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安倍が改悪。生活保護受給を阻む「親族照会」を新聞はどう報じてきたか?

3月30日、厚労省は生活保護申請者の親族に対する援助可否の照会について、申請者の意向を尊重するよう通知しました。安倍政権によって作り出された生活保護を受けにくくするこの「親族照会」も、コロナ禍で生活困窮者が増加し、路線を変更せざるを得なくなったようです。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、過去の東京新聞の記事から「親族照会」の問題点を明らかにし、「自助・共助・公助」と、いの一番に「自助」を掲げる菅首相や安倍前首相の古い家族観の弊害を指摘しています。

改悪された生活保護制度の問題点を象徴する言葉「親族照会」を新聞はどう報じてきたか?

きょうは《東京》から。改悪された生活保護制度の問題点を象徴する言葉、「親族照会」が見出しの中に見えています。ただし、正式な用語としては「扶養照会」ですので、きょうはこれで検索。《東京》の5年分の記事から18件ヒットしました。まずはきょうの3面記事の見出しから。

生活保護 厚労省が新通知
「親族照会 申請者の意向尊重を」
支援団体「大きな前進」

生活保護を申請すると自治体の福祉事務所が申請者の親族に連絡して援助ができないか確認する「扶養照会」について、厚労省は照会を拒む申請者の意向を尊重するよう求める通知を自治体に出した。新型コロナによる困窮者が増加しているにも関わらず、扶養照会によって家族などに知られることを恐れて申請をためらう人が多く、批判が出ていた。

支援団体は今回の新通知について「大きな前進」と評価するが、扶養照会は「申請者が事前に承諾した場合に限る」よう要望するとして、一層の改善を求めている。

●uttiiの眼

2013年12月に当時の安倍内閣が生活保護法を改悪して導入したのが「扶養照会」。社会保障切り捨て政策の最たるものだった。

これは、生活保護の申請を受けた福祉事務所が、扶養義務者に対して扶養照会を行い、扶養できないと回答した場合に、本当に扶養できないのかどうかも含めて「扶養義務者」の資産・収入等について、官公署に資料の提供や報告を求めることができるようにしたもので、当初から、生活に困窮した人が生活保護の申請をためらうのではないかと危惧されていたもの。

コロナ禍で生活困窮者が急増しているために、安倍・菅路線の金看板を降ろさざるを得なくなった形か。

【サーチ&リサーチ】

*ヒットしたのは2016年9月から今年3月までの18本。まずは「社会派ソング」についての文化娯楽面の記事から。

2016年9月18日付
「生活に根ざした“社会派”の演歌や歌謡曲がじわじわと増えている」という記事の中で、生活保護の問題も取り上げられているとして、以下の重要な記述。
「ひとり親の大半を占める母子世帯の相対的貧困率は高く、厳しい経済状況に置かれている。低所得者支援には生活保護もあるが、受給者はひとり親世帯の約1割ほど。親族への扶養照会の手続きなどへの抵抗が影響しているとみられる」と。

2017年12月17日付
「司法福祉と生活保護」をテーマにしたシンポジウムについての記事中、パネラーの1人、柏木ハルコさんについて、以下の記述。
「生活保護の実態に迫る漫画「健康で文化的な最低限度の生活」を連載する柏木ハルコさんが登壇。新人のケースワーカーを通して多重債務や不正受給、扶養照会といった問題を取り上げる漫画の物語について、「福祉関係者らに聞いた話が基になっている。人に話を聴く難しさを伝えたかった」と話し、「ケースワーカーは人権を守る大切な仕事。誇りを持ってほしい」と激励した」

*以下、コロナ禍のなかの生活保護に関する記事。

2020年6月18日付
全国の弁護士や労働組合らがつくる「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」実行委員会が政府に対して、「生活に困ったら堂々と生活保護の利用を」と呼び掛けるよう要請したとの記事。同会は要請文の中に「預貯金などの資産要件の緩和や、自治体が申請者の親族に「援助してもらえないか」と尋ねる「扶養照会」を原則、廃止することも盛り込んだ」という。

2021年1月22日付
「生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」(中野区)が年末年始に実施した調査」に関する記事。「相談に来た165人に聞き取り調査をした。生活保護を現在、利用していない128人に理由を聞くと「家族に知られるのが嫌だから」と44人(34・4%)が答えた」という。扶養照会は「有害無益」として、申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合に限るよう求める署名を募っていると。

*批判の声に押されるように、政府も動き出す。田村憲久厚労相が公明党議員の質問への答弁で、「弾力的運用」を明らかにした。

2021年2月5日付
想定されている弾力的な運用とは以下のような内容。「自治体への通知や問答集で、親族に照会しないケースの一例として「20年間音信不通である」と明記」されているが、「家族関係が壊れていて扶養してもらえないのであれば、20年にこだわる必要もないのではないか」(田村厚労相)として、20年音信不通でなくても、照会しなくてよいとするものだった。

2021年2月9日付
記事のタイトルは「新型コロナ 困窮者支援 死角なくせ 生活保護「扶養照会」見直しを 支援団体 3万6000人分署名 国に提出」というもの。支援団体とは上記記事にも登場した「一般社団法人つくろい東京ファンド」のこと。その中で…。

「扶養照会により金銭的な援助があったケースも少なく、厚労省の担当者は「1、2%ほどになると思う」と話す。同法人には、自治体職員からも「意味がないのでは」という声が寄せられているという。同法人の稲葉剛代表理事は都内で記者会見し、「自分の尊厳を売り渡すような気持ちにさせられ、扶養照会は申請を阻害する最大要因となっている」と強調した」

*署名が提出された2月8日、菅首相も国会答弁の中で「より弾力的に運用できるよう、今厚生労働省で検討している」とした(照会手続き撤廃は否定)。

2021年2月28日付
厚労省は自治体に対し、扶養照会を弾力的に運用するよう求める通知を行った。その中身は、20年間音信不通の親族には照会不要としていたのを「10年程度」に改め、また「生活保護制度で定められた額より高い家賃の住居に住んでいる人でも、「自営業の収入が今後回復する見込みがある」などの要件を満たせば、転居せず保護を受けられるようにする」とも。

さらに、「厚労省はこれまで(1)親族が高齢や未成年(2)家庭内暴力(DV)があった、などの事情がある場合は照会しないと例示していた。今回、新たに(1)本人が親族に借金をしている(2)相続を巡り対立している(3)縁が切られていて関係が著しく悪い、などの場合も照会不要と例示し、対応を明確化した。直接当てはまらなくても、個々の事情に応じて判断するよう求めた」

●uttiiの眼

安倍政権の政策がいかに“イデオロギッシュ”なものだったか、ハッキリと分かる話になっている。「扶養照会」は、家族や親戚であれば、そのなかの困窮者を救援する道徳的な義務を負っており、法はその義務が履行されることを担保しなければならないとでも言うかのように制度化されていた。

保守主義的な家族観から抜け出してきたようなこの手順は、大勢の困窮者に申請への躊躇いを生み、生活保護制度を根底から崩しかねないこととなった。さらに、自治体の福祉事務所が手を尽くして「扶養照会」を行っても、実際に援助が得られるケースはごく僅かであり、現場から「意味がない」と見なされていたとなれば、もうそんな手順を維持する意味はどこにもなくなっていたということだろう。

菅氏は、それでも「扶養照会の撤廃を拒否」している。これは安倍政権下で社会保障切り捨ての先頭を走っていた自分を否定できないからであり、いまだに伝統的な家族観にしがみつこうとしているようにも見える。思い出されるのは、自民党総裁選で「私が掲げる社会像」として提示され、その後所信表明演説にも採用された菅義偉氏のモットー。あの、「自助・共助・公助」という変梃なスローガンのことだ。今も、この考えは正しいと思っているのか。是非、訊いてみたいことの1つだ。

今回「運用弾力化」に至ったきっかけは、飽くまで「コロナ禍」が原因で、一時的に経済的な苦境に陥った人々を想定し、その人々が申請を躊躇わないようにするという政策意図だったのだろう。イメージされているのは、コロナさえ収束すれば短時日のうちに事業の業績を回復させることができ、瞬く間に生活保護が必要なくなる人たちだった。しかし、以前から苦境に置かれ、「扶養照会」に生活保護費受給を阻まれてきた人はたくさんいた。

その意味で、今日の記事が指し示す「弾力化」は「コロナ対応」より、もう少し先を行っているように思える。「申請者の意向を尊重せよ」という通知は、少なくとも申請者の意向に反したり無視したりして「扶養照会」することを事実上禁じているわけで、遙かに包括的な意味を持つことだろう。

image by:soraneko / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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