NHKが集めた受信料の「繰越剰余金」(一般企業で言う「内部留保」)を活用する内容を含む法案が、2月下旬にも通常国会に提出されるようです。しかし、その剰余金に関する新制度には「不当に支払いを逃れる人に割増金を課す制度」が含まれており、受信料を拒否している人に大きな影響があると指摘するのは、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者でジャーナリストの内田誠さん。内田さんは読売新聞が掲載した小さな記事をきっかけに、ここ1年でNHK「繰越剰余金」について書かれた記事を検索・分析し、NHKの腐った組織体質も炙り出しています。
NHK受信料の「繰越剰余金」について新聞はどう報じてきたか?
きょうは《読売》です。
2面に、NHKの繰越剰余金についての小さい記事が見つかりました。「繰越剰余金」で《読売》のこの1年の紙面掲載記事を拾うと、9件ありました。
ということで、きょうは「繰越剰余金」です。まずは2面記事の見出しから。
NHK剰余金 活用制度新設
総務省報告書 受信料下げ原資に
総務省の有識者会議「公共放送の在り方に関する検討分科会」がまとめたNHK改革に関する報告書が公表された。
受信料引き下げに、一般企業の「内部留保」にあたる「繰越剰余金」を活用する新制度導入が改革の柱で、政府はこの点を中心にした放送法改正案を2月下旬にも通常国会に提出する。剰余金が一定水準を超える場合、値下げの原資として積み立てる新制度を提示。積立金が積み上がっても値下げをしない場合には、国民への説明責任を果たすよう求めるとした。
併せて、テレビを設置しながら受信契約を結ばず、「不当に支払いを逃れる人に割増金を課す制度」の導入も盛り込んだ。
●uttiiの眼
繰越剰余金はNHK問題の焦点の1つ。20年度末で残高は1450億円になると見込まれている。これを値下げ原資の会計に一定の算式に従って移管していき、ある水準を超えたところで半自動的に受信料を値下げするという仕掛けを作ろうということのようだ。しかし、「積立金が蓄積されているにもかかわらず、受信料の引下げを実施しない場合には、国民・視聴者に対してその理由について説明責任を果たすべきである」という逃げ道も作られている。これでは、本当に値下げが実現するのか、分からない。
「不当に支払いを逃れる人に割増金を課す制度」が作られれば、受信料払いを拒否している人に対するプレッシャーは一段と強まることになるだろう。
【サーチ&リサーチ】
9件の記事中、最も早いのは昨年の11月のもの。
2020年11月13日付
国会で、武田総務相が「「コロナ禍において、家計の負担を減らす受信料の値下げに着手するのが公共放送としてのあるべき姿だ」と述べ、引き下げが必要との認識を示した。」との記事。「武田氏は、菅首相が看板政策に掲げる携帯電話料金の引き下げに注力してきたが、国民からは「携帯電話よりむしろ、NHK受信料を考え直すべきだという意見が多数寄せられた」と話した」とも。
2020年11月20日付
「テレビを設置しながら受信契約を結ばず、不当に支払いを逃れる人には割増金を課すことなどが柱となる。テレビを設置した際に届け出を行う制度の導入は見送る。」
*支払い拒否に対する対策として、「割増金」が選択され、「設置届け出義務」は見送られた。
2020年12月12日付
武田総務相は前田会長を批判。受信料値下げについて「早期にやらずしていつやるのか」と批判。
*ようやく、NHKが2023年度中の値下げを決断したのは、今年になってからのことだった。
2021年1月13日付
「NHKは、2023年度中に受信料を大幅値下げする方針を固めた。NHKの受信料収入は現在、約7000億円規模に上るが、その約10%相当の値下げとすることで調整する。NHKは、これまで「もうけ」として蓄えてきた巨額の「繰越剰余金」の一部を、値下げのための原資として積み立てる仕組みを新設し、値下げに踏み切る。」
●uttiiの眼
収入の大半を受信料で賄っているNHKに、剰余金が溜まっていく構図は、「受信料の取りすぎ」に他ならない。使いきれないほどのカネを集めてしまったのだから、余れば値下げに充当するのはむしろ当たり前。しかし、政府から「コロナ禍の今、早期に値下げすべきだ」と批判されても、当初、動こうとしなかったくらいで、実に、事柄の「公共性」について鈍感な組織だということが分かる。
NHKの問題はもちろん、受信料の問題だけではない。安倍政権下での「政権べったり」ぶりは、公共放送としての矜持を捨て去ったかと思われるほど酷いものだった。菅政権下でもキャスターの発言に対する政治的圧力が掛かったと思われる事例が出てきつつある。ますます、番組内容に対する峻厳な批判が必要になってくるだろう。
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