新型コロナに関する報道で耳にすることが多くなった、「日本医師会」なる団体。その名称から、あたかも我が国の全医師たちの総意を世に訴える団体のようにも思えてしまいますが、実情は異なっているようです。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、日本医師会の真の姿と、病床数は先進国で1、2の多さであるのにもかかわらず、医者の数が非常に少ない原因のひとつが、彼らの「主張してきたこと」にあるという事実を暴露しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2021年1月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
日本に民間病院が多い驚愕の理由
昨今、「日本は世界で有数の病床を持っているのに、なぜ新型コロナで医療危機に瀕しているのか?」ということがよく語られるようになりました。そして、日本では異常に民間病院が多く、民間病院が新型コロナ患者の受け入れをなかなかしてくれない、ということも報じられるようになりました。
- 民間病院が異常に多いこと
- 開業医が異常に優遇されていること
- それが日本の医療を蝕んでいること
を十何年も前から主張し続けてきた著者としては、ようやく世間が気づいてくれたかという感じです。が、こういう世界的な危機が起きないと、この問題は浮き彫りにならなかったわけですし、この日本医療の欠陥によって本来は助かった命がたくさん失われてしまっている事実を見ると、いたたまれません。
我々は、今こそ日本医療の欠陥をしっかり注視し、改善に動かなければなりません。そうしないと、今後また起きるであろう感染症の流行や、今後ますます進行する少子高齢化社会に、対応できないからです。
なので、今回、そもそも日本はなぜ民間病院が他の先進国に比べて異常に多いのか、その点を述べたいと思います。
このメルマガでも何度か触れましたが、日本は民間病院が異常に多いのです。
↓は先進諸国の公的病院と民間病院の病床数の内訳です。
公的病院(非営利病院含む) 民間病院
日本 約20% 約80%
アメリカ 約75% 約25%
イギリス 大半 一部のみ
フランス 約67% 約33%
ドイツ 約66% 約34%
※ 「諸外国における医療提供体制について」厚生労働省サイトより
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツは、病床の大半が、公的病院か非営利病院にあります。これらの国では、新型コロナの患者も、公的病院か非営利病院が引き受けてくれますので、日本よりも桁違いの患者が生じていても、対応できるのです。
が、日本の場合、病床の8割が民間病院なのです。そして、民間病院の大半は、新型コロナの患者を受け入れてくれません。だから、欧米よりも何十分の一、何百分の一しかいない患者で、医療崩壊の危機に瀕しているのです。
開業医の収入は勤務医の2倍
なぜ民間病院がこれほど多いのかというと、単純に「儲かるから」なのです。厚生労働省の「医療経済実態調査」では、開業医や勤務医の年収は、近年、おおむね次のようになっています。
開業医(民間病院の院長を含む) 約3,000万円
国公立病院の院長 約2,000万円
勤務医 約1,500万円
ここでいう開業医というのは、民間病院の院長から、地方の小さな民間診療所の医者も含まれます。つまり大小ひっくるめての平均が、勤務医の2倍もあるのです。
しかも開業医というのは、国公立病院の院長よりもはるかに高いのです。国公立病院の院長というと勤務医にとってはなかなかなれない憧れのはずです。また相当、能力もあり、努力もしなければ、国公立病院の院長にはなれないはずです。そういう憧れの存在である国公立病院の院長よりも、開業医の平均収入の方が1.5倍も多いのです。開業医の「トップ」ではありません。開業医の「平均」が、国公立病院の院長よりもはるかに高いのです。開業医の収入がどれだけ大きいものであるか、これでわかっていただけたと思います。
そして、なぜ開業医の収入がそんなに高いのか、というと、開業医には特権がたくさんあるからなのです。
たとえば同じ診療報酬でも、公立病院などの報酬と民間病院(開業医)の報酬とでは額が違うのです。同じ治療をしても、民間病院の方が多くの社会保険報酬を得られるようになっているのです。ほかにも開業医は高血圧や糖尿病の健康管理をすれば報酬を得られるなどの特権を持っています。
また現在、多くの地域で、国公立病院に行く場合は、開業医の紹介状が必要ということになっています。紹介状がなく国公立病院に直接行った場合は、初診料が5,000円程度割増しになったりするのです。だから、国民は病気になったとき、一旦、開業医に診てもらうことになるのです。
つまりは日本全体の医療費の多くが開業医に流れるようになっているのです。こういうシステムがあるので、開業医は勤務医の2倍もの収入を得られている
のです。
この日本医療のシステムは、まったく不合理なものです。
日本最強の圧力団体「日本医師会」とは?
なぜ開業医がこれほど優遇されているのかというと、という日本医師会という強力な圧力団体があるからなのです。
日本医師会は、日本で最強の圧力団体と言われてますが、この団体は医者の団体ではなく、開業医の団体なのです。日本医師会という名前からすると、日本の医療制度を守る団体のような印象を受けますが、実際は開業医の利権を守る団体なのです。
現在、日本医師会は、「開業医の団体」と見られるのを嫌い、勤務医への参加を大々的に呼びかけており、開業医と勤務医が半々くらいになっています。が、勤務医が日本医師会に入るのは、医療過誤などがあったときの保険「日医医賠責保険」に加入するためであることが多いとされています。
勤務医の大半は、「日本医師会が自分たちの利益を代表しているわけではない」と考えているようです。
また日本医師会の役員は今でも大半が開業医か民間病院の医師であり、「開業医の利益を代表している会」であることは間違いないのです。
この日本医師会は自民党の有力な支持母体であり、政治献金もたくさんしているのでとても強い権力を持っているのです。そのため、開業医は、様々な特権を獲得しているのです。そして、その特権を維持し続けているのです。
世襲化する開業医
しかも開業医は特権を持っているだけではなく世襲化しつつあるのです。
開業医の子供の多くは医者になろうとします。日本の医学部の学生の約30%は、親が医師なのです。「開業医の子供はだいたい医師になる」という図式が数字の上でも表れているのです。
しかし、開業医の子供は「優秀な子」はそれほどいないのです。それはデータにも表れています。というのも親が開業医をしている医学部学生の約半数が「私大」の医学部です。親が開業医以外の医学生の場合、国公立大学が80%を超えていますので、「開業医の子供が“私大の医学部”に入る割合」は異常に高いということになります。
学力の偏差値でいうと国公立大学の方が私大よりも平均するとかなり高くなっています。私大の医学部でも偏差値が非常に高いところもありますが、全体をならせば国公立の方がかなり高いということになります。
そして私大の医学部というのは、6年間で3,000万円以上かかるとも言われ、金持ちじゃないと行けないところでもあります。「開業医の子供が金を積んで医者になる」という図式も明確に表れているわけです。
またこともあろうに、日本医師会は医学部の新設に強硬に反対してきました。その理由は「少子高齢化によっていずれ医者が余るようになるから」だということです。
その結果、日本は、病院数や病床数は先進国で1、2の多さなのに、医者の数は非常に少ないのです。
人口1,000人あたりの医者の数
OECDの平均 3.39人
日本 2.43人
上記のように人口1,000人あたりの医者の数は、OECDの平均値よりも30%近くも少ないのです。この医者の少なさが、現在の新型コロナ禍で日本医療がひっ迫している要因の一つでもあるのです。
まったく自分たちの既得権益を守ることしか考えていないのです。
日本は世界トップクラスの「医療費が高い国」
ところで日本という国は、世界でトップクラスの「医療費が高い国」でもあるのです。
数年ほど前まで、「日本は先進国の中で医療費が著しく低い」というようなことが言われていました。確かに数年前までのデータでは日本の医療費(GDP比)はOECDの平均よりもかなり低いものとなっていました。
日本医師会なども、このデータを盛んに用いて「日本は医療費が安すぎる。もっと医療費を上げるべき」というプロパガンダを行なっていました。
しかし、OECDの統計ではほかの国は介護などの費用も医療費に含めていたのに対し、日本では含めていませんでした。それが発覚したため2011年まで遡及して集計をやり直したのです。
介護費などを含めて再集計すると、日本はOECDの中では6番目という「かなり医療費が高い国」ということが判明したのです。
これ以降、日本医師会は「日本は医療費が安いので医療費を上げろ」というキャンペーンは行わなくなりました。
また日本では生活保護費の約半分が医療費なのですが、この分も集計から漏れていると考えられます。そういうものを含めれば、日本は世界トップクラスの医療費高額国だといえるのです。
医療費というのは、我々が直接、払ったり、社会保険料や税金で払われたりしています。つまり、国民が負担しているという事です。
これほど高い医療費を負担しているのに、そう多くはない新型コロナの患者の治療もまともに行われず、PCR検査の数は世界で百何番目というお粗末さなのです。
我々の払ってきた高い医療費を返せと言いたくなるのは、筆者だけではないはずです。
どう考えてもおかしい「開業医優遇制度」
「勤務医より開業医の方がはるかに儲かる」という事実は、日本の医療制度を歪めたものにしています。現在、日本では、国公立病院の勤務医が不足しているという現状があります。特に、救急医療などの人々の生命に直結する分野で、医者が足りていないのです。これが、日本の新型コロナ対策を逼迫させた大きな要因の一つなのです。そして、このことのせんじ詰めれば「開業医優遇制度」に行き着くのです。
開業医に集中している医療費を、医者全体に分散すれば、勤務医になる人も増えるはずです。勤務医の人手不足も解消されるはずです。
筆者はいろんな場所で、開業医の優遇制度について批判していますが、それについて時々、開業医の方から反論のメールなどを頂きます。「開業医も大変なんだ。医者としての仕事と同時に、経営もしなくてはならない」「そんなに儲かっている開業医ばかりではない」というようなものです。
もちろん、儲かっていない開業医もいるでしょう。ですが平均値として明確に開業医の収入の高さが出ているのです。そこには、言い訳の余地はないはずです。
また「本当に開業医が儲かっていない」のであればやめればいいだけの話です。人口が減っているのだから、開業医も減っていいはずです。ほかの業界では儲からなくなれば事業者は淘汰されます。またあまり優秀ではない事業者も淘汰されます。しかし、開業医の場合は、そういう「市場ルール」による淘汰がまったく働いていないのです。それは開業医たちが、淘汰されないような特権を持っているからなのです。
国民の福祉に必要な業務に対して、過大な労力を強いられている人に、優遇制度を敷くというのは、筆者としても、まったく文句を言うつもりはありません。たとえば、夜間の急患を受け入れる小児科の開業医や、医者のいない僻地で開業医を細々と営んでいるような医者たちに対して、一定の優遇制度をつくることは、まったくやぶさかではありません。むしろ、そういう優遇制度はもっと拡充すべきだと思っています。
しかし、開業医全体を一律に優遇している今の医療制度は、日本の医療を確実に歪めているのです。本当はそれほど必要でない医療機関がいつまでも残っていたり、本当は医者に向いていない人が強引に医者になってしまう、ということが、日本の医療では多々みられます。
それは、元をただせば、この開業医優遇制度に行きつくのです。もし開業医が、優遇制度によって得ている収入を他に分散すれば、国公立病院の医者不足などすぐに解消するのです。
新型コロナの最前線で頑張っているのは勤務医
「今、医療関係者が頑張っている時に医療の批判をするな」と思われる方もいるでしょう。しかし、日本中の注目が集まっている今だからこそ、医療システムの欠陥を見直すことができるいい機会のはずです。
そして、これは特に特に言いたいことなのですが、今、新型コロナのために最前線で頑張っているお医者さんのほとんどは開業医ではなく、勤務医なのです。
新型コロナの患者を積極的に受け入れているのは、国公立病院や純然たる非営利の病院がほとんどであり、重症患者などの治療に懸命にあたっているお医者さんのほとんどは勤務医なのです。
日本の医療界の中で、決して厚遇されていない勤務医の方々が、一番過酷な場所で頑張っておられるのです。このことについて、日本人は目をしっかり見開いて直視しなければならないと筆者は思うのです。
今の日本の医療制度は絶対におかしいのです。優秀な人材が医者になれるシステム、ちゃんと仕事をしている人、本当に優秀な人がそれに応じた報酬を得られるシステムにしないと、日本の医療は本当に崩壊してしまうでしょう。
【関連】「医療崩壊の危機」を訴える都医師会の矛盾とは?現場の医師ら怒りの声
image by: 日本医師会 - Home | Facebook
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