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保守派から「安倍に再登板させろ」の大合唱。自民全敗スガ首相の本音は

コロナ禍にどれだけ多くの庶民が喘ごうが、この国の為政者たちは権力の万能感や自己保身にしか興味がないようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、二度も政権を投げ出した安倍晋三氏の再再登板を期待する保守系議員たちの存在と、彼らに呼応する動きを見せる安倍氏を強く批判。さらに、長すぎた「安倍一強」が招いた自民党内の人材不足を指摘しています。

“選挙全敗”の菅首相を安倍氏は支持か、それとも再再登板か?

安倍前首相は再再登板を狙っているのだろうか。最近の活発な政治活動を見て、自民党内に待望論が出ているようだ。体調悪化による二度目の辞任からまだ8か月あまり。権力に未練がましいことは、ふつうならしない。

たしかに、菅首相はお世辞にも新型コロナ対策に成功しているとはいいがたく、最近では“ワクチン失政”という批判も飛び交っている。だが、コロナ危機の深刻化も、もとをただせば、安倍前首相の初動が鈍かったからではないか。

なのに、自分の体調が回復するや、安倍氏は色々な会合に首を突っ込み、やれ憲法改正だ、原発推進だと息巻いている。菅首相の悪戦苦闘など、いまや他人事のようなふるまいである。

病いのためとはいえ、自らの意思で歴代最長政権を終えたのだ。ひとまず静かに書を読むなりして閑居し、英気を養いつつ、知見を高めておくのが、後進に示すべき奥ゆかしさだろう。

北海道、長野、広島で行われた4月25日の補欠、再選挙で、自民党は1人として当選者を出せなかった。それだって、なにも菅首相の不人気のせいだけではない。モリ・カケ、桜を見る会など数々の疑惑を通じ、権力の私的乱用という腐敗のタネをまいたのは、安倍氏である。

衆議院北海道2区は、ワイロが発覚した吉川貴盛元農林水産大臣の議員辞職にともなう選挙で、自民党は候補者を立てることすらできず、不戦敗となった。参議院長野選挙区は、コロナで急死した羽田雄一郎氏(立憲)の「弔い合戦」とあって、全く歯が立たない。

最後まで接戦を演じ、ただ一つ勝利の芽があったのは、参議院広島選挙区の再選挙だけだったが、河井克行、案里夫妻が残した大規模買収事件のキズは想像以上に深かった。2019年の選挙(改選2)で、安倍自民党は現職の溝手顕正氏に加え、河井案里氏を立てたため、広島県連は、溝手氏を推す広島県議会議長、中本隆志氏ら主流派と、元議長の桧山俊宏氏ら非主流派に分裂して戦った。党本部から河井陣営に振り込まれた1億5,000万円という破格の選挙資金で、河井案里氏と夫、克行氏(元法相)は買収に走り、溝手氏は落選、河井夫妻には司直の手が及んだ。

河井夫妻からカネを受け取った政治家は、わかっているだけで40人いる。内訳は三原市長、安芸太田町長、広島県議14人、広島市議13人、その他の市議・町議11人だ。40人のうち35人は買収の意図を感じたと証言している。陣中見舞いだの、当選祝いだのと思っていたというのは少数にすぎない。それでも多くが議員を辞めずに居座っている。

なんという退廃だろうか。これで、自民党に投票してくれと言われ、有権者が応じるはずがないではないか。そして、その原因をつくった張本人が誰かと言えば、河井克行氏の能力を買い、総理補佐官にし、やがては法務大臣にまで取り立てた安倍前首相であろう。河井氏は、何をしても許されるような錯覚に陥っていたにちがいない。最高権力者に特別扱いされたがゆえに、罠にはまったのだ。

にもかかわらず、安倍氏は節操のない再再登板に期待を寄せる保守系議員たちの動きに呼応し、悦に入っているように見える。このところの動きをまとめておこう。

まず4月12日。菅首相が、バイデン米大統領に促され、温室効果ガスの削減目標を高く掲げたことから、今がチャンスとばかりに原発の新増設やリプレース(建て替え)をめざす自民党の議連が発足、会長の稲田朋美衆院議員に請われて、安倍氏は顧問への就任を引き受けた。

4月20日、安倍氏は自民党憲法改正推進本部の最高顧問に就任した。改憲に消極的な菅首相を意識しているのかもしれない。目下、自民党が急いでいるのは国民投票法改正案の成立だ。大型商業施設への共通投票所設置などを盛り込んだ改正案が国会に提出されているが、野党はテレビCMの規制を盛り込むべきだとして、反対している。

4月22日、安倍氏は「保守団結の会」なる党内右派グループの会合に出席、持論の国家観をぶち上げたあと、民間の改憲派グループが開いたシンポジウムにパネリストとして参加、「新しい薬が大変よく効いている」と体調回復をアピールし、安倍政権の間は憲法改正の議論をしないと言ってきた立憲民主党の枝野幸男代表を話のタネにして、「もう首相じゃないから議論しろよ」と空鉄砲を放ってみせた。

こうした活発な動きを歓迎する声は、出身派閥の細田派内では、とくに強いようだ。同派閥に戻って「安倍派」を旗揚げしてもらい、それをきっかけに、派をあげて安倍氏の総理返り咲きへ本腰を入れる。そんなシナリオを描いているのかもしれない。

気力体力ともに自信を取り戻した安倍氏としては、“選挙不敗”の神話をひっさげて、“選挙全敗”の菅首相に取って代わる誘惑にかられやすい局面だろう。

だが実際のところ、どうなのか。ワクチン接種が遅ればせながら菅首相の言う通りに進み、新型コロナの感染拡大が落ち着いて、東京五輪・パラリンピックも予定通りに開催、どうにか混乱なく終えることができれば、菅首相がもくろむように、総裁選前の解散・総選挙も可能だろう。そして、想定より選挙結果がよければ、すんなり総裁に再選される公算が高まる。

衆院は定数465で、自民党の現有議席は278。過半数の233を45も上まわる議席を有している。これと同じレベルの結果はとうてい望めない。許容できる議席減の目安はどの程度なのか。ある評論家は30議席減、すなわち248議席がボーダーラインと指摘する。50議席減という政権寄りの評論家もいるが、それだと過半数割れの228議席ほどにハードルが下がる。意図的に達成しやすい相場観を吹聴しているとしか思えない。

逆に、コロナの勢いがおさまらず、東京五輪が中止、または開催できても火に油を注ぐように感染が拡大する場合、菅内閣の支持率が急落するのは目に見えている。解散・総選挙のタイミングを失い、菅首相では選挙を戦えないとして、菅降ろしの機運が一気に高まる。総裁選で選挙の顔を決めようという空気になるだろう。

菅氏は決して降りることはあるまい。さてその時、安倍氏はどうするか、である。自分のピンチに総理をつとめてくれた菅氏を、どんな状況であれ徹底して支援するほどの器量はなさそうだ。盟友、麻生太郎氏に背中を押され、党内の安倍シンパから再再登板コールが湧き上がれば、権力の虫がうずきはじめるのではないか。

安倍氏と麻生氏は「東京五輪が終わるまでは支える」と菅首相に伝えているといわれる。つまりそれは、五輪後は自由にやるという宣言でもある。総裁は「連続3期9年」が自民党のルールだが、連続でなければ、何度でもなれるということだ。桂太郎は3回、伊藤博文は4回も総理大臣になった。

菅首相は安倍・麻生連合にどう対処するだろうか。安倍氏、麻生氏の支援がないと、菅氏は苦しい。自民党衆参両院の約4割を占める最大派閥の細田派96人と、第二派閥の麻生派53人が、自分の派閥を持たない菅氏の基盤になっていたのは確かだ。

菅続投の条件として、麻生氏は幹事長の交代を突きつけているともいわれる。二階派の膨張を苦々しく思っているのだろう。それを菅首相がのむと二階派が離れる。また、二階を捨てたところで、安倍・麻生の支持を得られるかどうかは、わからない。安倍・麻生につくか、二階の寝技を頼りとするか。そのような厳しい選択を菅首相は迫られる時がくるかもしれない。

総裁候補の一人、岸田文雄氏はどうだろうか。参院広島の再選挙で指揮を執ったものの結果を出せなかったため、ますます旗色が悪くなっている。安倍前首相からの禅譲を期待しながら裏切られ、貧乏クジばかりひかされてきた岸田氏を、今度こそ安倍、麻生氏が支援するという想像も、しにくくなった。

こう考えてくると、東京五輪をうまく乗り切れない場合には、いよいよ安倍氏の再再登板が現実味を帯びてきそうな気がする。だが、モリ・カケ、桜を見る会、いずれの疑惑にも、安倍氏はきちんと説明を尽くしていない。その気もない。そんな前首相の再再登板を国民が歓迎するだろうか。

おりしも、安倍氏は5月3日、BSフジの報道番組で、再再登板について否定的な発言をした。

「私が突然、病気のために辞任した後、菅首相は大変だったと思う。この難しいコロナ禍の中で本当にしっかりやっている」「昨年、総裁選をやったばかり。その1年後にまた総裁を代えるのか。自民党員なら常識を持って考えるべきだ」「一議員として全力で支えることが私の使命だ」

いかにも菅首相を思いやっているようだが、今の段階で、私は再再登板すると言うはずがない。そもそも「一議員として全力で支える」という姿はどこにあるのか。議連の会合に出席し、役職にもついて、さかんに復活の意思をアピールしているだけとしか筆者の目には映らない。

安倍前首相の再再登板を望む声が出ること自体、人材不足の党内事情を物語っている。安倍一強が長く続いたために、自由闊達な論議のなかから人を育てる風土が失われていったのだろうか。

image by: 首相官邸

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