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習近平の勘違い。「米は中国と戦わず台湾から逃げる」という甘すぎる思い上がり

もはや覇権奪取の野望も、台湾併合の野心も隠すことすらしなくなった中国。民主主義陣営の盟主・アメリカはこの先、彼らとどう対峙してゆくのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、世界各地に波及する米中対立の影響を丹念に解説。さらに習近平国家主席が2028年までに確実に台湾を狙いに来るとし、そう判断する理由を記しています。

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不変の米中間対立の温度―緊張高まるアジアと中東地域の行く末

3月に予定されている全人代を前に、外交上は静かに思える中国政府。しかし、すでに超大国である中国を、国際情勢は放っておいてはくれないようです。第2次世界大戦後、その状況を楽しみつつ、重責を担ってきたアメリカ政府の“苦労”を理解できているかもしれません。

皮肉なことに、その米中の対立は、世界にデリケートな安定と緊張をもたらしています。アメリカの政権が、緊張を高めたトランプ政権から、国際協調への復帰を掲げて大統領になったバイデン大統領の政権に変わっても、それは変わっていません。

バイデン政権が打ち出す人権問題というカードは、中国を苛立たせるのみならず、トランプ政権が蜜月とも言われた関係を築いた中東諸国を恐れさせています。そしてそれがデリケートな安定と緊張のバランスを変えようとしています。

対米そして対中関係が恐らく変化しないのが、イランです。イラン政府としては、散々イランを敵視したトランプ氏が政権を去り、国際協調への復帰の看板を掲げるバイデン政権が誕生したことで、アメリカによる対イラン制裁の解除に向けた動きが見られるものと期待しました。

しかし、イラン政府曰く、それは期待外れで失望しているとのこと。

バイデン政権は、イラン核合意への復帰の可能性に言及しつつも、イランの核開発のレベル、特にウラン濃縮のレベルを2016年に合意した際のレベルに戻す(低下)までは、合意への復帰もイラン政府との対話も行わない旨、明言してきました。それは、大統領就任後も同じです。

イランのロウハニ大統領にとっては、「アメリカが経済制裁を解除する、もしくは、少なくとも段階的に緩和する動きを見せるまでは、核開発の停止は行わず、またウラン濃縮レベルも引き上げる」と明言し、“まずはアメリカが誠意を見せよ”というのがポジションです。

穏健派と言われるロウハニ大統領をして、このような対立軸を強調するのは、今年、自らの任期満了に伴って行われる大統領選挙に向けて、対米強硬派の支持率が上がっており、それに並行して革命防衛隊への支持も増えているという、国内状況への配慮がにじみ出ています。

イランが国際社会から再び孤立し、国民に苦境を強いる強硬派にイランがコントロールされて欲しくないというのが、ロウハニ大統領の思いでしょう。

残念ながら、そのような“配慮”もワシントンDCには届かず、イランはバイデン政権にプレッシャーをかけるために、1月から受け入れていたIAEAの抜き打ち査察の停止を通告することを決め、査察官による国内核関連施設への立ち入りを禁止ました。

これでまた、ウラン濃縮が高まっているとされるイランの核関連の動きにベールがかかることになりました。

イランは正式に否定はしていますが、今回の措置により、1年と想定されていた【ブレイクアウトタイム】(イランが核武装を決意してから、実際に核兵器一発分の高濃縮ウランを手にするまでの時間)が大幅に短縮される恐れがあると懸念されています。

言い換えると、有事の際、国際社会、特に核合意の当事者による外交的な問題解決のための時間が奪われることを意味します。

とはいえ、当事者であるロシアと中国は、同時にイランの核開発の後ろ盾という見方も強く、今回の措置を受け、よりイランへの肩入れを強め、アメリカとの対立関係を高めるものと考えています。

ここにも、まだ顕在化していませんが、米(欧)中対立の構造が見えます。

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バイデン政権からのプレッシャーに苦しむトルコ

次に、イスラエルはどうでしょうか?アメリカ政府からすると、常にユダヤ人票を獲得するために親イスラエル政策を取る傾向がありますが、トランプ政権時代は、娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問を前面に立てて、明らかにイスラエルへの肩入れをしてきました。

バイデン政権は、その行き過ぎた接近を改めようとしています。特に、トランプ大統領が見捨てた結果、イスラエルによる入植地拡大が進められたパレスチナへの再コミットを約束することで、アメリカからの支持を笠に着て無茶をしてきたネタニエフ政権の行動に釘を刺そうとの思惑があるようです。

イスラエルに無言のメッセージを送っていたのか、やっと就任から1か月経って、バイデン・ネタニエフ会談が2月17日に行われましたが、そこでもアメリカ政府のパレスチナ問題解決に向けた決意が語られ、盟友であるはずのイスラエルにも、人権擁護の原理原則が突き付けられたとのことです。

トランプ前政権の仲介を受けて、そのイスラエルと国交樹立をした国々も、そのはしごを外された模様です。

その典型例が、UAE(アラブ首長国連邦)で、トランプ前政権下で契約が結ばれていたF35の売却(サウジアラビア王国は猛烈に反対)を凍結されてしまいました。UAE空軍の再編計画においてF35の配備が含められていたため、国内での混乱が起きているようです。また同時に、対イランの戦力として期待されていたUAEですが、アメリカ政府との間に微妙な隙間が出てしまったのではないかと懸念しています。

イスラエルと国交正常化はしていませんが、距離を一気に縮めたサウジアラビア王国も例外ではありません。F35のUAEへの売却を止めたという点では、願いがかなえられたといえるかもしれませんが、ここでも人権問題を盾に、バイデン政権は、カショギ氏殺害疑惑に対するサウジアラビア王国、特に次期国王と目されるMBS(サルマン皇太子)に関与について、徹底的な調査を要求したと、リヤドの友人から聞きました。

イスラエルもUAEも、そしてサウジアラビア王国も、アメリカの新政権から距離を置かれたことで、中国とロシアへの接近が再スタートした模様です。F35の穴埋めについてはロシアが、サウジアラビア王国の原油の輸入と、脱炭素化への取り組みには主に中国が支援を拡大するようです。

そしてイスラエルについては、興味深い緊張感を漂わせつつも、ハイテク部門での中国・ロシアとの協力が進められるとの話が入ってきました。

確実にアメリカ政府は反応するでしょうが、ここでも米中の対立構造が顕在化してきています。

そして、トルコもバイデン政権からのプレッシャーに苦しんでいます。エルドアン大統領がロシアからS400ミサイルを購入・配備したことには、トランプ前大統領も激怒していましたが、アメリカとNATOとの微妙な距離感もあり、“軽い”制裁で済んでいました。

しかし、バイデン政権下では、大統領選挙時から、バイデン大統領がエルドアン大統領を独裁者と非難し、トルコが、NATO同盟国でありながら、同盟の結束を乱すことに対する対価を払わせると発言してきました。ついにそれが現実になりそうです。

ブリンケン国務長官は16日、非常に厳しい口調で、チャブシオール外務大臣に対し「S400ミサイルの即時撤去を要求し、NATO同盟への誠意を見せよ」と迫ったとの情報が入りました。

米・トルコ双方から確認が取れましたが、トルコ側も黙って退くわけもなく、「であれば、即時に代わりの防衛システムとミサイルを供与せよ!」と迫り、両国の緊張関係は増したと見られています。

ここでも、すでにロシアと中国との関係強化を進めているトルコを巡り、アメリカと中国(ロシア)の攻防が見えます。特にトルコは地政学的に欧州・アジア・中東・アフリカ、そして中央アジアをにらむ要所にあり、トルコを味方につけることで、広範囲に及ぶ地政学的なバランスが変わる可能性があります。

あまりニュースには出てきませんが、今後の混乱の情勢の行方を占ううえで、トルコの動静は無視できません。

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「アメリカは最終的に台湾を諦める」という習近平の読み

次にアジアですが、間違いなく東・南シナ海における対中包囲網と、台湾海峡を舞台に緊張が高まる米中の軍事的な対峙は、2020年代は見逃せない事態だと考えます。

自由主義陣営の対中包囲網の強化については、トランプ政権時代から、日本、インド、オーストラリアを巻き込んだ形で形成されてきましたが、バイデン政権になり、明確にドイツ、フランス、英国、そしてNZも含む大きな包囲網になろうとしています。

その中でも面白いのがフランスの動きです。真偽のほどはわかりませんが、フランスの国防大臣曰く、2月にフランス海軍の攻撃型原子力潜水艦エムロードが南シナ海を潜航し、米国のFONOP(公海航行自由の原則維持のための作戦)への支持を示しました。

これは同時に、フランスが南太平洋に持つDepartment d’Autres mers(在外県)とTerritoires d’Autres Mers(海外領)に対して、中国の影響力が伸長してきていることへの警戒と、対抗の覚悟を示したものと思われます。特に2020年に話題になったニューカレドニアの独立問題では、独立派の背後には中国が存在し、独立の暁にはフルでサポートするという密約があったらしいことが最近分かりました。

フランス政府は、それを自国の統治権に対する中国からの挑戦と受け取ったとのことで、今回の示威行為に至りました。

しかし、中国は無反応です。潜水艦の探知に関わる内容は、軍事機密として扱われるため、中国が実際にフランスの潜水艦の潜航を探知していたか否かについては触れませんし、同時に、中国が誇る潜水艦戦力は、フランスのそれに比べると強力無比の規模と威力ですから、あえて無視したとも言えるでしょう。

ドイツも英国も対中包囲網に参加していますが、ドイツは、ドイツのビジネス利権を失うようなことは国内政治的にタブーとされているために、実際にはドイツ軍の参加は有名無実化されますし、英国の参加は、EUから離脱したことで心情的な威力は薄まったと見られているため、包囲網の勢力拡大に寄与できるか否かは不透明です。

今後のアジアの行く末を占うのは、間違いなく、このメルマガでも触れている台湾海峡問題、特に米中間の覚悟のせめぎあいです。

バイデン政権に移行することで、アメリカの台湾への肩入れは少なくなるとの見方もありましたが、その期待を覆したのは1月20日の大統領就任式に台湾政府の代表が招待されたことでしょう。

その後も、中国に関わる話題が出るごとに、バイデン大統領はもちろん、ブリンケン国務長官もオースティン国防長官も、台湾を中国の野心から防衛する覚悟を繰り返しています。

台湾海峡において米中海軍双方が示威行為を行って、明確な覚悟と意思を表明しており、一触即発の危機ともいわれていますが、実際にはどうなのでしょうか?

まず、中国の習近平政権ですが、台湾を巡る衝突の可能性を認識はしていますが、「中国がはっきりとした意思を示し、行動を取ることにより、アメリカは有事の際、最終的には台湾を諦める」と予測しているようです。

その背後には、急速に強力化した中国の戦力の存在もありますが、「アメリカは、第2次世界大戦後、戦争に負け続け、これ以上の敗北を喫するわけにはいかない」との見解も影響しているようです。

また最近、情報が入りましたが、米国防総省(ペンタゴン)の分析によると、2027年をめどに、PLA(人民解放軍)を米軍に匹敵する世界クラスの近代的な戦争部隊に増強する計画があり、中国政府は着々と作業を進めているようで、もしかしたら、その目標年度も早まるのではないかとの分析もあります。

中国の自信の源はここにあるのかもしれません。

また、PLAの軍事戦略として【接近阻止(A2)と領域拒否(AD)】が示され、PLAとしては、米国との台湾有事の際には、兵器の大量使用によって台湾からアメリカを締め出す作戦が綿密に練られているようです。

最近、米中問題について発言する際、特に国内向けの談話では、台湾有事と米国との戦いに備えよ!との内容が繰り返されていることからも、“勝てる”と踏んでいるのかもしれません。

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民主主義の沽券にかけて中国と一戦交える覚悟のアメリカ

では、アメリカは、習近平氏が期待するように、本当に撤退するのでしょうか?

答えはNOです。

それは、トランプ大統領の“功績”とも言われる台湾の国防能力のかさ上げにより、中国からの攻撃にある程度は持ちこたえることが出来るようになっているという事実が存在します。

バイデン政権になっても、台湾への肩入れと軍事的な支援は停止されず、逆に拡大傾向になるようですので、対中フロントラインとしての台湾を強化する方針は加速する模様です。

そして、第2次世界大戦後、その勢力の衰退は見られるものの、今でも民主主義・自由主義陣営の盟主としての地位は変わっておらず、アメリカはその立場から、台湾有事の際には必ず中国と戦うことになります。

そしてその姿勢は、台湾を護るという一義的な目的のみならず、アジア地域のアメリカの同盟国に対しても、“有事の際には、アメリカはフルにコミットして、皆さんを護るよ”というメッセージを送ることになります。

ゆえに、戦わなければ、アメリカはアジアを失うことになり、アジア各国は(日本を除けば)、中国の影響下に置かれるRed team入りを果たすことになりかねません。

以前、オバマ政権時代に、中国の軍のトップが【太平洋2分支配論】(アメリカと中国で太平洋の支配を半分ずつにしようとのアイデア)を提案しましたが、それが現実のものになるかもしれない瀬戸際とも言えます。

また、バイデン政権では、ホワイトハウスや国務省、国防総省、そしてCIA/DIAなどの情報機関に非常に分厚い中国専門家のチームを配置し、中国の行き過ぎた野心の動向を随時監視し、有事の際に、大統領が即時に対応できるだけの体制を、この政権初期という時期にもかかわらず、すでに揃えています。

習近平国家主席は【アメリカは、決して中国との戦争は行わず、台湾からも逃げる】という甘い見解を持っていると聞きますが、アメリカ側の姿勢を見て聴く限りは、いざとなったら民主主義の沽券にかけて中国と一戦交える覚悟があるようです。

もし2020年代、言い換えると2030年までに台湾を巡る米中での衝突が起きなければ、デリケートな安定と緊張が保たれる希望も見出せますが、実際にはどうでしょうか?

2023年に第3期目を目指す習近平国家主席にとって、宿願である台湾の統合(大中華帝国の大復興)のめどが立たない場合、求心力が一気に低下することも考えられることから、今年から来年に何らかの動きを取る可能性があります。もしくは2023年の全人代を乗り越え、めでたく3期目を務めることになったら、次の5年の間に、確実に台湾を狙いに来ると、私は見ています。

彼が就任来、繰り返すOne China政策もそうですし、このところ頻出する【大中華帝国の大復興】というコンセプトの達成と実現に残された最後の1ピースが台湾です。

もし、アメリカやその同盟国(日本も含む)が明確に台湾の自由を守る姿勢を打ち出すことが出来なければ、恐らくアジアの大半が、中国の紅色に染まることになるかもしれません。

アジアはもちろん、アフリカ、中東などでも高まる米中対立の緊張。習近平国家主席が描く未来図がかなえられるのだとしたら、それは、欧米を中心とする自由民主主義体制の結束の終焉を意味するのだと、私は思います。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。

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image by: Massimo Todaro / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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