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なぜ高校の校長は最後の授業で生徒たちに親の手を握らせたのか?

歳を重ねてからならまだしも、若き日にはなかなか意識することのない親のありがたみ。そんな気持ちを喚起させる授業を、毎年の卒業式後に行ってきた先生がいます。親子が手を取り涙を流すというその感動的な最後の授業、一体どのようなものだったのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、熊本の高校で校長を務めてきた大畑誠也さんご本人が、その内容とともに授業に込めた思いを語っています。

親の手を握ったことがあるか?─感動実話

先週から卒業式が行われていますが、もうすぐ4月という新しい門出の時期を迎えます。

先生に怒られた日や、親とぶつかった日もあったでしょう。それでも友だちと仲良く遊んだ日々や先生や両親に励まされた日々は、その後の人生において大切な宝物として心に刻まれたはずです。

そんな全国の子供たちの新たな門出を祝して、卒業式にまつわる感動実話をご紹介します。

お話しいただいたのは、熊本県の高校で校長先生を務めた大畑誠也さん。教室中の生徒たちが思わず涙した大畑さんの「最後の授業」とは──。


私が考える教育の究極の目的は「親に感謝、親を大切にする」です。高校生の多くはいままで自分一人の力で生きてきたように思っている。親が苦労して育ててくれたことを知らないんです。

これは天草東高時代から継続して行ったことですが、このことを教えるのに一番ふさわしい機会として、私は卒業式の日を選びました。

式の後、3年生と保護者を全員視聴覚室に集めて、私が最後の授業をするんです。そのためにはまず形から整えなくちゃいかんということで、後ろに立っている保護者を生徒の席に座らせ、生徒をその横に正座させる。そして全員に目を瞑らせてからこう話を切り出します。

「いままで、お父さん、お母さんにいろんなことをしてもらったり、心配をかけたりしただろう。それを思い出してみろ。交通事故に遭って入院した者もいれば、親子喧嘩をしたり、こんな飯は食えんとお母さんの弁当に文句を言った者もおる……」

そういう話をしているうちに涙を流す者が出てきます。

「おまえたちを高校へ行かせるために、ご両親は一所懸命働いて、その金ばたくさん使いなさったぞ。そういうことを考えたことがあったか。学校の先生にお世話になりましたと言う前に、まず親に感謝しろ」

そして

「心の底から親に迷惑を掛けた、苦労を掛けたと思う者は、いま、お父さんお母さんが隣におられるから、その手ば握ってみろ」

と言うわけです。すると1人、2人と繋いでいって、最後には全員が手を繋ぐ。

私はそれを確認した上で、こう声を張り上げます。

「その手がねぇ!18年間おまえたちを育ててきた手だ。分かるか。……親の手をね、これまで握ったことがあったか?おまえたちが生まれた頃は、柔らかい手をしておられた。いま、ゴツゴツとした手をしておられるのは、おまえたちを育てるために大変な苦労してこられたからたい。それを忘れるな」

その上でさらに

「18年間振り返って、親に本当にすまんかった、心から感謝すると思う者は、いま一度強く手を握れ」

と言うと、あちこちから嗚咽が聞こえてくる。

私は「よし、目を開けろ。分かったや?私が教えたかったのはここたい。親に感謝、親を大切にする授業、終わり」と言って部屋を出ていく。

振り返ると親と子が抱き合って涙を流しているんです。

人間として生まれて一番身近な、一番大切な存在って親じゃないですか。親は選べません。親も子は選べません。ならばそれをきちっと固めるしかないじゃないですか。

後漢の書に「孝は百行の本。衆善の始なり」とあります。

親孝行は諸々の行いのもとであり、諸々の善きことの始めである。昔よく言われた言葉をいまはすっかり忘れてしまっている。

結局、教育とは何なのかと突き詰めて考えてみると、それは自分自身の生き方であり、在り方ですよ。その生き方、在り方が生徒に反映していく。「大人の生き方、在り方=大人の教育力」ですね。子育ても同じでしょう。「親の生き方、在り方=親の子育て力」。

人生とは何なのか、人間はどういう生き方をすべきかという価値観をきちんと持っている、そういう人はきちんとした子育てをする。だから自分がどういう生き方をしているか。それを大人は常に自問しなければならないと思います。

(本記事は『致知』2011年1月号 特集「盛衰の原理」より、大畑誠也氏の「教育は感化なり」を一部抜粋・編集したものです)


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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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