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「残業しないから昇格させぬ」と言われ会社を提訴、裁判の結果は?

過度な残業を強いる企業が罰せられるのは今や当然という認識ですが、あまりに残業を回避しすぎる社員も問題となるようです。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、残業と昇格を巡る訴訟の内容を紹介。裁判官が重要視したのは、従業員の「態度」でした。

「残業しないから昇格させない」は認められるのか

「週90時間、喜んで働こう」

iPhoneを発明した故スティーブ・ジョブズ氏は、こう言って社員を鼓舞し、猛烈に働いたと言われています(一説にはこの言葉をTシャツにプリントし、全員で着ながら仕事をしていたという話もあります)。

週90時間というと、週休1日として1日18時間、休みなしで毎日働いたとしても1日約13時間です。「働き方改革」という言葉が流行語大賞にもノミネートされ、日々、残業削減が叫ばれる今の日本で、もしこんなことをやってしまったら大炎上しそうな話ですね。

ただ、私は「残業=悪」という雰囲気にはなんとなく違和感も覚えます。もちろん、体調を崩してしまうような長時間のいわゆる「ブラック残業」は論外ですが、仕事の経験をつむための「ホワイト残業」は、人によっては必要ではないかと思うからです。

例えば、学生の頃に体育会系の部活に入っていた人は経験があると思いますが、放課後の「通常の練習」以外に朝早く学校に行って朝練をやったり、放課後の練習後に残って自主練をやっていた人も多いのではないでしょうか。「人よりうまくなりたい」と思ったら、人一倍練習するというのは当然に必要なことですし(これも体を壊すくらいにやってしまうのはもちろん良くないですが)、これは仕事にも当てはまるような気がします。

また、会社としてもイレギュラーな業務が発生したときなどは、残業をして欲しいときもあるでしょう。

それでは、残業をしない社員と残業をする社員で評価に差をつけることは、できるのでしょうか。それについて裁判があります。あるヘルスケア関連の会社で、評価に不満があるとして社員が会社を訴えました。

その社員は、同期と比べて自分の昇格が遅れているのは「自身が入社以来残業をせず」「会社の経営方針を批判している」などにより会社が自分を嫌っているからだと主張したのです。

「残業しないから昇格させない」

はたしてこのようなことが認められるのか?

結論からお話しますと、なんと、この裁判では会社が勝ちました。それは次のような理由からです。

このように裁判所は判断をしました。そうすると、みなさんの中には「残業することを(残業させることを)奨励するのか!」と、同意しづらいと感じる人もいるかも知れません。

ただ、この裁判では、実は「残業しない」だけでなくこの社員の「態度」も問題とされたのです。具体的には、次のような感じでした。

  1. 勤務中にしばしば休憩をとっていた
  2. 終業30分前になると新たな作業を行わなかった
  3. 作業効率の改善や向上に対する取り組みが消極的であった

いかがでしょうか。もしかするとこれでしたらみなさんの中にも納得される人がいるかも知れませんね。

ただ、ここで誤解の無いようにお話しますと「残業しない社員を評価しない」ことをおすすめしているわけではありません。当然ながら、社員の中には事情があって残業できない人もいるでしょうし、仕事と同じくらいプライベートを大切にしている人もいるでしょう。ともすれば「残業をしている社員=頑張っている」という雰囲気のある会社もたまにあったりしますが残業をしていない社員が別の部分で頑張っているのであればその部分を評価すべきです。例えば、残業できないからこそ仕事の効率を重視して、時間内にテキパキと仕事をこなす人もいます。

注意が必要なのは「残業しないことを当然の権利として過剰に主張する社員」です。また、私のお客様からは上司の側も、働き方改革の影響か「必要な残業も頼めない(頼みづらい)」というご相談をいただく機会も増えました。

繰り返しになりますが体を壊してしまうような過剰な残業はもちろん論外です。そして、法律上、正しい残業である必要もあります。その上で、「適正な残業」を考えてみても良いのではないでしょうか(くれぐれも残業を推奨しているわけでも、残業しないことを否定しているわけでもありません。念のため)。

image by: umaruchan4678 / Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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