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軍事に無知な日本政府と議員とマスコミ。現実無視の安保関連法で国は守れない

いつ起こるともわからない中国の台湾侵攻ですが、万が一「台湾有事」の際に米軍と台湾軍が中国へ攻撃することになれば、日本の自衛隊はどのような行動を取ることが想定されているのでしょうか。軍事アナリストの小川和久さんは自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で今回、読売新聞が4月に掲載した、「安保関連法」の「重要影響事態法」に関する記述に、軍事の現実を知らない「無知」ゆえの違和感をおぼえたと憂慮。そして、具体的な台湾有事のシミュレーションをもとに、いかに現実離れした法であるかを分かりやすく解説しています。

安保関連法で国を守れると考える愚かさ

これから取り上げるのは「『台湾有事』から日本への波及懸念、自衛隊が取り得る行動は複数類型」という見出しの4月18日の読売新聞の記事ですが、違和感を拭い去ることができないでいます。

最も現実離れしていると感じたのは以下の部分です。

「有事が勃発すれば、米軍は台湾防衛のために反撃すると考えられる。この場合、まず想定されるのは、安保関連法の一つである重要影響事態法に基づき、自衛隊が米軍に対して行う燃料補給などの後方支援活動だ。

具体的には、台湾有事が『放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれがある』など、日本の平和と安全に重要な影響を与える『重要影響事態』に該当すると認定する必要がある」(出典:読売新聞2021/4/18『台湾有事』から日本への波及懸念、自衛隊が取り得る行動は複数類型

これを読むと、台湾への中国の武力攻撃が始まり、日本列島と周辺に展開する米軍が反撃するとき、自衛隊は燃料補給など米軍への後方支援活動をする位置づけになっています。その場合、日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」に該当すると認定しなければならないようです。

よく考えてください。現実に、こんな馬鹿なことが起こりますか。

仮に中国が台湾を航空攻撃したとしましょう。台湾軍は迎え撃ちますし、米軍も加わります。3カ国の航空機による戦いは日本との国境などお構いなしに展開されることになります。日本の国境だから侵入しないようにUターンするということはないのです。台湾をめぐる空の戦いは、あっという間に沖縄本島あたりまで及んでくると考えなければなりません。

台湾をめぐる戦いが始まるときには、その兆候をもとに航空自衛隊の戦闘機も国境線近くの上空で戦闘空中哨戒(CAP)を行っているはずです。そして、戦闘状態で中国機が国境を越えてきたら日本の防衛のために中国機を撃退することになります。平和なときの対領空侵犯措置のように、警告して退去を求めるなどということはありません。

場合によっては、中国機を追撃する航空自衛隊機が台湾の中部から南部くらいまで入ってしまうこともあり得るのです。ジェット機が音の速さのマッハ1で飛ぶときの距離は1分間に約18キロ。戦闘状態ではその半分以下のスピードですが、それでも気がついたら自衛隊機は台湾上空、中国機も沖縄上空まで飛ぶということは理解しておかなければなりません。

台湾と尖閣諸島などを射程圏内に収める中国の地対空ミサイルシステムS-400の移動式発射装置に対する米軍の攻撃も行われるでしょう。「自衛隊は燃料補給など米軍への後方支援活動をする位置づけ」などということはあり得ないのです。燃料補給も、戦闘状態の中で行う活動になってくるのです。

読売の記事は、

「事態がさらに悪化した場合、限定的な集団的自衛権に基づいて武力行使による反撃ができる『存立危機事態』に該当する可能性もある。これも安保関連法で可能になった」

としていますが、台湾有事などの戦争状態にはそんな段階は存在しないのです。いきなり「武力攻撃事態」なのです。旧ソ連軍の北海道北部への本格的な軍事侵攻のレベルなら、その準備に6カ月ほどを要し、事前に兆候を察知できましたが、そんな時代ではないのです。

こんな現実を無視した「重要影響事態」「存立危機事態」が安保関連法として国会を通過したのは、これを書いた官僚も、審議した国会議員も、専門的に評価する立場の学者も、そして報道するマスコミも、軍事の現実についてまったく無知だからにほかなりません。

戦争が始まっているのをよそに、「これは『重要影響事態』だろうか、いや『存立危機事態』に該当するとした方が正しい」と議論する国会議員の姿など、想像したくもありません。

ここでは、わかりやすいように台湾への航空攻撃を例に挙げましたが、現実には可能性は高くありません。福建省に1500基以上が展開する短距離弾道ミサイルによる台湾の重要目標に対する斬首戦も同様です。むしろ、台湾で騒擾事態を引き起こして、その混乱に乗じて親中派による傀儡政権を樹立する方が、リアリティがあります。

先進国の中で、日本のコロナ対策だけが後手に回っている根底には、国家国民の危機についても絵空事の言葉の遊びで済ましてしまうような思考回路の存在があります。もっとリアリズムを重視した考え方に変えていかないと、日本は衰退を免れないでしょう。(小川和久)

image by: Dave Colman / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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