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自衛隊「定員割れ」問題の意外な本質とは?軍事専門家がマスコミに苦言

災害が起こる度に被災地に派遣される自衛隊。年々その活動が注目される自衛隊ですが、発足以来定員割れの状態が続いていると読売新聞が伝えています。この問題について、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、もっと大きな問題を見過ごしていると指摘します。すなわち、そもそも設定している定員が少なすぎると解説。マスコミはそういった根本問題を国民に示して問うべきと進言しています。

木(充足率)を見て森(適正規模)を見ず

7月に起きた熊本県南部の豪雨水害についての新聞記事で、ちょっと気になる点がありました。まずは、記事の気になる個所を抜粋しておきます。

「(前略)2019年度、自衛隊の災害派遣件数は449件に上った。実は、その8割を航空機を使った離島などからの救急患者搬送が占める。自然災害での派遣は7件で、合わせて延べ約106万人の隊員が関わった。活動人員が100万人を超えるのは、記録が残る1977年度以降、4度目だ。

 

ただ、部隊を派遣した影響で、陸自では昨秋予定されていた訓練・演習の1割(約300件)の中止や縮小・延期を余儀なくされた。千葉県に上陸した9月の台風15号に続き、10月には広範囲に浸水被害の出た台風19号の被災地にも部隊を出している。訓練・演習は年間計画によって綿密に練られており、災害派遣が切れ目なく続く状況は、有事に対処する組織の『力』が落ちることへとつながりかねない。

 

さらに、派遣への障害となるのが人員不足の問題だ。そもそも自衛隊は、発足以来、一度も定員(現在は24万7154人)を満たせていない。現場の中心となる『曹』『士』の階級の充足率は今年3月末時点で91.83%だ。不足する隊員の活動を補う即応予備自衛官(定員7981人)や予備自衛官(同4万7900人)の充足率も、それぞれ53.43%、71.75%にとどまる。

 

ある幹部自衛官は『人口減により自衛隊員の確保も難しくなる中、50年後も同じような活動ができるとは限らない』と訴える。(後略)」(10月15日付読売新聞)

どこが気になるか、おわかりでしょうか。記事そのものには問題はないのですが、自衛隊の定員や充足率を語るうえでの視点が欠けているから、あえて気になると書いたのです。

日本のマスコミの傾向でもありますし、国会でも、学界でも問題として取り上げられたことがほとんどないのですが、自衛隊の適正規模の問題を是正しないで、充足率の問題もあったものではありません。まさしく「木(充足率)を見て森(適正規模)を見ず」の議論になっているのです。

国の防衛だけでなく、大規模災害時の最後の砦となるのは陸上自衛隊のマンパワーです。その陸上自衛隊の適正規模を弾き出す根拠となるのは、世界で6番目に長い日本列島の海岸線です。日本は、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせると、世界で6番目に広い海を抱えていますが、入り組んだ地形や離島も多く、海岸線のほうもまた6番目に長いのです。

その長い海岸線をもとに、大規模災害時などに国民の命を守るのに必要な陸上自衛隊を弾き出すと、適正規模は25万人になります。現在の定員15万777人(2020年3月現在)は何の根拠もない数字ですが、適正規模の60%ほどでしかないことがわかります。むろん、充足率からいくと定員を1万人以上も下回る13万8060人(同)の実員しか備えていません。

マスコミが国民に問いかけ、それを国会で取り上げ、その結果を首相が国民に問い、陸上自衛隊の適正規模を25万人に少しでも近づけていく。それに伴い、海上、航空自衛隊も適正規模に近づいていく。そういう歩みを不断にしなければ、国家国民の安全の基盤は定まらないのです。

Mサイズのピザパイを前に、陸海空自衛隊で分捕る量、つまり予算の大きさを議論したり、自衛隊の必要性を国民にアピールするための装備品などトッピングの選定に明け暮れたりするところから、そろそろ抜け出そうではありませんか。

マスコミは、そうした方向に世論を先導する役割を担っているのです。その点を忘れないでほしいものです。上記の記事の担当記者が、別な機会に適正規模の問題を取り上げることを期待しています。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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