新型コロナウイルス感染症の拡大で、2度目の緊急事態宣言が首都圏を中心に発出されて2ヶ月あまり。さらなる期間延長が発表され、自粛生活の終わりが見えない状況が続いています。そんなコロナ禍で目に見えにくい問題が、自宅にいる人々の「アルコール依存症」です。メルマガ『テレビでもラジオでも言えないわたしの本音』の著者で精神科医・映画監督の和田秀樹さんは、自粛生活で増える「家飲み」が依存症を加速させることを懸念。さらに、アルコール飲料メーカーに忖度して自粛生活でのアルコール依存問題を報じないマスメディアを厳しく批判しています。
コロナ禍とアルコール依存症
さて、今回問題にしたいのは、コロナ禍におけるアルコールの扱いの問題である。
以前も問題にしたが、自粛生活の副作用の一つに「アルコール依存症」がある。
アルコールに限らず、依存症というものは、一人のとき、心理的に孤立しているときに起こりやすい。
たとえば、買い物依存症で仲間と連れ立ってする人はまずいない。
逆に、アルコール依存症の治療として「自助グループ」を作って、仲間を作ることでせっかく断酒できた人が再び酒に走るのを予防するといった具合に、薬やカウンセリングより自助グループのほうが有効な治療法と考えられている。
特にアルコールのような薬物は、一人で飲んでいると歯止めが利きにくい。
そういう意味で、夜7時以降は店での酒類の提供が終わるとか、お酒を飲んでの会食が禁止されるということがあれば、ちょっとエンジンがかかった状態で家に帰ることになるから、依存症に陥るリスクが大きい。
また、自粛生活で日光を浴びていないとメラトニンという睡眠物質が分泌されないため、不眠に陥るリスクが大きい(そうでなくても、昼間に動いていないと眠くなりにくい)。そういう時にお酒で寝ようとすると、どんどん酒量が増えてしまう。
確かに、コロナ自粛は飲食店の売り上げを激減させた。アルコール飲料のメーカーもそれなりのダメージを受けているようだ。しかし、全部でなくても、ある程度メーカーを救っているのが「家飲み」のようだ。
たとえば昨年の5月などは、スーパーの酒類の売り上げが1割以上アップし、ドラッグストアやホームセンター(ここで大量の買う人が多いようだ)では前年比で2割近く売り上げがアップしている。
どの程度アルコール依存症が増えるかは、私には予想できないが、少なくとも2年後、3年後に社会問題化するのではないかという予感がしてならない。
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大問題はマスコミが持つアルコール飲料企業への「忖度」体質
さて、私がそれ以上に問題にしたいのは、マスメディアのアルコール飲料企業への忖度体質である。
このような自粛生活でアルコール依存症が増える可能性を論じたワイドショーは見たことがない。
それ以上に、実はアルコールはコロナ以上に人を殺している。
自殺者の23%がアルコール依存症だったという調査報告がある。自殺対策で自殺は確かに減ったが、アルコール依存症による自殺は手つかずだということを考えると、今でも毎年5~6000人のアルコール依存症の人が自殺をしていると考えられる。
これはコロナで亡くなった数と大して変わらない。
それ以上に、肝臓障害そのほかのアルコール関連死(自殺も含む)は、タバコほどではないにせよ、年間5万人に及ぶと考えられている。
コロナの比でないくらいに人の命を奪っているのに、これが法律で禁止されないのは、それなりのメリットもあると考えられているからだろう。
たとえば、自動車は年間3000人近くの命を奪っている(昔は2万人くらいの命を奪っていた)が、それを禁止したら交通も流通も成り立たないし、地方の人は車なしで生活できないからだろう。
お酒がその20倍近い5万人の命を奪っているのに、禁止しないとすれば、そのメリットがあると考えられているからだろう(もちろん、税収や雇用を生み出すというメリットはあるが、そのメリットだけが理由ならマリファナやカジノも合法化しないといけなくなる)。
おそらく、それは社交を深めたり、本音を語り合うツールになるというメンタルヘルスの効果だろう。
今回の総務省接待事件でも問題になったが、やはりアルコールには人間関係を円滑にする効果がある。
また、日本はカウンセリングの文化が根付いていない代わりに、ガード下の飲み屋のようなところで酒を飲みながら仲間と愚痴がこぼせることで、ずいぶんメンタルが救われているはずだ。
会食禁止、仲間と飲むのが禁止では、年間5万人も殺す物質を許す根拠がなくなってしまう。
アルコール飲料の業者が、テレビの最大スポンサーの業種だということもあって、テレビに出ている連中が忖度しきっていて、コロナで人の命が大事と言われながら、この物質が我が物顔で売られている現実に違和感を覚えずにはいられなかった。
もちろん、私もワイン好きだが、だからこそ会食や仲間との飲酒が目の敵にされている現実のほうが問題にすべきだと思えてならないのだ。
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※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2021年3月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。3月分のすべてのメルマガが届きます。
2021年3月配信分
- 104回 コロナとアルコール(3/6)
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