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二階幹事長の陰謀。突然「安倍取り込み議連」を立ち上げた“老兵”の魂胆

政界一の親中派として知られる自民党の二階俊博幹事長が、「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進する議員連盟を立ち上げ、その最高顧問に安倍前首相が就任したことがさまざまな憶測を呼んでいます。インド太平洋構想と言えば、中国の「一帯一路」と利害を異にする戦略ですが、二階氏の思惑はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、二階氏が安倍氏を担ぎ出した魂胆及びその仕掛けにあえて乗った安倍氏の胸中を分析。さらに、コロナ禍にあって「権力闘争」に勤しむかのような両人の姿勢を批判的に記しています。

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二階氏は「安倍取り込み議連」で何を狙うのか?

唐突かつ意外な感じがする。自民党の二階俊博幹事長が議員連盟を立ち上げたのはいいが、なんと、「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進をめざす議連だという。

2016年8月の第6回アフリカ開発会議で当時の安倍首相が提唱した構想だ。当たり前のごとく、議連の最高顧問には安倍氏が祭り上げられた。

だが、親中派として知られる二階幹事長が、よりによって、習近平国家主席の「一帯一路」に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」に食らいついたのである。どういう風の吹き回しだろうか。

時節柄、政局がらみの臭いが漂う。安倍氏が菅首相の続投支持を表明し、二階氏とキングメーカーの主導権争いをしている、などと噂されるさなか、二階氏が安倍氏をいきなり政策ごと取り込んだ形なのだ。

もとをただせば、第6回アフリカ開発会議の当時、国家安全保障局長だった谷内正太郎氏が練り上げた外交戦略だ。アジア太平洋からインド洋、そしてアフリカにいたる地域に、自由貿易、航行の自由、法の支配を定着させ、経済連携を強めようというもの。もちろん、「一帯一路」など中国の経済覇権構想や海洋進出を阻止する「対中包囲網」の側面を持つ。

それを承知の上で、二階幹事長は2017年5月、「一帯一路」に関する北京での国際会議に参加した。安倍前首相が「インド太平洋」構想をアフリカ開発会議で表明して9か月後のことだ。

そのおり、二階氏は習近平国家主席に安倍首相からの親書を手渡した。原案は「自由で開かれたインド太平洋」発案者の谷内氏が作成したが、当時の首相秘書官、今井尚哉氏によって書き換えられていた。習近平主席の怒りを買わぬよう、「一帯一路」にも前向きな姿勢を示したのだ。

経産省出身の今井氏は、経産大臣時代の二階氏に出会い、心服していた。原案のまま親書を手渡したのでは二階氏の顔が潰れるということで、ひと肌脱いだのだろう。むろん、対中関係改善をめざす安倍首相の了解をとったうえでのことだ。

二階氏の親中路線と安倍氏の親トランプ路線との間で、絶妙なバランスをとっていたのが“影の総理”今井秘書官だ。中国への「対抗戦略」として出発した「自由で開かれたインド太平洋」は、今井氏によって、日中の民間企業がインフラ開発で協力するといった曖昧性も併せ持つ内容に変質したとみることもできる。

二階幹事長とすれば、そういう意味で、「自由で開かれたインド太平洋」の議連をつくることに、抵抗感がないのだろう。自分が会長として議連に睨みを利かせていれば、米中対立で加速する反中国の流れをコントロールできるという思惑もあるかもしれない。

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安倍氏はこれで、半導体戦略推進議連(甘利明会長)と、「自由で開かれたインド太平洋」議連という、経済、外交の主要政策にかかわる党内グループで、最高顧問として存在感を示すことができる。二階氏の老獪な仕掛けに乗っても、損はないとみたのであろう。

ただし、当然ながら、二階氏の新議連に対する党内の見方は分かれる。

「非常にスケールの大きい人だなと感じた。世界の安全保障や共存共栄していく中で、大所高所から考えられている発想であると、改めて敬意を申し上げたい」(下村博文政調会長)

「二階氏が座って大丈夫か。(中国と)もろにぶつかる政策だ」「二階氏の周辺は政局が得意な人ばかりだ」(甘利明税調会長)

この二人の発言から推測できるのは、下村氏は政調会長として事前に二階幹事長から話を聞いていたが、甘利氏には説明がなかったということ。下村氏は二階幹事長と距離が近いが、甘利氏はそうではない、ということだ。

安倍氏と二階氏は再び手を組む形になった。菅首相の続投路線でも一致している。問題は幹事長だ。

二階氏は、幹事長続投の意欲満々だろう。だが安倍氏と麻生副総理は、甘利明氏のような二人に近しい人物を幹事長に就け、菅政権の実質的支配を狙っているに違いない。この点では双方に利害対立がある。

二階氏としては、これをどう解いて、幹事長続投への道を開くかだ。そこでひらめいたのが、「自由で開かれたインド太平洋」だ。安倍氏の盟友、甘利氏が半導体議連なら、こちらはあえて、安倍氏の外交政策を持ち出す。その議連をつくり自分が会長、安倍氏を最高顧問に。二階氏ならではのしたたかさだ。仰天した甘利氏が「二階氏が座って大丈夫か」と訝ってみせたのもうなずける。

虚を突かれた安倍氏は、二階氏にどう向き合うか、戸惑っているかもしれない。二階氏のことだから、安倍氏に最高顧問就任を依頼するにあたっては、「懐刀」といわれる林幹雄幹事長代理あたりを差し向けて、きっちりと礼を尽くしたことだろう。情や礼節で人を柔らかに“羽交い絞め”にするのだ。

親分肌で、いざとなれば子分のために啖呵を切る二階氏は、人に慕われやすい。確かに、党内を安定させる「重し」の役割を果たしてきた。外見や喋り方はともかく、仕事をきっちりこなし、約束はちゃんと守る。そんな党内評価も高い。

安倍氏や麻生氏も一面では二階氏に信頼を寄せている。ただし「来る者は拒まず」で所属議員を増やし、しゃにむに派閥を拡大しているように見えるのは脅威であろう。

資金と選挙を牛耳る幹事長職に長く就いていると、それだけ党内での求心力が高まる。麻生氏が幹事長交代を菅首相にせっついているのは主導権を渡したくないからで、その点は安倍氏も同じに違いない。

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英国・コーンウォールのG7会合における菅首相は、「外交は苦手」と公言するだけあって、いかにも居心地が悪そうだった。国際舞台で地味さが映像化され、いちばんガッカリしているのは、総選挙を控える自民党の代議士たちであろう。

それでも、自民党内は「菅続投」で固まりつつある。菅首相が安倍前首相から引き継いだ「自由で開かれたインド太平洋」構想の議連を二階幹事長がつくり、安倍氏が最高顧問になるという動きの背後に、党内の異論を封じる意図が透けて見える。

だが、それも全て、楽観的な見通しのもとに組み立てられている。ワクチン接種が進み、感染を抑え、東京五輪・パラリンピックは全日程を終える。五輪観戦の熱が冷めないうちに菅首相は衆院を解散し、総選挙。自民党は苦戦しながらも単独過半数を確保する。それを、国民の信任を得たと解釈し、菅首相は総裁選を無投票再選で切り抜ける。とまあ、そんな感じだろう。

変異して感染力を増すコロナウイルスは、ヒトの勝手なシナリオをせせら笑うかのように、暴れまくっている。43%以上の人々がワクチン接種を受けたイギリスで再び感染者が急増しているのは衝撃的だ。ほぼ、インド由来の「デルタ株」だという。日本でもデルタ株はジワジワ広がっている。

しかも、東京では緊急事態宣言下にもかかわらず、人の流れは増える傾向だ。この調子では、東京五輪の開催と同時に、感染拡大の第5波がやって来ないとも限らない。

そうなった時、五輪、医療、人流抑制をどうするか。政府が抜かりなく対策を練っている様子がうかがえない。とにかく接種、とにかく五輪開催。それだけで突き進んでいるように見える。

何が起こるかわからない不安がある。東京五輪が、コロナ対策の壮大な実験場として世界に注視されるようでは切ない。変異ウイルスを甘く見て、大会と医療が大混乱に陥るようなことがあったら、まず菅政権はもたない。

安倍前首相と二階幹事長はそんな最悪のケースまで想定したうえで菅続投の未来図を描いているのだろうか。コロナ楽観論に浸りきり、議連、議連と騒いでいるように見えて仕方がない。

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