MAG2 NEWS MENU

中国・習近平「軍部完全掌握」のウソと本当。軍事専門家が指摘する意外な事実

7月1日、創立100周年を迎えた中国共産党の式典で、習近平国家主席(党総書記)は一党支配の正当性を主張し、諸外国からの批判や圧力に屈しない強い姿勢を内外にアピールしました。強気を貫くことができる一因として、軍部を完全に掌握していることが上げられていますが、掌握の時期については諸説あるようです。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する小川和久さんは、過去の軍事パレードの陣容とその前後の人事から、日本のメディアで紹介された2018年説よりも前であるとの見解を示しています。

習近平はいつ軍を掌握したか

7月1日、中国共産党が創立100周年を迎えました。北京の天安門広場では盛大な式典が行われ、習近平国家主席は、7万人をマスクなしで集め、コロナ対策の成功を内外に印象づけるとともに、共産党と自らの実績を強調し、異例とも言える激しい言葉で外国からの圧力に徹底的に対抗していく姿勢を示しました。

この習近平氏の強硬姿勢を支えているのは軍部を掌握したことへの自信で、それは2018年頃に達成されたとする中国専門家の見解もメディアで紹介されました。習近平氏がいつ軍部を掌握したかについては、様々な見方が可能ですが、ここでは日本で紹介されていない指標を通して眺めてみたいと思います。

その第1は2015年9月3日の軍事パレードです。「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」を記念する大規模なものでした。ここで世界の軍事専門家は次の2点に注目しました。

ひとつは、それまで軍事パレードに参加したことのない将軍や提督を行進の先頭に立たせたことです。このときの軍事パレードでは行進部隊の最前列に陸・海・空軍、第2砲兵(戦略ミサイル部隊)、武装警察の中将を5人、横一線に並んだオープンカーの上に立たせたのです。いまひとつは、それぞれの部隊の先頭車両に乗った指揮官を、部隊ごとに大画面に映し出したことです。2人並んだ右側が本来の部隊指揮官、左側が同じ階級の政治委員です。

中国人民解放軍の部隊には、例えば陸軍では連隊以上の部隊、海軍では主要戦闘艦艇に「二人の指揮官」が配属されていて、共産党中央軍事委員会の統制のもとにある政治委員の承認なしには部隊を動かすことができないようになっているのです。中国共産党流の『シビリアン・コントロール』が貫徹されているわけで、これも軍を掌握している証明でもあります。このように、2015年9月3日の軍事パレードは習近平氏が軍を掌握し終わったことを内外にアピールするよう構成されていたのです。

第2の指標は習近平氏の「盟友」が任務を達成して第1線から退いたことです。軍事パレードから4カ月近く経った2015年12月31日、人民解放軍で総後勤部の政治委員を務めてきた劉源上将(大将)の退役が発表されました。

劉氏は劉少奇元国家主席の息子で、習近平氏とは幼なじみの間柄でもあります。対米・対日最強硬派として知られる一方、習氏の盟友として、特に汚職摘発を通じて共産党と軍内部ににらみをきかせてきました。2012年11月の共産党総書記就任以来、習氏は共産党内に蔓延した汚職の摘発を一気に進め、これによって政敵の勢力を殺いできました。むろん、汚職摘発の対象は軍も例外ではなく、郭伯雄と徐才厚という共産党中央軍事委員会の二人の副主席(ともに上将)を摘発したのは周知の通りです。

軍改革についても、人民解放軍のあらゆる権限を握ってきた巨大な陸軍との正面衝突を避け、軍近代化の大義名分のもとに海空軍と第2砲兵の勢力を徐々に拡大する路線をとり、成功に導きました。その直後、第2砲兵はロケット軍という名で陸海空軍と並ぶ位置に昇格します。

劉氏の退役は、習氏による汚職摘発と軍改革が一段落したことを示している面があるのです。このように、軍事パレードが内外にアピールしたものと劉氏の退役を併せ読むと、習氏の軍掌握が2015年だったことが、紛れもない事実として迫ってくるのです。(小川和久)

image by:Gil Corzo / Shutterstock.com

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け