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安倍前首相の逮捕はいつか。「桜」で聴取要請した東京地検の本気度

ついに東京地検特捜部が安倍前総理に任意の事情聴取を要請した、「桜を見る会」の懇親会を巡る問題。そもそもなぜここに来て突然、読売新聞やNHKといった、安倍政権を擁護してきたメディアがこの問題に関するスクープを連発し、「安倍応援団」と揶揄された人物たちが前総理の批判を口にするようになったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、元全国紙社会部記者の新 恭さんがその裏側を推測するとともに、国会を軽視する新旧の首相を厳しく批判しています。

桜疑惑再燃の舞台裏で火花を散らす新旧首相

さぞかし、菅首相の心中は穏やかではなかったに違いない。

病を得て退陣したはずの安倍前首相が、薬で元気をとり戻すや、何事もなかったかのように各種会合に顔を出して、「私なら1月に解散する」などと、お節介な発言をしていたのだから。

在職中いろいろ批判はあったが、小泉元首相の勇退後などは、潔く、静かなものだった。後任首相の安倍晋三氏に影響を及ぼすような言動は控えねばならぬという当然の心得があったからだろう。“武士のたしなみ”といえるものかもしれない。

当の安倍晋三氏には、そんな心得などみじんも感じられない。俺はまだやれるぞ、とアピールするのに躍起だ。

前のトップが求心力を維持するために動き回る。「嫌な感じ」というのが、菅首相の本音ではないだろうか。ただでさえ、来年の総裁選で安倍前首相を担ぎ出そうという凝り固まった連中がうようよしている党内事情だ。

おまけに、就任早々、日本学術会議の任命拒否問題でつまずいたかと思うと、このところの新型コロナ感染急拡大である。安倍氏のチョロチョロした動きが、ただでさえ高ぶりがちな神経にさわったであろうことは想像に難くない。

まるで、そんな現総理の腹のうちを見透かしたかのように、東京地検特捜部が、安倍氏の地元秘書らを「桜を見る会」疑惑で事情聴取した。それをスクープしたのが読売新聞やNHKだった。

「桜を見る会」の前夜祭を巡り、安倍氏らに対して政治資金規正法違反容疑などでの告発状が出されていた問題で、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから任意で事情聴取をしていたことが、関係者の話でわかった。特捜部は、会場のホテル側に支払われた総額が参加者からの会費徴収額を上回り、差額分は安倍氏側が補てんしていた可能性があるとみており、立件の可否を検討している。

【独自】安倍前首相の公設秘書ら、東京地検が任意聴取…「桜を見る会」前夜祭の会費補填巡り(11月23日12時32分 読売新聞オンライン)

会場のホテル側が作成した領収書には去年までの5年間にかかった懇親会の費用のうち安倍前総理大臣側が少なくとも800万円以上を負担したことを示す内容が記されていることが、複数の関係者への取材で新たに分かりました。

“安倍前首相側 800万円以上負担”示す内容 ホテル側領収書に(11月23日19時33分 NHK)

安倍政権を応援してきたメディアが、手のひらを返したように、安倍氏を追い詰めるようなニュースを他社に先駆けて報じたことが、あれこれと想像をかきたてる。

たとえば、菅首相の腹心といえる警察庁公安畑出身の元内閣情報官、すなわち杉田官房副長官、もしくは北村滋国家安全保障局長が、法務省ルートで得た情報をリークし、読売やNHKの司法担当記者が特捜幹部への夜回りで裏を取って記事にしたのではないかというようなものだ。

もちろんこれは、加計学園の獣医学部新設をめぐる「総理のご意向」文書を本物だと証言した元文科省事務次官、前川喜平氏が出会い系バーに出入りしていると読売新聞にリークして書かせた杉田・北村コンビの“実績”から連想されるものにすぎない。

政官界の闇の深さははかりしれないが、いくらなんでも安倍前政権から重用されてきた杉田、北村コンビがそのような真似はしないだろう。菅首相も官房長官時代に口裏を合わせてきた身である。

ここは検察担当の読売、NHKの社会部記者が、政治部とは違う心意気で、夜討ち朝駆け取材を敢行し報道したと受けとめておこう。

では、東京地検特捜部はどういう意図でリークしたのだろうか。当然、甘利明氏ら自民党大物議員への捜査を封じられ、現職総理のころには安倍氏サイドに手出しできなかった特捜が、世間に仕事をしていることを知らしめたいからであろう。しかし、裏を返せば、リークによる一撃しか手がないということを示しているようにも思える。

朝日新聞によると、安倍氏側がパーティーの会費を補てんした額は過去5年間で約916万円で、ホテル側が安倍氏の資金管理団体「晋和会」宛てに出した領収書もあったというが、捜査の手が安倍氏に伸びるかというと、少なくとも今の特捜部にそれは期待できないようである。

「嫌疑は政治資金規正法違反と公職選挙法違反ですが、規制法違反は金額が少ないので立件は難しいです。秘書は公選法違反に問われるでしょうね。安倍さんに及ぶ可能性は低いです」(若狭勝弁護士、テレ朝「モーニングショー」)

巨悪の犯罪でありながら、大きな事件にできないとしたら、もどかしい。なにしろ、安倍前首相は「桜を見る会」など刑事告発されている疑惑をいくつも抱え、私的な思惑で検察のトップ人事に介入してきたのである。

しかし、特捜部としては、これをリークすることにより、再起すべく動き始めていた安倍前首相の政治的影響力を削ぐことができた、という点で、所期の目的は達したといえるのかもしれない。

もっとも、検察の実務がどうであれ、国会で虚偽答弁を続けてきた安倍前首相の罪は、極めて大きい。

前夜祭パーティーは参加者とホテルの個別契約で安倍事務所に収入、支出はないなどという主張はやっぱりウソだった。ホテルから検察の手に渡った領収書がそれを示している。

こうなると、安倍応援団といえども弁護のしようがないのだろう、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』に出演した橋下徹氏は以下のように語った。

「今回の問題は、ホテルに確認すればすぐ分かることです。ホテルへの確認を国家のリーダーがやらず、『秘書からは補てんはないと聞いている』っていうだけで国会答弁をしてたっていうのは本当に残念です。これが事実なら、議員辞職もやむなしだと思ってます。国のリーダーなんだから」

こと「安倍総理」に対しては敬意を絶やさないあの田崎史郎氏でさえ、11月25日のTBS『ひるおび!』で、初めてと言っていい安倍批判を繰り広げた。

「これは大きな問題ですよ。国会で安倍総理が当時言われていたことが間違いだったということは、これは何らかのかたちで安倍総理がきちんと話されて、お詫びをしなくちゃいけなくなるんじゃないかなと…それを秘書のせいにしてはやっぱりいけないんだろうと思うんです」

政権に再び色気を示し始めた安倍氏には、自らが出るかどうかは別として、来年の総裁選にまで強い影響力を保持し、菅首相をコントロール下に置いておきたいという目論見があるに違いない。

それに対して、菅首相はどうやって来年の総裁選に勝利し、長期政権にもっていくかを考えている。かつて仕えた安倍氏がいつまでも味方とは限らず、健康の回復が本物なら、政敵になる可能性すらある。橋下氏や田崎氏は、おそらくそんな菅政権内の空気を察して発言したのだろう。

野党は安倍氏の国会招致を求めている。自民党内でも厳しい見方が出ているという。

自民党では26日、厳しい見方が相次いだ。伊吹文明元衆院議長は二階派総会で「首相の肩書を外して憲法改正の旗を振れる立場になったが、しばらくは無理だろう」と指摘。岸田派中堅は「答弁と全然違う。悪質だ」と批判し、竹下派の竹下亘会長は記者団に「政治資金の問題だから細心の注意をして対応しなければならない」と語った。

安倍氏、影響力維持に痛手 「再々登板」の期待後退も―桜を見る会(11月27日時事コム)

11月25日の衆院予算委員会で、宮本徹議員(共産)の「1年にわたり安倍前総理は虚偽答弁をし、菅総理も擁護発言を繰り返した。真相解明を総理の責任でするべきではないか」との質問に対し、菅首相はこう答えた。

「捜査にかかわることであり、答弁を差し控えたい」

毎度お決まりの逃げ口上にはうんざりする。どういう因果か、答弁拒否を得意とするこの人が国のトップなのだ。

一国の総理ともあろうものが、二代そろって国会を軽視し、ウソをついたり、説明を拒んだり、口を閉ざしたりする。そして、権力をめぐって欲深き暗闘を繰り広げる。コロナ禍にあえぐ国民は、彼らの愚策に翻弄されながらも、騒ぎ立てることなく耐えている。どうにかならぬのか。政治の耐えがたき堕落。

image by: 首相官邸

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