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なぜ無観客ではダメなのか?東京五輪で納得いかない3つの大疑問

国民の多くが反対しようとも、海外メディアがどれだけ危険性を訴えても、あくまで開催ありきで準備が進む東京五輪。しかしながら開催サイドは、私たちに対して十分な説明を果たしたとは言い難い状況です。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、事ここに至っては建前論など無意味であるため、本音ベースの議論のやり直しを政府や五輪委に対して提案。数多ある疑問の中から特に納得し難い「3つの大疑問」について、その矛盾点や誤謬を指摘しています。

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政府の五輪・コロナ対策、3の大疑問

五輪・コロナ問題では、本当に日替わりで驚かされたり、腹を立てさせられたり、世論は大きく揺れています。ハッキリしているのは、政府や五輪委には「確固たる見通し」はないということです。

であるならば、この際ですから、「体裁を繕う」だけの建前論はやめて、全て本音ベースで議論をやり直してはどうでしょう?今回は以下の3項目について議論してみたいと思います。

(1)5月31日の報道では、五輪の開催は「無観客」ではなく、観客を入れる方向のようです。これに関して、無観客だとスポンサー枠の入場ができず、また広告効果がないなどスポンサーとの契約違反が発生することが背景にあるようです。児童生徒の「動員」もこれに関係しているのかもしれません。ならば、無観客とした場合に、その経済損失はいくらなのか、そのマイナスを埋める財源はどこなのかをオープンに議論すべきではないでしょうか?

仮に、スポンサー枠の入場をさせないと契約違反だと言っても、スポンサーが取引先を招待するとか、その取引先は招待されて観戦して喜ぶという構図が、この7月に成立するのでしょうか?ヘタをすると、スポンサーのブランドイメージ毀損にもなりかねない中で、主催者側が契約に固執することは、スポンサーにとっても迷惑ではとも考えられます。

パブリックビューイングも同じことです。会場には、スポンサーの広告が掲示されたり、グッズ配布などがされ、それがスポンサーの経済的なメリットとなります。ですが、条件が整わない中での開催強行をすると、そうした広告類もブランドイメージを毀損します。それでも固執することの根拠がわかりません。

(2)選手村では飲酒許可になるようです。欧州の一部など、飲酒と食事が密接に結びついているカルチャー、仲間や家族との会話が飲酒と不可分なカルチャーがあり、ある意味では禁止は難しいと思います。また、選手サイドはワクチン接種済みであれば、本国では室内飲食が自由になっている国も多いわけで、違和感はないと思います。また宿泊先における飲酒の禁止、食事会場における会話の禁止といった措置は、選手サイドから見て非常に抵抗感が強いことが予想されます。問題は、そこを緩めると一般社会と外国人選手との間で、対応が矛盾することになります。

この問題は、外国人選手と国内に「二重基準」を設けることの矛盾というように見えますが、その裏にあるのはワクチンの問題です。7月末の時点では、日本国内、例えば東京都内における一般接種は全く進んでいないと思われます。そんな中で、接種者だけを飲食や旅行、イベントなどで優遇することは不可能です。また、ワクチン忌避者の多い中では差別だとして反発を食うでしょう。

一方で、外国人選手の場合は、早期に接種の受けられた国もありますし、IOCが配布したものを6月1日から接種する場合も含めて、ワクチン接種率は高率になると考えられます。つまり国内外の接種率の差、ワクチンに対する意識の差が問題なのです。この問題が解決するまでは、この種の二重基準と、日本側の一般社会における世論の怒りという問題は解決しません。日本でも接種が進み、同時に接種への理解も進むというのが、開催の必要条件と考えます。

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(3)五輪関係のメディア関係者は、市中取材を禁止するという措置が取られるそうです。そうは言っても、事実上不可能です。まず、海外の一般メディアにおいては、日本のコロナ事情というのは、極めて興味深いニュースなのです。この問題の取材無くして、彼らのオリンピック・ストーリーは完結しません。

とにかく自由と人権を守った上で、人口比で欧米の20分の1に感染を抑えた秘密は何なのか、ほぼ100%がマスクをするという社会の文化的な背景はなどと、興味津々だからです。そのくせ、政府が世論のワクチン嫌いを恐れて、手配が後手後手に回ったなどというエピソードも、往年の経済大国との比較で、「おいしい話題」にされそうです。特に、80%が反対という中での五輪開催ということで、反対運動など色々な事件が起きれば、それは絶対に報道しなくてはならないと考えるでしょう。これは権力の側からは、少々カッコ悪いニュースかもしれませんが、そうした自由な言論が保障されている日本ということを世界に見せることはとても大切です。

これに加えて、多くの欧米の主要メディアは、東京に拠点を持っています。そこには、現地採用の日本人記者もいれば、海外からの駐在員もいます。海外駐在員であっても、パンデミックの期間中、ビザが有効で一度も出国していなければ、平常に東京で取材活動をしています。五輪の際には、彼らは、出張してきた五輪専門の記者とチームを組んで仕事をすると思います。

これは当たり前のことで、例えば電源から回線から取材許可に至るまで、日本の事情は現地事務所が知っているわけで、出張組だけでは仕事はできません。例えば、ロンドン五輪の際に、NHKが大クルーを送り込む中で、ロンドン支局と離れて動くなどということは不可能であったであろうことを考えれば、容易に想像がつく話です。

ですから、五輪メディアは、他とは隔離とか市中取材は禁止などというのは、事実上は不可能なのです。これも実は前項と同じ問題で、「英国株をバラまいたロイター元記者のトラウマ」に縛られているからですが、その解決は、日本でワクチン接種率が進み、ワクチンへの理解が進めるしかないと思われます。

(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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image by: Chaay_Tee / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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