ここ数年間、にわかに注目を浴びている「フリーランス」という生き方。その数1,670万人、1年間で57%増と急激な伸びを示していますが、フリーランスを推奨するかのようなここ数年の政府の姿勢を否定的に綴っているのは、健康社会学者の河合薫さん。自身もフリーランスとして活動を続けている河合さんは今回、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、かつてのフリーターブームと彼らの末路を引き合いに出し、フリーランス礼賛の危険性を指摘。さらにフリーランスのリスクを挙げた上で、それらを一切語らない社会に対して抱いている感情を記しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
“フリーランス”という幻想を生み出した社会の罪
ここ数年、自由な働き方の象徴として礼賛されている「フリーランス」が、労働人口の2割を占めるまで急増したとする調査結果が公表されました。もっとも増えたのは特定企業と雇用関係を持たない、いわゆる「個人事業主」で、昨年の2.4倍増の856万人。コロナ禍の影響で解雇や雇い止めになった人たちの受け皿になっている側面もあるとのこと。今後は60歳で定年になった人たちが加わり、さらに増加することが見込まれています。
…こんなにフリラーンスを増やしてどうする?というのが率直な感想です。
改めて言うまでもなく、フリーランスの最大の問題点は、労働基準法の適用外という、実に不安定な身分です。パワハラの防止策を義務づける関連法でも、原則フリーランスは含まれていません。
つまり、非正規より不安定で、昨日まで稼げていても、突然「明日」から稼げなくなるのが、フリーランスなのです。
政府はお得意の「ガイドライン」をまとめ、フリーランス保護に乗りだしていますが、ガイドラインは所詮ガイドラインです。
拘束力もなければ、罰則もない。ましてや「適正価格」で労働力を提供できているのか?さえも、わからない。住宅ローンを組むのも難しい。フリーランスとは、究極の下請けであり、銀行からも信頼されないのです。
にも関わらず、政府は数年前から「フリーランス」を「自由な働き方」「自立した個人」をイメージする言葉として多用し、その流れにフリーランスで成功している人たちが拍車をかけました。
彼らはフリーランスのリスクを語るより「自分のやりたいことをやるにはフリーランス最高!」と安易にフリーランスを推奨し、「フリーランス、かっこいい!」的イメージに加担しました。
これは繰り返し書いていることですが、かつての「フリーター」を量産した社会と同じです。
それまでは「定職に就かない」あるいは「無職」と呼ばれていた人たちが、「フリーター」というカタカナ用語によって、「自由を求める人」の象徴になり、「夢を追う若者」を量産したのです。
フリーターの末路を鑑みれば、フリーランス礼賛がいかに危険かがわかるはずです。
再び、ワーキングプアが増えるだけ。高齢化も進んでいるというのにどうするというのか?「労働人口の2割」まで増えてしまったことを、真剣にうけとめるべきです。
念のため断っておきますが、私自身、フリーランスで生きてきたので、フリーランスを否定する気はさらさらありません。フリーでやりたい人はやればいい。問題は、「フリーで働くことのリスク」がきちんと伝えられないまま、安易にフリーランスになったり、企業が都合よくフリーランスを使っていることに納得がいかないのです。
フリーランスは「これでおしまい」と言われれば、抵抗するすべもなく「はい」と引き下がるしかない。仕事がなければ食えないし、あればあったで「1人ブラック企業」状態になる。目の前の仕事が次の仕事の営業なので、常に200%を目指してがんばるしかない。かといって病気になれば、また食えなくなるので、ギリギリの状態で健康にも留意し、それでも壊れる体を必死で仕事に支障がないように全力で守らなければなりません。
そういったリスクを語らない社会に、一抹の怖さを感じています。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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