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地元で大怪我し引退。元関脇・嘉風「4億8千万賠償しろ」への違和感

10月19日、大相撲の中村親方(元関脇 嘉風)が、地元の大分県佐伯市などに損害賠償を求める訴えを起こしたことがわかりました。昨年引退するきっかけとなった大怪我が、市のPR企画に参加した際に負ったものであることが理由ですが、釈然としない思いを抱くのは、サッカーをメインにスポーツ情報を取り上げ人気のメルマガ『J3+ (メルマ)』著者のじじさんです。じじさんは違和感の理由を2つあげながら、他のプロスポーツ選手よりも地元との繋がりが強い印象のある大相撲の元力士による訴訟について持論を展開しています。

【大相撲】元・関脇の嘉風の提訴について思うこと

渓流で右膝を痛めた

2016年の3月場所に東関脇まで登り詰めた大相撲の嘉風は2019年の9月12日に現役を引退した。幕内での通算成績は561勝600敗24休。金星を8個も獲得している。身長は177センチ。豪快な取り口で人気を集めた。ベテランの力士としてメディアに登場する機会も多くて「相撲界きっての人気者」だったが、現役引退のきっかけになったのは故郷である大分県佐伯市での合宿中に同市のPR企画に参加した際に渓流で右膝を痛めたことだったという。引退会見の時に「無念の思い」をコメントしているが残念な終わり方になった。

怪我をした直後の2019年の7月場所は全休。9月場所は西十両7枚目で12年ぶりの十両陥落だったという。9月場所のときには「右膝前十字靱帯損傷、右腓骨神経麻痺で、現在リハビリ中。ただし、今後の追加治療や治療期間に関しては現時点では未定」と発表されている。9月場所を全休した場合は幕下に転落するのが確実な情勢だったので進退が注目されていたが9月場所の5日目にあたる9月12日に日本相撲協会に引退届が提出されている。場所中やけいこ中での怪我ではなくてそれ以外のところでの怪我で現役を終えた。

引退会見の時も一部のコメントが注目を集めたが10月19日(月)に「出身地の大分県佐伯市などを相手取り、約4億8,000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したこと」が明らかになった。「右腓骨の神経まひで装具をつけなければ歩行も難しい状態になった」とも報じられている。力士生命どころか、引退後の日常生活にも大きな影響を及ぼすほどの大きな怪我になってしまったが、故郷である大分県佐伯市などに対する訴訟であること、約4億8,000万円という高額な損害賠償金であることの2点もあって興味深い訴訟である。

もちろん、プロ野球選手やJリーガーの中にも出身地を大事にしている選手は多い。Jリーガーでいうと、元・鹿島のMF小笠原や元・熊本のFW巻などは出身地が地震で大きな被害を受けた後、Jリーガーの先頭に立って復興の象徴的な存在になった。出身地に対して金銭的な援助をしているスポーツ選手は少なくないと思うが大相撲の力士はプロ野球選手やJリーガー以上に出身地とのつながりが深い。毎度、取組前には「○○県、××市出身、△△部屋」とアナウンスされるほどである。

嘉風側の怒りは相当に大きい?

地方の県出身の力士が快進撃を見せて優勝争いに絡んだときは地元は大騒ぎになる。最近でいうと富山県出身の朝乃山が幕内優勝を果たした時は「地元が大騒ぎになっていること」も大きくメディアで取り上げられた。大分県佐伯市出身の嘉風もたくさんの地元の人に応援されており、自治体からもいろいろとサポートを受けてきたはずである。地元とのつながりが深い力士がこれだけ高額な損害賠償金を求めて提訴するというのは異例なことである。日本のスポーツ界の中ではあまり聞いたことが無い系統の話になる。

「大怪我によって力士生命が絶たれた」と言えるのは間違いないが引退当時は37歳。いつ現役を退いてもおかしくない年齢である。渓流で怪我をすることなく現役を続けていたら、その後も、それなりの額の収入を手にすることは出来ただろう。現役力士ということでメディアなどに取り上げられて副収入もある程度は得られたと思うが4億8,000万円というのはさすがに高額である。全面的に嘉風側の訴えが認められた場合は佐伯市が中心になって支払うことになると思うが結局のところは市民の税金で支払うことになる。

なので、市長を含めた当事者のみならず、佐伯市民の中にも違和感を覚える人は少なくないと思われる。引退から1年以上が経過しており、和解が成立しなかったが故の行動だと思うが、「地元との関係が大きくこじれることを覚悟した上での訴え」になる。「そうまでして佐伯市を訴えるということはそれ相応の理由が嘉風側にあるのだろう」という見方も出来る。専門家ではないのでどのぐらいの額が適切なのか?は分からないが「法外な額」であることは明らかであり、嘉風側の怒りは相当に大きいのだろうとも推測できる。

誰も同情はしないだろう。

相撲の世界はかなり特殊なのでプロ野球やJリーグと単純に比較することはできないが仮にプロ野球選手やJリーガーがシーズン中に渓流下りをして膝を痛めて欠場することになったり、それが理由で現役引退を決断するようなことになったとしても誰も同情はしないだろう。スキーやスノーボードなども「一般人が怪我をしやすいスポーツ(レクレーション)」と言えるが「プロ野球選手やJリーガーがそういう競技が原因で怪我をしてしまった」とはほぼ聞かない話である(海外の選手を含めるとそういう話は稀に聞くが…)。

シーズン中は、もちろん、オフシーズンも、「スキーやスノーボードなど万一の時は大怪我につながるスポーツやレクレーションは禁止」になっている球団やクラブがほとんどだと思われる。プロの選手のみならず、自分が中学生や高校生のときを振り返ってみても、「大会前に海水浴に行くこと」などは禁止されていた。「どういう流れで嘉風が渓流下りをすることになったのか?」についての詳細はまだ明らかになっていないが「渓流を楽しむ」というのは相撲に限らず、プロのスポーツ選手としては考えられない話である。

絶対に断ることが出来ない事情があったのかもしれないが傍から見ていると「なぜ、断ることが出来なかったのか?」と思ってしまう。そもそもとしてプロのスポーツ選手に大怪我のリスクがあることをチャレンジさせること自体が間違っているが、37歳になった嘉風に「断る権利が無かった」とは考えにくい。今後、裁判を進める中でいろいろな新しい情報が報道されていくと思うが、佐伯市側が引くことなく争う姿勢を見せているのも理解できなくもない。現状では「佐伯市側が全面的に悪い」というのは考えにくい状況に思える。

その一方で、「現役時代に好感度が非常に高かった嘉風らしくない行動である」との意見も多い。悪徳の弁護士さんなど「良くない人たちに煽動されているのでは?」という見方も出来なくもない。さらには相撲界では後援会の人などに頼まれていろいろとやらされることが日常茶飯事なので「後輩力士たちのためにも自分が先頭に立って白黒つけようとしているのでは?」という見方もある。嘉風のファンだった人はもちろん、相撲好きの人にはモヤモヤするニュースになっているがどういう形で決着がつくのか?は興味深い。

image by: Shutterstock.com

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