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国防を軽視。菅政権の「ワクチン接種順位」で国民の命を守れぬ訳

いまだワクチン接種が始まらないわが国で、政府が決めた接種の優先順位は(1)新型コロナ患者等に頻繁に接する医療従事者等、(2)高齢者、(3)基礎疾患を有する方や高齢者施設等において利用者に直接接する職員となっています。この優先順位には大きな問題があると声をあげるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんです。小川さんは重要インフラや「平時の戦い」の最前線にいるエッセンシャルワーカーが優先職種になっていないことを指摘。特に、尖閣周辺で活動する部隊など任務によっては、新型コロナに対応する医療従事者と同等に優先すべきであると切実に訴えています。

警察・消防・自衛隊・海保にワクチンを

日本でもようやくワクチンの接種が始まりそうです。菅義偉首相は2月2日、2月中旬から医療従事者400万人へのワクチン接種を開始、4月からは高齢者への接種を開始する見通しを明らかにしました。

しかし、不思議でならないことがあります。国と社会の安全を担っている人たちへの接種が最優先されていないことです。確かに、最初に接種される医療従事者の中に、患者を搬送する救急隊員、患者と直接接する業務を行う保健所職員などが含まれてはいます。しかし、コロナ対応しか考えなかった結果、ほかの医療に深刻な影響が及んでいる日本の現状を象徴したような、視野の狭い、戦略性に欠ける取り組みと言わざるを得ません。

ここでは、コロナ以外の医療が重要であるように、電力、電話、エネルギー、水、交通など重要インフラを担う人たち、食料の生産販売と流通を担う人たち、清掃業務の担当者など、いわゆるエッセンシャルワーカーへのワクチン接種は、最優先されるべきだと申し上げたい。そして、なによりも消防、警察、自衛隊、海上保安庁など「平時の戦い」の最前線にいる人たちも、ワクチンの最優先接種の対象であることを忘れてもらっては困ります。

火災、事故、救急救命、犯罪、国籍不明機への緊急発進(スクランブル)、尖閣諸島での中国艦船への対処の第一線に、コロナに感染する事態が生じたら、日本国の安全を保つことなどできる訳がありません。

全米医学アカデミーなど3組織からなる全米アカデミーズが昨年10月に提示した報告書『COVID-19ワクチンの公平分配の枠組み』はワクチン接種について5段階(フェーズ)を設定しています。最優先すべきフェーズ1aは、最前線の医療従事者(病院、高齢者施設、在宅医療、救急隊)および医療施設で輸送や清掃を行う労働者と明記されています。地域的な流行状況によっては警察・消防の初動要員も含む、とされています。

そして、ほとんどの日本人が知らないことですが、そのフェーズ1aより優先される接種対象として、米軍将兵に対する接種が進められてきたのです。在日米軍を見ても、昨年のクリスマス頃から接種が始まっています。

理由は明らかです。ワクチンの接種によって他国より早く軍事的能力を回復した国が、外交的にも有利な立場を確立し、それによって政治的、経済的優位を実現することができるからです。米国のみならず、中国、ロシアなどがワクチン開発競争でしのぎを削ったのは、そうした点が「語られざる目的」としてあったからです。

目下、自国の軍事的能力を回復し、ワクチン外交を展開している中国が、米国を一歩リードした形になっていますが、もともと国力で優位にある米国が軍事的能力をコロナ前の水準に回復したとき、中国に対する反転攻勢が始まるのはいうまでもありません。そんな列国の横で日本だけが蚊帳の外なのが残念でなりません。

尖閣諸島を守る海上保安庁、日本列島の空の守りを担う航空自衛隊、国民の目に触れないところで地道に日本の海を守っている海上自衛隊については、最優先すべき部隊や職種を絞って、医療従事者と同じタイミングでワクチン接種を実行に移してもらいたい。

与党であると野党であるとを問わず、国会を挙げて政府を動かす。それこそ政治家が最優先すべき仕事です。西村康稔さん、河野太郎さん、頼みましたよ。(小川和久)

image by:Mike Mareen / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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