中国の習近平国家主席は、共産党創立100年の記念式典で台湾の統一を歴史的任務と表明し、野心を隠しませんでした。しかし6月24日掲載の米軍制服組トップが「台湾有事」見解表明。軍事アナリストはどう見たか?にあるように、現状は軍事力のみで統一できる可能性はないようです。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』で軍事アナリストの小川和久さんが警戒すべきと主張するのは、ロシアによるクリミア併合のような“ハイブリッド戦”。そうした動きに常に目を光らせていると政治家が表明することの重要性も訴え続けていて、麻生副総理の「台湾有事は存立危機事態」発言に喝采を叫んでいます。
麻生太郎、グッジョブ!
中国が台湾に武力侵攻を図る可能性は、現在の能力からして不可能というのは、これまでにも述べてきたとおりです。6月17日には、米軍のトップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長も米議会上院歳出委員会で次のように述べています。
「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」
ただ、懸念されるのはハイブリッド戦です。ハイブリッド戦は、軍事力を含む「何でもあり」の戦法で、人民解放軍の喬良、王湘穂両大佐が1999年に出版した『超限戦』に起源をもつとされ、政治、経済、宗教、心理、文化、思想など社会を構成する全ての要素を兵器化する考えです。
中国はこれを2003年、輿論戦、法律戦、心理戦の三戦として『人民解放軍政治工作条例』に採用しました。「砲煙の上がらない戦争」の別名の通り、超限戦と古代中国の戦略の書『孫子』を融合し、戦火を交えずに勝利しようとする高等戦術です。これを米軍は2008年にハイブリッド脅威と位置づけています。2014年のクリミア半島で、所属不明の武装集団が士気の低いウクライナ軍を駆逐し、ロシア寄り住民の支持のもと、ロシア併合が無血で実行されたのは記憶に新しいところです。
台湾や日本の尖閣諸島などは、既にこのようなハイブリッド戦や三戦の渦中にあると考えてよいでしょう。これを抑止するために、私は次のような提案をしてきました。
まず、ハイブリッド戦と思われるあらゆる兆候について台湾は米国と日本に通報するシステムを構築する。次いで、日米両国は「台湾有事は日本有事と重なる」との認識を明らかにし、台湾からの通報があり次第、国境付近に軍事力を緊急展開する態勢を整える。そして、その日米台の連携を世界に公表するのです。これによって、中国にハイブリッド戦を躊躇わせる抑止効果は一気に高まるでしょう。
特に大事なのは、日本の政治家がおりに触れて「台湾有事は日本有事と重なる」という認識を示し、備えを怠っていないことを発信し続けることです。中国の抗議にたじろいではなりません。
それを実行してくれた政治家がいます。私は心から喝采を叫びたい気持ちです。
「麻生副総理兼財務相は5日、東京都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合、日本政府が安全保障関連法の定める『存立危機事態』と認定し、限定的な集団的自衛権を行使する可能性があるとの認識を示した。
存立危機事態は、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、明白な危険がある事態と定義される。麻生氏は『(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してくると言って全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾の防衛をしなければならない』と述べた。『香港と同じことが台湾で起きないという保証はない』とも語り、危機感を示した」(6日付読売新聞)
麻生太郎、グッジョブ!(小川和久)
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