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うつろう、おもかげ。知の巨人・松岡正剛が見る日本人の心の歴史

私たちが住む日本という国は、いったい「どのような国」なのか、言葉でうまく説明できる人は少ないのかもしれません。今回の無料メルマガ『おやじのための自炊講座』では著者のジミヘンさんが、「知の巨人」とも称される編集者で著述家の松岡正剛氏が、「日本という方法」について書いた一冊を紹介。初めて読むという松岡氏の本に心奪われた理由について綴っています。

日本という方法 おもかげ・うつろいの文化

日本という方法 おもかげ・うつろいの文化

松岡正剛 著/NHK出版

皆さん、お元気ですか。ジミヘンです。

日本は「主題の国」ではなく「方法の国」である。多神で多仏、天皇と将軍、無常と伊達、仮名と漢字。外来の文化を吸収し自らのものとしてきた日本は、互いに矛盾するものを保持したまま多様で多義的な社会・文化を築き上げてきた。史書の編纂、日記、短歌、さらには政治体制や哲学までを編集行為ととらえると領域を超えて「おもかげ」「うつろい」という特質が見えてくる。歴史に蓄積された様々な層を「方法」によって辿る大胆な日本論。

書店の文庫本コーナーでピカッと光る一冊に出会う。タイトルは『日本という方法 おもかげの国・うつろいの国』。何とも不思議な表題だ。「日本の方法」ではなく、「日本という方法」。著者は、“知の巨人”と呼ばれる松岡正剛氏である。と言いながら氏の著作を読むのは初めてだ。

何度も言及しているが、このメルマガのテーマは、映画・文学・食・世相・科学など多様であるが、最も興味をそそられるのが「日本人論」だ。節操なく何事も自分の中に取り込んでゆく不可思議な国民性。思想的な統一がないように思えるが、その倫理観・道徳観には見事な一致が見られる。わが国民の美質が誇らしく思えることがある。

著者は先ず「日本は一途(いちず)で多様な国」とし、「天皇と万葉仮名と語り部」「和漢が並んでいる」「神仏習合の不思議」「ウツとウツツの世界」「主と客と数寄の文化」など縷々説明しながら日本人の気質と変化に言及するが、難解な内容である。平安の世から江戸、或いは近代まで時代は行き来し、エピソードも一つ処に留まらず多彩である。長年の研究、思考のアウトプットを披歴しているのだから素人にはすんなりと入ってこない。

「日本という方法」とは、どうやら外来コードを取り入れて日本的モードを作り出す「日本的編集方法」を指すのではないか。文字をもたなかった日本は漢字を借りて日本語を表現した。現代における「たらこスパゲティ」のように何事も<日本流>に変えてしまう。

興味深かった内容の一つは、「神は来るもの、帰るもの」、神は「客なる神」だという指摘だ。どこかにでんと居続けている主神的なるものではなく、何かの機会にやってくる来訪神だという見方である。「神」は身近な存在であり、寺院や神社や地蔵の祠を見ると、思わず手をあわす。

もう一つが「天皇の統帥権」というカード。武士が政治を行うようになって以降、常に「神威のカード」を持ち出して社会制覇のシンボル操作をしようとした。王政復古を謳った筈の明治政府は「統帥権干犯問題」に集約され、司馬遼太郎はそれを以て「異胎の国」と表現した。本来の日本と、「別国」(本来を失っているときの日本)が存在すると書いた。

明治の思想家・中江兆民は日本人の傾向を「恐外病」と名付け、そのくせこの病気はしばしば「侮外病」にもなると見抜いていた。海国日本は、蒙古襲来・黒船来航・米国空襲など外国を怖る一方で、三度に亘る大陸進出や「大東亜共栄圏構想」など攻撃的な国民性を見せる。歴史上、「中国離れ」に傾注した日本人も、「西洋離れ」はとことんヘタで、今も米国べったりである、とする。

370ページに及ぶ本書は、多くの人物と思想を紹介しながら松岡史観を展開する。小生が知りたい核心に近づいては離れてゆく。しかし、日本人の心の歴史を俯瞰的に見てゆく作業は面白かった。

著者は最後に「面影が移ろって出入りしているのだという思いが感じられる一句」として芭蕉の句を挙げた。

よく見れば なずな花咲く 垣根かな

image by: Shutterstock.com

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【著者】 ジミヘン 【発行周期】 週刊

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