MAG2 NEWS MENU

ユニクロと日本経済を欧米が狙い撃ち。ウイグル「新疆綿」停止が分断する世界市場

中国の新疆ウイグル自治区に対する人権問題に端を発した「新疆綿」の使用禁止は、日本の衣料品大手ユニクロや無印良品だけでなく、国内の多くの衣料品メーカーに大きな影響を与えました。中国と欧米との間にできた「分断」の溝を前に、日本経済はどのような方向を目指せば良いのでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、過去の「新疆綿」使用禁止と海外で起きている動きを紹介するとともに、日本経済が目指すべき「生き方」を示しています。

【関連】ユニクロ、ウイグル問題に無言の卑怯。中国「新疆綿」禁輸の前に日本がすべきこと

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

新疆(ウイグル)綿を巡る世界市場の分断

1.「新疆綿」使用停止で中国が猛反発

持続可能な綿花栽培を促進する「ベター・コットン・イニシアティブ(BCI)」は、2020年10月、人権への懸念を理由に2020/21年シーズンの新疆綿承認を停止すると表明した。当然、BCIメンバーである、H&M、バーバリー、アディダス、ナイキ、ニューバランス等も新疆綿は使用できない。

H&Mは3月24日、微博に「H&Mグループの新疆デューディリジェンスに関する声明」を投稿した。この中で、「H&Mグループは民間社会組織の報告とメディアの報道に深く関心を示しており、新疆ウイグル自治区の少数民族の『強制労働』と『宗教差別』を非難し、新疆にあるどのアパレル製造工場とも協力せず、同地区から商品と原材料も仕入れない」とした。

これに対し、中国側は官民を上げて猛反発した。オンラインストアから商品が消え、一部の地図アプリから店舗表記がなくなった。また、市民もH&Mの不買運動を起こし、店舗の一部は閉店を余儀なくされた。

2.新疆綿使用で西側諸国から告発

新疆綿は繊維長が長い「超長綿」で、色が白く、しかも価格も比較的安価だ。新疆の綿花生産量は、中国全体の約8割を占めている。

日本の衣料品は97%が輸入で、うち中国製品が7割を占めている。中国生産の綿製品の生地は、ほとんどが中国での現地調達だ。

世間ではユニクロ、無印良品だけが話題になっているが、実は、イオン、セブン&アイ、ニトリ、カインズなども、大量の中国製品を扱っている。コットンのアパレル、寝具、インテリア、雑貨等のほとんどに新疆綿が使われている。

2021年1月、米税関・国境警備局は、ユニクロの綿製品を「中国・新疆ウイグル自治区産の綿を使った製品に対する米国の輸入禁止措置に違反した」として、輸入差し止めとした。

更に、2021年7月にはフランス検察は、新疆ウイグルの強制労働の「人道に対する罪」の隠匿容疑で告発を受けたとして、捜査の開始を発表した。捜査対象は、日本の「ユニクロ」、スペインの「ZARA」、フランスの「SMCP」、米国の「スケッチャーズ」である。

このように、「新疆綿を使用停止」と言えば中国市場で激しい抵抗にあい、「新疆綿を使用」すると西側先進国から告発される。まさに、世界市場は分断されているのだ。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

3.自国経済に影響のない制裁を行う

他国を経済制裁する時には、自国の被害を最小限度に抑える。中国製品を全面的に禁輸にすれば、たちまち経済が混乱する国は少なくない。

米中両国は厳しく対立しているが、この4月には両国の貿易額は397億ドル(約4兆2600億円)となり、前月比43%近く増加した。中国は米国の貿易相手国としてメキシコ、カナダを抜いて最大となった。この貿易額急増は、中国が米国からの農産物などの輸入急拡大を約束した貿易合意が1月に調印されたのを受けたものだ。つまり、米中は対立しながら、貿易を続けているのである。

今回の新疆綿問題も、あくまで新疆ウイグル地区の綿花を使った綿製品やトマトに限定している。米国は新疆綿製品を輸入禁止にしており、その米国に輸入禁止製品を輸出しようとして、税関で止められるのは当然である。

また、米国は綿産国であり、中国の綿花に依存していない。新疆綿の製品を輸入禁止にすれば、むしろ米国産の綿花の需要が拡大するだろう。

ウイグル地区で生産している太陽光パネルの原料については触れないし、刑務所等の強制労働で生産されているイルミネーションようLEDについてもノータッチだ。これらの製品は代替えが効かないから、目をつぶっているのだ。

EU諸国は、トルコやインドからの綿製品が主流なので、こちらも新疆綿の輸入禁止は問題ない。

うがった見方をすれば、新疆綿を使った綿製品の制限は、中国だけでなく日本経済に対してもダメージを与えたいということかもしれない。米国もEUも日本経済を弱体化させたいのだから。

4.米国、中国共に日本経済を敵視している

最早、世界中の国々が自由に貿易できるというグローバル時代は終了してしまった。

中国はビジネス戦や貿易戦も想定した「超限戦」を展開した。それを証明したのが、マスクや防護服の輸出禁止だった。

そもそも日本企業は中国政府や中国企業に踊らされてきた。中国ビジネスは儲かると信じさせ、実態は様々な障壁や法律の壁が存在し、儲けられなかった。最終的に生産設備とノウハウを全て中国企業に渡し、撤退した企業も多いし、日本国内のビジネスで蓄えた資産を中国で失った企業も多い。

米国のトランプ元大統領は、「アメリカファースト」を掲げたが、それ以前も、常に米国は日本経済を制限し、打撃を与えてきた。

終戦後、日本には独自の飛行機を開発させなかったし、米国製の兵器を売りつけられた。

繊維、家電、半導体、自動車等で貿易摩擦を起こし、米国の双子の赤字を解消するために、円高ドル安に誘導された。

それでも、常に日本は米国債を買い続け、ドルを大量に蓄えてきた。最終的には、日本経済の強みだった、終身雇用や年功序列、護送船団方式、株の持ち合い等に対して、次々とルール変更を強制してきたのである。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

5.世界第三位の国の生き方 

それでも、日本は世界第三位の経済大国の地位を保っている。次々と主役となる産業が変化し、製造拠点は海外に移転したが、特殊な素材や部品、加工技術を維持することで、グローバルサプライチェーンの中で確固とした位置を占めることができたのである。

一位の米国と二位の中国は覇権を争っている。どちらの国も日本を見方につけたいはずだ。そして、三位の日本は安全保障では米国に、経済では中国に依存している。このバランスの中で我々は生きているのである。

これまで三カ国のバランスは比較的安定していたが、中国が自信をつけ、正面から米国に対抗するようになって壊れてしまった。

現在の状況はある意味で戦争状態であり、これまでの平時モードでは対応できない。常に周囲の状況を見ながら、変化に対応し、駆け引きしなければならない。

その意味で、ユニクロはあまりにも無警戒だった。無邪気にも中国の綿製品を米国に輸出したのだから。

ユニクロは中国生産に大きく依存している。そして、中国・韓国・日本市場、米国市場、欧州市場にも進出している。今後は、グローバルサプライチェーンではなく、欧米とアジアにそれぞれのサプライチェーンを構築する必要があるかもしれない。

とりあえず、綿花~紡績~織布のオペレーションの組み替えも必要だが、日本の綿紡績との連携により解決できるのではないか。

ASEAN、インドは、生産国としても、市場としても重要になっていく。脱中国を図りながら、更なる成長を期待したいものだ。

■編集後記「締めの都々逸」

「大国同士に 挟まれながら 独立独歩で 生きていく」

2021年、世界は戦時体制に移行するのではないか、と思っています。グローバリズムは、自由競争と法令遵守がなければ成立しません。中国はグローバリズムの恩恵を受けたのに、自らグローバリズムを破壊しようとしています。中国が考えるグローバリズムは、中国が支配する世界です。

結局、「グローバリズムはプロパガンダだったんだな」と、今では思っています。事実、日本はグローバリズムを推進して貧しくなり、中国は豊かになりました。

当たり前ですが、あらゆる国、組織、個人は、自らの利益を追求しています。その中で、日本人は少し特殊なのかもしれません。相手の気持ちを推しはかり、自分を犠牲にすることさえあります。これが利用されます。

平和な時代は良い人でいられますが、戦時ではダメです。あらゆることを徹底的に疑って、隙を見せてはいけない時代なのです。(坂口昌章)

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

image by: Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表)この著者の記事一覧

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 j-fashion journal 』

【著者】 坂口昌章(シナジープランニング代表) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け