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中国で罰金170万円の新法案も。大食いTV番組の“気持ち悪さ”に世界が気づきはじめた

多くのチャンネル登録者を抱え再生数を増やせば、巨額の広告収入を得られるユーチューバー。ありとあらゆるコンテンツのなかでも定番であり世界中に存在するのが「大食いもの」です。中国で「大胃王」と呼ばれる「大食い動画配信者」の中には、登録者が1000万人を超え、年に数億も稼ぐ人がいたのだとか。そう、中国ではすでに「過去形」です。今回の『きっこのメルマガ』では、人気ブロガーのきっこさんが、そんな「大食いコンテンツ」の変遷と、中国の「大胃王」たちに唐突に訪れた終焉について伝えています。

中国の大食い動画配信者「大胃王」たちの終焉

今やテレビの大食い番組や大食い企画は、1つのジャンルとして完全に確立し、そうした番組を専門とする大食いタレントも数多く活躍するようになりました。あたしの知る限りでは、大食いブームの火付け役はテレビ東京『TVチャンピオン』の「大食い選手権」だと思いますが、あたしは、あの番組が大嫌いでした。それは、気持ち悪くて見ていられなかったからです。

『TVチャンピオン』自体は好きな番組だったので、いろいろな選手権を楽しみながら観ていました。しかし「大食い選手権」だけは、口の周りをベトベトにして食べ続ける選手、口いっぱいに頬張った食べ物が飲み込めずに苦しむ選手、顔の汗がボタボタと落ちる丼のラーメンをすする選手など、気持ち悪くて見ていられませんでした。

あたしは、食事の食べ方が汚い人が何よりも苦手なので、初期の「大食い選手権」は見るに耐えませんでした。しかし、そんなあたしの目からウロコを落としてくれたのが、まるで場違いのように登場したギャル曽根さんでした。当初は「曽根菜津子」という本名での出場でしたが、他の選手たちが苦しそうに食べ進める中、あんなに華奢(きゃしゃ)なのに、大きな口を開けてパクパクと、とっても美味しそうに笑顔で食べ続けたのです。

その上、他の選手たちが一皿でも多く口に入れようと必死になっている終盤に、突然、お箸を置いて化粧直しを始めたりと、完全にマイペース。彼女にとっては、勝敗など二の次で、大好きな食べ物を美味しく楽しくたくさん食べることのほうが重要のように見えました。そして、あたしはギャル曽根さんが大好きになり、ギャル曽根さんを見るために「大食い選手権」を欠かさずに見るようになりました。

すると、あたしと同じように感じていた視聴者が多かったのか、ギャル曽根さんの人気が影響したのか、制作側も方針を変更したようで、汚い食べ方をする選手や苦しそうに食べる選手は消え始め、美味しそうに楽しそうに食べる選手が主流になって来たのです。そして、ギャル曽根さんと同じように、笑顔で美味しそうに食べつつも男性選手を負かしてしまう女性選手が次々と登場するようになったのです。

一方、「フードファイター」という言葉も生まれ、他局では男性選手たちがスポーツ感覚で大食いの試合をするようになりました。皆さん、きれいに食べるのですが、あくまでも「試合」という形式なので、誰1人として笑顔などなく、ただ黙々と食べ続け、最後には苦しみながら無理に口に押し込むのです。これは見ていられませんでした。

あたしは、食べ物は1人前しか食べられません。ラーメンならラーメンだけ、チャーハンならチャーハンだけでお腹がいっぱいになるので、ラーメンとチャーハンとか、きつねそばと天丼とか、一度に2つのメニューを美味しそうにモリモリと食べちゃう男性とかを見ると、すごく頼もしくて素敵に見えるのです。やっぱり、あたしは「きれいに食べる」のは当然として「美味しそうに食べる」や「楽しそうに食べる」が好きなのです。

だから、あたしより華奢なギャル曽根さんとか、あたしと同じくらいの体型のロシアン佐藤さんとかが、あたしの何十倍もの量の食べ物を美味しそうに楽しそうにパクパク食べているのを見ると、すごく幸せな気分になるのです。そして今では、フードファイター系の番組もなくなり、大食い番組は、よりエンタメ性が求められるようになったのです。

テレビ的には、男性より女性が大食いしたほうが画(え)になるため、大食いタレントは女性のほうが重宝されていました。しかし、よりエンタメ性が求められるようになったことで、実力だけでなく食レポも上手なMAX鈴木さんや、いつも笑顔で楽しそうに食べるラスカル新井さんなど、男性も時代に合った人たちが活躍するようになりました。

こうした大食いタレントは、ほぼ全員がユーチューブをホームにしており、自分のユーチューブチャンネルでの収入がメインです。たとえば、ロシアン佐藤さんのチャンネル登録者数は約87万人、MAX鈴木さんは約61万人、ラスカル新井さんは約91万人です。これだけ登録者数があれば、月にアップする動画の本数にもよりますが、平均的なユーチューバーの収入と照らし合わせると、広告収入だけで月に数百万円、これに企業案件が乗りますので、年収は数千万円になるはずです。

しかし、上には上がいるもので、タレントから大食いユーチューバーに転身して大成功した木下ゆうかさんは、チャンネル登録者数が約551万人、これは世界の大食いユーチューバーランキングでも、トップ5に入るほどの登録者数です。そして、ユーチューブは登録者数が増えると広告の再生単価もアップするので、年収は数億円と見られます。

大食いユーチューバーに成功者が多いのは、大食いには「国境がない」からです。大食いユーチューバーの動画は、やることは目の前に置かれた大量の料理を時間内にたいらげるだけですから、日本語など分からなくても楽しむことができます。そのため、日本国内だけを対象にしたコンテンツのユーチューバーとは、分母が桁違いなのです。

これは他の国にも言えることなので、いろいろな国に大食いユーチューバーがいて、チャンネル登録者数が数十万人から数百万人と成功している人たちが数多くいます。しかし、4月29日のこと、中国で大食い動画のアップが禁止されてしまいました。

中国では客をもてなす際に、食べきれないほど料理を並べる習慣があるため、多くの飲食店から毎日のように大量の「食べ残し」が廃棄されています。その総量は年間に約1800万トン、5000万人分の1年間の食糧に該当する量です。この問題に対して、昨年8月11日、習近平国家主席はメディアを通じて「中国人の食べ物の浪費問題は深刻で私は心が痛む」「皿の上の一粒一粒が人々の苦労のたまものだと知るべきだ」というメッセージを発信したのです。

実は、習近平国家主席がこのメッセージを発信するのは、前回2013年に続いて二度目なのです。前回はメッセージだけで国民の自主性に任せたので、ほとんど行き届きませんでした。そのため、今回は法整備をして、飲食店で食べきれないほど注文した客にも、その料理を提供した店にも罰金を科す「反食品浪費法」を策定し、全人代(全国人民代表大会)の常務委員会が4月29日に可決したのです。

この法律に違反した場合、飲食店には日本円で約17万円の罰金が科せられますが、それどころではないのが、中国で「大胃王」と呼ばれている大食い動画配信者たちでした。中国でも大食い動画は人気で、国内メインの動画サイトなどにも数多くの「大胃王」がおり、中にはチャンネル登録者数が1000万人を超え、年間に何億円も稼いでいる人もいます。

しかし、今回可決された「反食品浪費法」では、こうした大食い動画も「食品浪費行為」と見なし、罰金の対象としたのです。その額、なんと約170万円。動画配信は不特定多数への影響があるとして、飲食店への罰金の10倍に設定されたのです。そのため、中国の「大胃王」たちは、過去動画の削除を余儀なくされただけでなく、収入源を失うことになってしまったのです。

もともと中国の「大胃王」の中には、動画を編集して完食したように装っていたイカサマ行為が発覚して炎上した人や、生配信中に無理に食べ過ぎて倒れ、病院に搬送されて亡くなってしまった人などがいて、たびたび問題にされていました。こうした背景があったため、昨年8月に習近平国家主席が「食品浪費」を戒めるメッセージを発信した際には、「大胃王」を問題視する世論も高まり、今回の法律に盛り込まれたようなのです。

真面目に良識を持って取り組んで来た「大胃王」には気の毒ですが、世界では全人口の1割以上に当たる約8億人が飢餓に苦しみ、そのうち数千万人が毎年餓死し続けているのですから、富裕国のエンタメ化された大食いは、そろそろ抜本的に見直す時期なのかもしれませんね。

image by: Shutterstock.com

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