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時すでに遅し。進まぬワクチン接種と変異株の猛威に沈没する日本

ワクチン争奪戦に敗れた日本が、変異株の流行という新たな脅威に晒されようとしています。もはや打つ手はないのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、ますます深刻化するコロナ禍の現状と、政府や自治体の鈍すぎる対応を批判。さらに海外主要3社のワクチンの仕組みを解説するとともに、それらの「変異株への効果についての疑問」を記しています。

変異ウイルスの流行で不透明さ増すワクチン接種の効能

新型コロナ禍はますます深刻な状況になってきた。遅々として進まぬワクチン接種をあざ笑うかのように変異株が急拡大しているからだ。

治験で確認されたワクチンの有効性は、あくまで従来株についてであって、変異株に対する臨床的な効能となると、必ずしも明確ではない。

一足早く緊急事態宣言を解除してしまった大阪府ではすでに第3波を上まわる新規感染者数を記録。3週間遅れで宣言解除となった東京都でも、やがて大阪の後を追い、第3波のピーク2,520人(1月7日)をこえるのではないかと心配されている。

知事会のなかから「もう第4波に入っている」という声が聞こえるのも、新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が東京の今後を憂うのも、無理はない。

ところが、菅首相ときたら、「現時点で第4波といった全国的な大きなうねりとまではなっていない」(5日参院決算委員会)と、あいかわらず、世間の感覚とズレたままである。

コロナウイルスが変異しやすいのはわかりきったこと。だからワクチンに期待しすぎるのは禁物という意見がある。しかし、実現はまだまだ先と見られていたメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの登場で、事情は少なからず変わった。

mRNAは、細胞のDNAからつくられ、タンパクの「設計図」の役割を果たすもの。新型コロナウイルスのmRNAを人間の体内に注入することで、ウイルスのタンパク質の一部が生まれると、異物に反応して人間に免疫ができるというのが、このワクチンの仕組みだ。

すでに承認され医療従事者から接種が始まっているワクチンは、まさにこのmRNAワクチンで、米ファイザー社製。5月に承認される見込みなのが、米モデルナ社のワクチン。これも、mRNAワクチンである。両社のワクチンは昨年11月、90%以上という驚異的な効果が報告されたあと、コロナ戦線のゲームチェンジャーとして世界中の期待を集めた。

だが、いかに画期的なワクチンであっても、相手は変異しやすいコロナウイルスだ。それは否応なしに「時間との闘い」を強いてくる。

ワクチン接種を活かすには、できるだけ迅速に国民に行き渡らせることが肝心なのだ。そうでないと、いつなんどき変異ウイルスが出現し、ワクチンの効能が薄れるかわからない。ただでさえ不確実な集団免疫の獲得が遠のいてしまう。

実際この国では、政府がモタモタしているうちに、ウイルスが変化し対応力をつけているようだ。こうなると、ワクチンも変異対応型が必要になるが、作っても作ってもウイルスが変異し、イタチごっこのようになる恐れもある。

こういう新局面にあたって、政府はどう考えているのか。「緊急事態宣言に至ることを防ぐため」と菅首相が言う「まん延防止等重点措置」が大阪、兵庫、宮城の3府県の計6市で始まったが、どうもピンとこない。

要するに飲食店への時短要請が午後9時から午後8時へとちょっぴり厳しくなっただけなのだ。変異株で様相が激変した新型コロナ禍に、どう対処するのか、全く見えない。

吉村大阪府知事はマスク会食をせよと、おふれを出し、見回り隊なるものを大阪市内に巡らせる。摘発が目的ではないと強調しても、えらく強圧的な感じは否めないし、だいいち不自由、不自然な食事の仕方が長続きするとは思えない。

変異株は従来株より感染力が強いうえ、重症化しやすく、子供にもうつりやすいといわれる。だから、新型コロナの名で一括りにして従来通りの対策を打つだけでは、むろん足りない。政府や自治体の変異株への対応は、あまりに鈍すぎる。

東京都の小池百合子知事は2日の記者会見でこう語った。

「東京においてはこのE484Kという、そういう性質の変異だというふうに聞いております。これが大阪型のN501Yの、この広がりは確認されておらず、E484K株が約半数を占めているというのが現状であります」

東京の変異株は「E484K」、大阪は「N501Y」。変異株についてのゲノム解析が進んでいない東京都の知事が、たやすく断定するのもおかしな気がするが、これまでのところはそういう傾向のようだ。

「E484K」と呼ばれる変異は、コロナウイルスが持つ「スパイクたんぱく質」の484番目のアミノ酸がグルタミン酸(略号E)からリシン(略号K)に置き換わっているという意味らしい。

「N501Y」では、「スパイクたんぱく質」の501番目のアミノ酸がアスパラギン(略号N)からチロシン(略号Y)に置き換わっている。イギリスで見つかったウイルスにはこの変異があるという。

大阪や兵庫では大半が「N501Y」、いわゆる英国型の変異ウイルスに置き換わっているようだ。

南アフリカ株とブラジル株も「N501Y」の変異があるが、それだけでなく「E484K」の変異も起きている。「E484K」は先述したように、東京で多いと小池都知事が言う変異だ。

「E484K」変異のウイルスには、「免疫逃避」と呼ばれる性質があると考えられている。従来株に感染したりワクチンを接種して得た免疫が、E484K変異をもつウイルスには十分に効かないという複数の実験結果が出ているからだ。

「E484K」の変異が、東京独自に起きているのか、ブラジルや南アフリカから持ち込まれたものかはわからないが、ワクチンの効果が十分に見込めないとなると、由々しきことである。

ワクチンに頼れないなら、なおさら変異株に対する検査の徹底が肝要だ。そして、変異株に感染している人を隔離する必要がある。検査と隔離という感染症対策の基本に立ち返るしかないのだ。

日本における変異株の検査は、神戸市のように地方衛生研究所でゲノム解析ができている自治体は別として、各地の保健所や医療機関で陽性と判断されたサンプルを国立感染症研究所に送って行われている。

日数と手間を要し、感染研の処理能力にも限界があるため、当初は陽性サンプルの10%の検査にとどめていた。さすがに今は40%をめざしているというが、本来なら100%にすべきである。

そもそも、一度検査したサンプルをゲノム解析のため感染研まで送って二度目の検査にかけるというのが大いなる無駄であろう。

それをたちどころに解消する方法として、米食品医薬品局(FDA)が推奨しているのが、「マルチプレックスPCR」という試薬を使うPCR検査だ。一つの検体で複数の解析ができるため、1回のPCR検査で陽性かどうかの判定や変異株のゲノム解析が可能だ。

感染研でもこれで検査を行っているはずなのだが、厚労省はどういうわけか、この方法を民間の検査会社や医療機関に広げようとしない。医療データの中央集権とでもいえる体質のなせるわざなのだろうか。

政府はファイザーから年内に1億4,400万回分(7,200万人分)、モデルナから5,000万回分(2,500万人分)、英アストラゼネカ社から1億2,000万回分(6,000万人
分)の供給を受ける契約を結んでいる。

ファイザー、モデルナのmRNAワクチンでも、効果に多少の不安があるが、アストラゼネカのワクチンとなると、さらに疑念が増す。

アストラゼネカのワクチンは、チンパンジーのアデノウイルスに、コロナウイルスのSタンパク質の遺伝子を組み込んでつくる。接種すると、人体内でコロナウイルスのタンパク質が生成されるが、この過程がウイルスに感染したときと似ているため、免疫ができる仕組みだ。

しかし、南アフリカではアストラゼネカのワクチンを使用停止にしている。そのワケは2,000人が参加した治験の結果、ワクチンを接種したグループと偽薬を接種したグループとの間で、感染者数にほとんど差がつかなかったからだ。

東京に多い「E484K」の変異は、南アフリカ型と共通するため、今後、アストラゼネカ社の情報提供や関連する研究レポートに注意すべきだろう。ファイザーやモデルナは追加接種(ブースター)によって変異に対応する姿勢を示しているが、どうなることか。

筆者も案内がありしだい、若干の副作用は覚悟のうえでワクチンを打ちに行くつもりでいる。ただ、結局効かなかったり、何度も追加接種が必要になったり…と、つい嫌な想像をしてしまいがちではある。

image by: Shutterstock.com

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