかもしれませんし、今回のように感染拡大にも繋がらなかったのではないだろうか?などと考えると複雑です。

ちなみに、デボラさんのお婆さんは、ヒトラーの足は鶏のような足だと信じているそう。実際に見たことはないけど、靴を脱いだらそうなっているはず。だって、あんな虐殺は人間がするようなことじゃない。そんなことできるのは、悪魔しかいなくて、だから足は鶏のような奇妙な足なのだ。そして、神様がユダヤ人に罰を与えるため、ドイツ人を悪魔にしたに違いない…という考えからきているのだそうです。

この超正統派ユダヤ教以外でも、寄付をすることで守ってもらえますとか、水晶を買うと幸せになれますといった考え方はありますが、ユダヤ教超正統派は、その究極版という感じなのでしょう。

デボラさんはユダヤ教超正統派から亡命しドイツで生活していますが、他人を信じるということをしてこなかったので、他人を受け入れることができるようになりたいとコメントしていて、なかなか印象的でした。負の行動は負の感情を作ってしまうことの典型例なのかもしれません。

というわけで、彼らの事情を知れば知るほど偏った生活様式や考え方を一方的に非難しきれないわけですが、だからといってまた別の人たちが迷惑を受けてはいけないわけなので、共通した秩序を守るため、法律があり、今回のように、この地域限定の強制ロックダウンを自治体が実行したわけなのです。

で、強制ロックダウンしたらしたで、反対する人たちが、暴動に近いデモを行いマスクを焼いたりして抗議してまして、なかなか激しい気性?なのかなと思うわけですが、背景には宗教観からきている信条があるわけなのです。改めてこのあたりは勉強しておいたほうが良いなぁと感じているところです。

image by:Kevin Benckendorf / Shutterstock.com

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ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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